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「庶民のことも考えろ!」核実験に北朝鮮国民の不満も爆発

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
金正恩氏(朝鮮中央通信)

北朝鮮が3日に行った核実験で、中国吉林省延辺朝鮮族自治州の延吉、図們、琿春や、遼寧省の丹東など、北朝鮮との国境に近い地域を激しい揺れが襲った。

揺れは、北朝鮮国内の各地でも感じられ、多くの人が恐怖に震えたようだ。

大量死亡事故も

両江道(リャンガンド)のデイリーNK内部情報筋によると、恵山(ヘサン)市内の馬山洞(マサンドン)に住む人が自宅で寝ていたところ、激しい揺れに襲われた。天井が揺れ、壁が崩れたが、すんでのところで助かった。この人は、特別重大報道を見て揺れが核実験によるものであることを知り、怒り心頭だったという。

北朝鮮の庶民の間ではもともと、核実験やミサイル実験への関心は低い。

しかし今回の核実験による揺れについては「死にそうになった」「国と人民のことを考える指導者だったら、まずは市民を避難させるべきではないか」などと不満が吹き出している。

(参考記事:「米軍が金正恩を爆撃してくれれば」北朝鮮庶民の毒舌が止まらない

咸鏡北道(ハムギョンブクト)の情報筋も、会寧(フェリョン)市仁渓里(インゲリ)で住宅の壁にヒビが入り、瓦が落下するなどの被害が発生したと説明する。「もっと大きな揺れだったら、家が崩れて死んでたかもしれない」と口々に語っているという。

そして情報筋は、「核大国の地位に登りつめたと騒ぎ立てたのは随分昔のことなのに、まだ核実験をするのか」「何をしようが興味はないが、今からでも核実験に使うカネを人民生活の向上に使ってほしい」などと当局に対する不満を並べた。

この辺が、北朝鮮の独裁国家たる所以だ。金正恩党委員長は愛車からトイレまで自分専用の特別なものを確保し、身の安全と快適さを確保している。

(参考記事:金正恩氏が一般人と同じトイレを使えない訳

それなのに、庶民の安全は一顧だにしない。そのため北朝鮮では、人災を通り越して犯罪的な失政のせいで、大量死亡事故が繰り返し起きている。

同道内の別の情報筋は米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)に対し、核実験ではなく大地震だと思ってマンションの住民が一斉に避難したという。それもそのはず、恵山では2007年と2011年にマンションが崩壊し、多数の死傷者が発生しているからだ。

さらに別の情報筋も、今回の核実験がマンションの崩壊を引き起こすおそれがあるため、清津(チョンジン)市の幹部も肝を冷やしているという。核実験場に近い吉州(キルチュ)などでは、マンションの基礎に亀裂が入り、住民は怯えているとのことだ。

このような事態を受けて北朝鮮当局は4日、主要都市に対して古いマンションや増築したマンションの安全点検を行うよう指示した。しかし、点検を行ったところできちんとした補修がなされない限り、建物の崩壊は免れないだろう。

(参考記事:北朝鮮、橋崩壊で「500人死亡」現場の地獄絵図

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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