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北朝鮮「美女ぼったくり」カラオケ店に閉鎖命令

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
金正恩夫妻とモランボン楽団(朝鮮中央通信)

北朝鮮当局が首都・平壌だけに残っていたカラオケ店を閉鎖する措置を取ったと、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。

最近中国を訪れた平壌の情報筋は「今年になってから、市内のカラオケ店が当局の指示で閉鎖された」と述べた。しかし、その理由はいまひとつハッキリしない。

アイドル並みの美女

その背景について様々な噂が飛び交っているが、その一つが「暴力事件が頻発している」というものだ。また、当局が繰り広げている「非社会主義現象」に対する取り締まりと関係があるのではないかという見方もある。カラオケ店そのものが、社会主義にそぐわない文化というのだ。

実際、金正日総書記が2011年9月、カラオケ店を「資本主義遊び人文化」と批判したことを受けて、当局は平壌を除く全国のカラオケ店を閉鎖させている。咸鏡北道(ハムギョンブクト)の情報筋は、「カラオケ店が儲かる」と聞きつけた人々が巨額の投資をしてカラオケ店を開いたものの、閉鎖させられて大損したが、7年後に平壌でも同じことが起きていると述べた。

別の平壌の情報筋は、「一部の上流階級は自宅にカラオケ機器を導入して、旧正月などのお祝いの日に家族や親戚を集めてカラオケパーティーを楽しんでいるが、今回のカラオケ店閉鎖措置に伴い、個人所有のカラオケ機器も没収されるかもしれない」と見ている。

(参考記事:北朝鮮「金持ち女性」たちの密かな楽しみ…お国の指示もそっちのけ

昨年、平壌を訪問した際に北朝鮮の業者からカラオケ接待を受けたと語る中国朝鮮族のビジネスマンは「その時点でも平壌にあまり外国人がおらず、カラオケ店は儲かっていないようだった」「当局は外貨稼ぎにならないカラオケ店を放置すれば、資本主義遊び人文化が広がることを懸念したようだ」と述べた。

RFAは昨年3月、平壌を頻繁に訪れる中国人ビジネスマンの話として「平壌のカラオケ店は中国にあるものと比べて施設面で遜色がない」「20代の若い女性がデュエットしてくれて、お酌もしてくれる」としつつも、身体接触は許されていないと報じた。また、ビール1本が10元(約170円)、奉仕料(サービス料)は女性一人あたり100ドル(約1万円)で、ぼったくりだと不満を述べた。

北朝鮮の飲食店といえば、海外のレストランで働く美人ウェイトレスが有名だ。中にはネットでアイドル並みの人気を集めた女性もいたが、もしかしたら国内のカラオケ店にもそのような「スター」がいるのだろうか。

(参考記事:美貌の北朝鮮ウェイトレス、ネットで人気爆発

いずれにしても、奉仕料がいくらだろうが、そのおカネは全額が国家(あるいは外貨稼ぎ機関)に入り、女性たちの手にはほとんど入らないはずだ。ということはつまり、こうしたカラオケ店は「国営ホステスクラブ」ということになり、北朝鮮がことあるごとに「腐りきった文化」と非難する資本主義の日本や韓国にも絶対に存在しえないシロモノだ。

もっとも、金正恩党委員長も父親譲りの「パーティー狂い」だというから、「非社会主義現象」云々も、本質的にはタテマエでしかないのかもしれない。

(参考記事:北朝鮮「秘密パーティーのコンパニオン」に動員される女学生たちの涙

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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