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「ほどほどになさい」…金正恩氏をいさめる妹はどこまで偉くなったか

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
金正恩氏(朝鮮中央通信)

北朝鮮の金正恩党委員長の妹、金与正(キム・ヨジョン)氏の動静が注目されている。

きっかけは、韓国で来月開催の平昌冬季五輪に、北朝鮮が高位代表団を送ると南北が合意したことだ。高位代表団の団長は、誰が務めるのか。韓国メディアは一時、「もしかしたら金与正氏が来るのではないか」と盛り上がった。

普通のトイレはダメ

これは根拠のない憶測、というか期待に過ぎなかったが、そう言いたくなる気持ちは理解できなくもない。金与正氏は、朝鮮労働党で宣伝扇動部副部長の地位にあると言われている。この部署は国内メディアを統括しているため、北朝鮮にとっては対外宣伝の場である五輪に、幹部が派遣されてもおかしくはない。また、金与正氏は昨年10月の党中央委員会総会で、政治局委員候補に選ばれた。高位代表団を率いる資格を備えていると言える。

(参考記事:【写真】金与正氏の存在感が増している

そして22日、韓国紙・中央日報が「金与正氏が党組織指導部の第1副部長に就任したもようだと報じた。情報源は「与党の高位関係者」となっているから、憶測ではなく取材に基づいて書かれた記事だ。続いて25日、こんどは朝鮮日報が情報当局者の話として、「党行政部長に抜擢された可能性がある」と伝えた。

組織指導部の第1副部長も党行政部長も、北朝鮮ではたいへんな要職だ。まだ若干30歳の金与正(キム・ヨジョン)氏が、本当にそこまで昇進したかは今のところ眉唾だ。韓国政府も、「確認された情報はない」という立場だ。

だが、金与正氏がいずれこのレベルの要職に就くのは間違いないだろう。一説に金与正氏は、金正恩氏の「動線」を点検する任務を与えられているとされる。近年、米韓が北朝鮮指導部に対する「斬首作戦」の導入を検討してきた状況がある上に、金正恩氏には一般人と同じトイレを使うこが出来ないという状況もある。そんな条件下で金正恩氏の動きを取り仕切る事ができるのは、やはり信頼できる身内しかいないのかも知れない。

(参考記事:金正恩氏が一般人と同じトイレを使えない訳

また、金正恩氏には「パーティ狂い」の噂もある。ある脱北者の情報によれば、金与正氏は兄に対し、「お酒はほどほどになさい」と言って諫めることもあるという。たしかに、これまで数多くの幹部が些細なことで金正恩氏の逆鱗に触れ、無慈悲に処刑されてきたことを考えれば、実の妹でもなければ恐ろしくて何も言えないだろう。

(参考記事:北朝鮮「秘密パーティーのコンパニオン」に動員される女学生たちの涙

日本の大阪で生まれ育った母を持つ金正恩氏には、血を分けた兄妹以外に頼れる親族はいない。北朝鮮の独裁体制は、金正恩氏と金与正氏の二人三脚で維持されていくことになるのだ。

(参考記事:金正恩と大阪を結ぶ奇しき血脈

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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