金正恩の秘密警察がどうしても止めたい、ある違法行為

金正恩氏(朝鮮中央通信)

「革命家の人生は瞬間瞬間を首領に対する忠誠で心臓を燃やし、良心の鏡に常に自らを映して不断に鞭打たなければならない。きれいな良心を持った人間は、最期の瞬間にも首領に対する道徳、義理を抱いて死ぬものだ。もちろん、人は肉体的に老いることもある。しかし、精神道徳的に老いてはならない。最期の瞬間まで真の忠臣、道徳的人間として生かせる源泉は良心だ」

「表では首領を崇めるふりをして裏では向きを変えて別のことを考えている同床異夢は、終了に対する道徳、義理に背く反党的、反革命的行為で、そのような者どもは厳しい裁きを避けられないだろう」

これは北朝鮮の朝鮮労働党機関紙・労働新聞が先月30日に「良心は人間の道徳的風貌を規定する尺度」というタイトルで掲載した署名入り論説記事の一部だ。

様々に解釈しうる内容だが、国内でのたるみが深刻化していることへの戒めと受け取ることもできるだろう。実際、当局の焦りが感じられる出来事が、中国との国境地帯に面した両江道(リャンガンド)で起きている。

道庁所在地の恵山(ヘサン)で先月26日、住民を対象にした政治講演会が行われた。これは、党の方針を住民に伝えるためのもので、頻繁に行われている。

講演の内容は、地域住民は中国や韓国と携帯電話で通話したり、送金を受け取ったり、川を渡って中国に行ったりしているが、これらはすべて反革命行為で厳しく取り締まるといった内容のものだ。

「恵山など国境地域の複数の場所で外部と内通する事件が頻発している。南朝鮮(韓国)や中国にいる親戚と通話し、カネを受け取り使う行為は反革命的行為だ」

「他から密かに引き入れた外部の人員を数日間、家に泊め、中国に送り出すことも頻発している。外部の人員が出入りしているのを見かけても通報しない者も処罰の対象となる」

よくある内容の講演だが、この日壇上に立ったのが、恵山市と普天(ポチョン)郡を管轄する保衛部(秘密警察)の副部長だったということは注目に値する。

郡の保衛部副部長は地域の情報機関の最高クラスの幹部で、そのような人物が一般住民に講演を行うのは極めて異例だ。当局が情報の流出、流入、脱北、密輸を深刻に捉えている表れと言えよう。

「表面的には送金を受け取ったり通話をしたりすることが問題であるかのように指摘しているが、実際はその過程で国内情報が流出したり、国外情報が流入する現象を遮断したいというのが、講演の主な目的と思われる」(情報筋)

同時に、保衛員(秘密警察)が、通話や送金を見逃す見返りにワイロを要求することが多く、上官として責任回避のために講演を行ったという見方も可能だ。

この地域には、密輸で生計を立てている人や、脱北して韓国に住む家族から送金を受け取り、そのカネで商売を営む人が少なからず存在する。保衛部はそんな彼らのケツ持ちで収入を得てきた。

(参考記事:脱北計画で逮捕された北朝鮮女性、多額のワイロを払い釈放

講演では、中国に幻想を持ち川を渡って数カ月後に戻った人を通報した19歳の青年の事例を紹介し、通報を奨励した。

「犯罪者は一人二人の裁判官より、大衆の目をもっと怖がる。住民すべてが革命的警戒心を持って通報が滝のように殺到するようにしよう」

保安員や保衛員に密告したらそれなりの報奨は得られるのかもしれないが、地域住民からは「隣人を売った」と白眼視されるだろう。いや、それだけでは済まないかもしれない。

例えば、兵役で保衛小隊に勤務していたことがバレると、袋叩きにされたり、暴力を振るわれたりすることがあるほどだ。それもそのはず。北朝鮮の警察官は取り締まりの権限を振りかざし、庶民からワイロを搾り取ることを生業としている。要求に応じなければ様々な言いがかりをつけて逮捕し、刑務所送りにすることもある。

(参考記事:濡れ衣の女性に性暴行も…悪徳警察官「報復殺人」で70人死亡

今年4月、労働鍛練隊(軽犯罪者を収容する刑務所)で受刑した経験を持つ若者が、自分に暴力を振るっていた40代の男性指導員を殺害する事件が起きたが、そのニュースを聞いた受刑者が拍手喝采を送っているという。

(参考記事:「前科者から英雄が出た」反権力殺人に喝さい送る北朝鮮国民