北朝鮮女性はこうして「暴力の餌食」になる
かつて、日本の警察は「民事不介入の原則」から夫婦げんかに介入しようとしなかった。そもそも日本社会には、DV(ドメスティック・バイオレンス)が犯罪であるという認識自体が不足していたのだが、DV防止法が制定された2001年を前後して、意識がようやく変わり始めた。
北朝鮮は、朝鮮民主主義人民共和国が成立する以前の1946年7月に男女平等権についての法令を制定した。女性の選挙権、被選挙権、強制結婚の反対、離婚の自由の保障などを定めた、当時としては非常に先進的な法令だった。
それから71年が経ったが、高尚な理想とは裏腹に、北朝鮮女性の地位は低いままだ。今ある法律すら守られず、女性は様々な暴力にさらされ続けている。
(参考記事:北朝鮮女性を苦しめる「マダラス」と呼ばれる性上納行為)
ここでは、北朝鮮の女性がDVに対していかに無力であるかを紹介する。
咸鏡北道(ハムギョンブクト)のデイリーNK内部情報筋によると、道内の会寧(フェリョン)である女性が夫から30分に渡って暴力を受け続ける事件が起きた。見かねた隣人が保安署(警察署)に通報した。
保安員(警察官)がやって来たものの、女性のケガの状態をろくに確認しようともせず、「夫婦げんかは本人が適当に解決せよ」と言い残して帰ってしまったというのだ。女性は夫からさらに暴力を振るわれ、外傷性ストレス症候群(トラウマ)のせいで病院に運ばれてしまった。
この事件について知っている道内の別の情報筋も、保安員は「暴力はやめなさい」と言うだけで、処罰を含めた積極的な対処は一切行わなかったと述べている。
近隣住民の間からは「保安署はなぜ何もしないのか」と非難する声が上がっているが、保安署は「夫婦げんかに良い対処法はない」と責任逃れに汲々としている。
当然のことではあるが、北朝鮮においても暴行はれっきとした犯罪だ。2012年に改正された刑法は、人に暴力をふるった者は、最高で2年の懲役刑に処すと定めている。
40代の脱北女性によると、夫が妻に暴力をふるえば、労働鍛錬隊(軽犯罪者を収容する刑務所)送りにされることがあるという。しかし、数カ月もすれば出てくるので、あまり意味はなく、逆恨みによる報復を招きかねない。
そのような現実があるにもかかわらず、保安員が何もしようとしないのは、単に一銭の得にもならないからだ。保安員は、法を悪用し市民に言いがかりをつけるなどして、ワイロを巻き上げて生活している。
(参考記事:性暴行に恐喝…金正恩氏「治安部隊」の悪行三昧)
今回のケースでは、妻が保安員にワイロをつかませ「夫をなんとかしてほしい」と頼み込んでいたならば、保安員は何らかの措置を取っていたかもしれない。保安員が「階級章をつけた商売人」と呼ばれる所以だが、これではヤクザと変わりない。
保安員にも言い分はある。国から支給される給料だけでは到底暮らしていけないから、しかたなくやっているというものだ。
高い理想を掲げつつも、現実とはあまりにもかけ離れているのが北朝鮮の現状なのだ。
(参考記事:美貌の女性の歯を抜いて…崔龍海の極悪性スキャンダル)