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金正恩氏の「ポンコツ軍隊」が恐怖で緊張している

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
金正恩氏

北朝鮮が弾道ミサイルの発射実験を繰り返し、新たな核実験の実施も示唆する中、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)は26日、中国の人民解放軍が、中朝国境に面した吉林省長白朝鮮族自治県に「特殊火力部隊を秘密裏に配置している」と伝えた。

「性上納」が横行

両江道(リャンガンド)の情報筋がRFAに語ったところによると、人民解放軍は昨年から両江道の恵山(ヘサン)と川を挟んで向かい合う長白県の馬鹿溝に旅団級の軍部隊を配置し始めた。衛星写真を見ると、村の北にある谷に沿って、何らかの工事が行われているのがわかるという。

これを受けて北朝鮮当局は今年初め、両江道保衛局(秘密警察)、朝鮮人民軍(北朝鮮軍)第10軍団、国境警備隊第25旅団の特殊要員を派遣し、馬鹿溝に駐屯している部隊の規模や武装状態を偵察させた。

情報筋は、朝鮮労働党両江道委員会の民防衛部の関係者の話として、馬鹿溝に駐屯している人民解放軍部隊の元々の所属や兵科はわからなかったが、対空ミサイルを保有していることから考えると、一般の歩兵部隊ではないはずだと伝えた。

別の情報筋によると、北朝鮮当局は、中朝国境地帯での人民解放軍の動きに非常に緊張している。それもそのはずである。朝鮮人民軍では人事などを巡ってワイロが乱れ飛び、女性兵士に対しては「マダラス」と呼ばれる性上納の強要が横行している。軍紀も何も、あったものではなく、精強な人民解放軍の圧力に耐えられるはずがない。

(参考記事:北朝鮮女性を苦しめる「マダラス」と呼ばれる性上納行為

そもそも、北朝鮮で最も飢えているのは軍隊だと言われており、とても戦争どころではないのが本当のところなのだ。

(参考記事:金正恩氏の「ポンコツ軍隊」は米軍に撃たれる前に「腹が減って」全滅する

そこで、今年の北朝鮮はひどい日照りに苦しめられているにもかかわらず、当局は鴨緑江と豆満江の貯水池の水を絶対に放水するなとの指示を下した。それは、貯水池が農業目的ではなく、侵略防御を目的にして作られたからだ。

貯水池は、中国との関係が悪化していた文化大革命の時代、金日成主席の指示で作られたものだ。万が一、中国が攻め込んできたら放水し、流域の町や村ごと水で押し流してしまおうという恐るべき計画だ。それを知っている中国は、自国側に被害が出ることを恐れ、北朝鮮に下手に手を出せないだろうと情報筋は述べた。

昨年来、中朝国境地帯では中国人民解放軍の新規配備、増派の噂が飛び交い、ネットを通じて北朝鮮にまで拡散している。中国政府は「デマだ」として打ち消しに乗り出したが、軍の動きについて一切明らかにしないため、地域住民の不安を消し去るには至っていない。

(参考記事:「中国軍が攻めてくるらしい」北朝鮮国民を包む不安

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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