拷問と身代金ビジネスが横行…金正恩体制の「腐食」はここから始まる
北朝鮮の秘密警察である国家保衛省(以下、保衛省)が、金正恩党委員長が下した指示を利用して、カネ儲けに勤しんでいるという。本来は独裁体制の維持を目的とする保衛省だが、もはやカネだけが目当てではないかと思うほどだ。
女子大生を拷問
咸鏡北道(ハムギョンブクト)のデイリーNK内部情報筋によると、会寧(フェリョン)市の保衛局が最近、国境地帯で大々的な取り締まりを行っているという。脱北行為を徹底的に取り締まるべしとした、金正恩党委員長の指示に基づくものだ。
これによって逮捕される人も増加したが、ワイロを積んで釈放される人も少なくないとのことだ。ある男性は、脱北幇助の容疑で道の保衛局に逮捕された。どうやら、脱北に成功して5月に中国の瀋陽で逮捕され、北朝鮮に強制送還された20代女性が、この男性がブローカーであると無理やり証言させられたようだ。
保衛局は、容疑を否認した男性に拷問を加えた。北朝鮮の治安当局は、取り調べの過程ですさまじい拷問を加えることで知られている。ある女子大生は、ささいなことで過酷な拷問を加えられ、悲劇的な末路に追い込まれた。
(参考記事:北朝鮮の女子大生が拷問に耐えきれず選んだ道とは…)
男性は拷問されただけでなく、無期懲役にすると脅された。そのうえで「カネを払えば釈放してやろう」と持ちかけられ、2万元(約33万6000円)を払わされたという。男性はワイロのおかげで1ヶ月で釈放された。
情報筋は、保衛局は、最初から無理やりカネをむしり取る目的でこの男性を逮捕し、「誘導案内罪」という刑法に存在しない罪を着せようとしたと指摘する。情報筋は男性の素性に触れていないが、比較的裕福なトンジュ(金主、新興富裕層)と見られる。早い話が、権力をかさに着た身代金ビジネスだ。このように金正恩氏の指示を悪用して、カネ儲けをするのは北朝鮮治安当局の常套手段だ。
(参考記事:口に砂利を詰め顔面を串刺し…金正恩「拷問部隊」の恐喝ビジネス)
妻子巻き添え報復殺人
一方、金正恩氏は、国民が中国キャリアの携帯電話で韓国など国外と通話することを厳しく取り締まるよう指示を出している。米国の国際マーケティンググループ「We are social」とカナダのIT企業「Hootsuite」が発表した「2017年のデジタル・グローバル・オーバービュー」によると、人口2500万人の北朝鮮で、携帯電話の加入者は370万人を超えたという。この数字は当局の厳しい監視を受ける公認端末のユーザーだが、それとは別に違法に持ち込まれた中国キャリアの携帯電話を使用するユーザーも多い。
中国キャリアの携帯電話の中には当然、スマホも含まれている。スマホならば、LINEやカカオトークなどのアプリをダウンロードでき、それらを使えば文書や写真をはじめ様々なデータをやり取りできる。
通常の携帯電話、いわゆるガラケーに比べて、大容量で様々なデータのやり取りが出来ることを警戒したのか、金正恩氏は「LINEやカカオトークを使う者はスパイとして取り締まれ」との方針を打ち出していたが、保衛省は、こうした指示さえも利用してカネ儲けをしている。
卑劣な手段で悪行を繰り返す治安部隊に対して、北朝鮮の人々もときおり怒りの鉄槌を下す。取り締まりのやり方が過酷だったり、権力をかさに着て執拗にワイロを要求してきた保安員(警官)らが、待ち伏せされて殴打されたり、殺されたりする事件が多発している。なかには家族が巻き添えになる悲劇も起きている。
(参考記事:妻子まで惨殺の悲劇も…北朝鮮で警察官への「報復」相次ぐ)
家族を巻き添えにした報復殺人は決して許されるべきことではないが、それほど治安当局に対する北朝鮮の人々の怒りが大きいということだ。今のところ、金正恩氏による独裁は強固であるように見えるが、このような現状が放置されれば、いずれ体制の腐食につながらないとも限らないだろう。