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金正恩氏は、なぜミサイルに執着するのか…北朝鮮が長距離ミサイル発射を示唆

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
2012年12月12日に発射成功した長距離弾道ミサイル「銀河3号」

北朝鮮が、10月10日前後に長距離弾道ミサイルを発射する可能性が高まってきた。

北朝鮮の国営メディアは14日、同国の宇宙開発局長の発言として、「世界は今後、先軍朝鮮の衛星がわが党中央が決心した時間と場所によって、大地から空高く引き続き打ち上げられるのをはっきりと見ることになるだろう」と、ミサイル発射を示唆した。

これに対して米国務省のカービー報道官は14日のブリーフィングで、「どのような衛星の打ち上げであれ、弾道ミサイル技術を使う以上、決議違反だ」と北朝鮮をけん制した。

今後、国際社会は北朝鮮にプレッシャーを加えるだろうが、それでも中止に追い込むことは並大抵のことではない。そもそも、北朝鮮は10月のミサイル発射を見据えて周到な準備を進めてきており、その兆候は今年5月から既にキャッチされていた。

北朝鮮は5月、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)「北極星1号」の発射に成功した。実験の詳細に関しては不明な点も多く、また北極星1号は、長距離弾道ミサイルではない。しかし、翌月に公開した動画を通じて、金正恩第1書記は、発射の瞬間に「カッコいい!成功だ!大したもんだ!」と大はしゃぎするなど、弾道ミサイルへの執着ぶりをアピールした。

そして、米国ジョンズホプキンス大の北朝鮮分析サイト「38NORTH」は、5月にミサイル発射場「西海衛星発射場」が改修されていることを確認。7月にも、衛星写真の分析結果としてミサイル発射台の改修工事が完了した模様だと発表した。

同発射場は、2012年12月12日に長距離弾道ミサイル「銀河3号」が発射されたミサイル基地だ。韓国軍当局もミサイル発射の兆候については、その都度報告している。

米韓の警戒に便乗するかのように、北朝鮮国連代表部のチャン・イルフン大使は「米国の敵視政策が続く限り、我々が核兵器を廃棄したり、核戦力の役割が変わったりすることはない」と語っていた。

こうした兆候に加えて、金正恩氏には「ミサイルを発射しなければならない」大きな理由がある。

北朝鮮は、朝鮮労働党の創建70周年(10月10日)を目前に控えているが、金正恩としては、なんらかの成果を達成して記念日を大々的に祝うことが不可欠だ。そうしてこそ、自らの権威を高め、権力基盤を強固に出来るからだ。

しかし、金正恩氏は、既に大きなミスを犯している。

先月、北朝鮮と韓国は地雷爆発事件をめぐり対立。軍事衝突の危機は回避されたが、北朝鮮は大きな成果を得られなかった。これは明らかに金正恩氏の判断ミスと言っても過言ではない。

失地挽回のために、国内的に公開処刑などを通じた恐怖政治を強化することで、なんとか乗り切れるかもしれないが、国際的に植え付けられた「金正恩氏は未熟な指導者」「やっぱり北朝鮮軍は戦えない」というイメージをぬぐい去るためには、長距離弾道ミサイルの発射、その後に続く核実験というシナリオしか残されていない。

実際、金正恩氏は南北合意の直後に「和解は、自衛的核抑止力を中枢とする無尽強大な軍事力で成し遂げられた」と述べながら、軍事力の強化を主張している。

しかし、言うまでもなくミサイル発射と核実験によってもたらされるのは、国際社会からの制裁強化しかない。自らの権威を高めるために挑発をして、制裁を受ける。それに反発してまた挑発ーー金正恩氏は、いつまでこの悪循環を続けるつもりなのだろうか。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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