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刑務所を孤児院に改造した金正恩体制の「悪趣味な目的」

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
金正恩氏(労働新聞より)

北朝鮮当局が、中朝国境近くの教化所(刑務所)を閉鎖し、コチェビ(ストリート・チルドレン)の収容施設(孤児院)に改造していたことが明らかになった。

金正恩党委員長は孤児院の整備に熱心な姿勢をアピールしているが、その運営実態には様々な問題があることが、北朝鮮内部からの情報で明らかになっている。

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この教化所は、平安北道(ピョンアンブクト)の東林(トンリム)にある「2号教化所」だ。米国の人権団体「北朝鮮人権委員会」(HRNK)が先月発表した、北朝鮮国内の教化所についての報告書でも触れられているが、元収監者の証言が得られていないこともあり、その実態は不明なままだ。

一方で地元のデイリーNK内部情報筋は、同教化所では刑務官による暴行、劣悪な食事、厳しい強制労働で死者が続出していると指摘している。

この教化所が閉鎖されたのは、地域を外国人観光客が多く訪れるためだ。

中朝国境の都市、新義州(シニジュ)から40キロほど内陸に入ったところにある東林は、高麗時代の城跡や風光明媚な景観で知られ、2014年から外国人観光客に開放された。

2号教化所は東林の中心部にほど近いところにあるため、外国人の目に触れ、人権侵害の状況が国外に流出する可能性がある。そのため、当局は2014年に収監者を平安南道(ピョンアンナムド)の价川(ケチョン)にある1号教化所(政治犯収容所の14号管理所とは別の施設)に移送した。

移送先の1号教化所は施設が増設されたとのことだが、衛生環境は劣悪で、食糧も不足し、栄養失調による死亡率が高いことには何ら変わりない。

その後、2号教化所は労働鍛錬隊(軽犯罪者を収監する刑務所)として運営されていたが、2016年に孤児院となった。

金正恩氏は昨年、「道端の放浪児(コチェビ)をなくせ」との指示を下した。それに伴い、道内の駅前、市場、道路で寝泊まりしていた未成年者が昨年から強制収容され、この孤児院に移送された。

当局は地元民に供出させた穀物や古着を孤児院に送り、運営している。そのおかげでコチェビたちはトウモロコシ飯ながらも、1日3食をきちんと食べさせてもらえているという。しかし、教育施設がなく、畑仕事に駆り出されている。

(参考記事:ストリートチルドレンから「半グレ」へ…北朝鮮コチェビの今

情報筋によると、いずれ中朝関係が改善し、中国人観光客が増えれば増加したあかつきには、孤児院をリフォームして観光名所にし、体制のプロパガンダと投資の誘致に利用するという極めて悪趣味としか言えない計画があるという。

北朝鮮では近年、コチェビが成人して徒党を組んで犯罪に走ったり、犯罪組織に取り込まれたりする例が増えていると言われている。

(参考記事:【実録 北朝鮮ヤクザの世界】28歳で頂点に立った伝説の男

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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