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薬物中毒・性びん乱の次は「同級生殺人」 北朝鮮の少年少女が暴走中

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
金正恩氏

今年2月、北朝鮮の地方都市にあるエリート校を舞台に、オルム(覚せい剤)を乱用して性行為を行っている少年少女のスキャンダルが持ち上がったことは、本欄でも報告した。

少年少女がそのような行為に走るのは、ひとえに「大人の非行」が影響を与えているためであり、薬物汚染の問題は取り返しのつかない所まで行っているようにも思える。

(参考記事:一家全員、女子中学校までが…北朝鮮の薬物汚染「町内会の前にキメる主婦」

一方、こんどは高校生同士の「三角関係」のもつれかとも思える「同級生殺人事件」の情報が伝わっていた。こちらは事件そのものもさることながら、その後の司法処理の不公正さに注目が集まっているらしい。

両江道のデイリーNK内部情報筋によると、事件が起きたのは昨年10月末のことだ。金正淑高級中学校の3年生だった「ソンジュ」という名前の生徒が、ある女子生徒をめぐって別の男子生徒と口論となり、刃物で刺して殺害したというものだ。

男子生徒は逮捕され、労働教化刑(懲役)6ヶ月の判決を受けた。刑法では、殺人罪は動機や状況により、3年から無期までの労働教化刑に処すと定めていることを考えると、6ヶ月では軽すぎる。そのうえ、この生徒は教化所(刑務所)に収監されてわずか4ヶ月で、病気療養を理由に釈放されてしまった。市民の間からは「間違いなく裏で誰かが糸を引いた」との声が上がっている。

この生徒の父親は、郡の山林経営監督署の監督員、母親は洞事務所(末端の行政機関)の長を務めており、地域での様々な出来事に影響力を行使していることで知られる。両親は息子の刑期を短くするために、道の保衛局(秘密警察)などにワイロを渡すと同時に、圧力をかけたという。

(参考記事:コンドーム着用はゼロ…「売春」と「薬物」で破滅する北朝鮮の女性たち

また、郡の保衛局の反探課(スパイ取り締まり部署)の指導員を務めている、この生徒の義理の兄(姉の夫)も動いたようだ。

生徒は、取り調べ後に送検されるまでの予審の過程で、労働教化刑1年に相応するとされたが、裁判では6ヶ月に減刑された。義兄が「量刑を軽くしてやってほしい」と保衛局の幹部に頼み込んだためだ。また、今年1月には重大な病気があるかのように虚偽の診断書を発行させた。そのおかげで、生徒は2ヶ月間入院し、楽をした上で釈放された。教化所に収監されていたのはわずか4ヶ月だった。

3月中旬に行われた高等中学校の卒業式に、この生徒は何食わぬ顔で出席し、地域住民を憤慨させた。権力を傘にきてカネをむしり取るときには「法と原則」などと云々していた保衛員(義兄)が、自分の義理の弟のことでは法を無視していると情報筋は語った。

被害者の家族は、市場で食料品を売りほそぼそと暮らしているが、加害者の家族はそこにつけこみ、「これ以上騒がなければ、2万元(約32万3000円)相当の姉の夫の家を与えてやっても良い」との条件をつきつけたのだ。

経緯を見守っていた地元住民は「カネと権力のない庶民は、たとえ殺されてもどこにも訴え出ることができない」「法はカネと権力の味方であることが今回の事件で証明された」と不満の声をあげているという。

(参考記事:北朝鮮で少年少女の「薬物中毒」「性びん乱」の大スキャンダル

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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