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金正恩氏の留守中に「うっかりミス」した軍将校の最悪な運命

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
白頭山の金正恩氏(平壌写真共同取材団)

北朝鮮の金正恩党委員長はベトナム・ハノイでの米朝首脳会談のために、先月23日から今月5日まで、北朝鮮の最高指導者としては異例の長期に渡り、首都・平壌を留守にした。恐怖政治で鉄の統制を強いている同国の体制も、国内には常に不満がくすぶっていることを知っており、クーデターなどを恐れ、長く国を離れようとはしてこなかったのだ。

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それだけに、金正恩氏の外遊時には厳戒態勢が敷かれていたはずだが、そんな最中、朝鮮人民軍(北朝鮮軍)の空軍基地で大規模火災が発生したと、現地のデイリーNK内部情報筋が伝えた。

原因は、飛行機の整備を担当する少佐の落ち度による失火であることが判明したとのことだが、金正恩氏の不在時に起きたことを重く見た上層部は、綿密な調査のために最高司令部軍事規律検閲組を派遣した。少佐には銃殺などの厳罰が下されるものと思われる。

(参考記事:「死刑囚は体が半分なくなった」北朝鮮、公開処刑の生々しい実態

北朝鮮では、たとえ故意ではなくても、重要施設が火災により重大なダメージを負った場合、責任者が重罰に問われることがある。昨年8月中旬に北朝鮮の国営放送・朝鮮中央放送の社屋で起きた火災では、複数の責任者が処刑されたとの情報がある。

大規模火災が発生したのは、東海岸の咸鏡南道(ハムギョンナムド)咸興(ハムン)市から北東に10キロに位置する、徳山(トクサン)飛行場だ。同飛行場には、空軍の第2航空師団本部が置かれている。

火災は、金正恩氏が平壌を発って約7時間後の先月24日午前2時ごろに発生した。その直後の午前2時10分、「最高司令部命令第6xxx号」が総参謀部に発令された。

最高司令部は戦時に設置、運営される組織だ。平時には朝鮮人民軍総参謀部作戦局(2処)が、最高司令官(金正恩氏)の命令執行に必要な実務を担当する最高司令部処の機能を果たしている。

また、総参謀部6処は空軍作戦を担当していることを考えると、第6xxx号という命令の番号は、総参謀部作戦局が6処に対して下したものと推測される。

空軍司令部は、飛行場の状態の把握を行い、最悪の場合には装備を平安北道(ピョンアンブクト)の价川(ケチョン)飛行場に退避させるよう指示した。

徳山航空司令部責任イルクン(幹部)は、火災発生直後に現場に到着し原因の把握に当たった。平壌郊外の中和(チュンファ)にある朝鮮人民軍空軍司令部の責任イルクン(幹部)、総参謀部作戦局、訓練局など関係部署の指揮官も、空軍のヘリコプター2機に分乗して現場に急行した。

近年の朝鮮人民軍においては、このような極めて迅速な対応自体が異例のものだとされる。金正恩氏が国を留守にしている間、軍がいかに緊張感を持っていたかを示すものと言えよう。

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デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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