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金正恩氏、中韓の蜜月にジェラシー炸裂…中国が北朝鮮を格下扱い

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
9月2日、朴大統領は習国家主席と首脳会談を行った(韓国大統領府サイトより)

やはりというべきか、中国と北朝鮮の亀裂は、深刻なレベルに達しているようだ。かつては、「血の同盟」と称された中朝関係だが、北朝鮮の核開発や親中派の張成沢に対する無慈悲な粛清と処刑によって、ここ数年は冷え込んでいた。

中朝関係の悪化と裏腹に、中韓関係は日増しに強化されているが、好転の兆しが見えない中朝関係について、金正恩氏は幹部達の前で「爆弾発言」をしたとも伝えられている。

そして今月、中国・北京で行われた抗日戦争勝利70周年記念式典を通じて、中朝韓3カ国の関係がはっきりと浮かび上がってきた。

韓国の朴槿恵(パク・クネ)大統領は、中国の習近平国家主席と、式典前日(9月2日)に首脳会談を行い、北朝鮮の挑発や核開発について協力していくことで合意。一触即発の危機に陥った8月の南北対立、その後の南北合意をめぐる対応について互いに評価した。

一方、北朝鮮は式典に崔龍海(チェ・リョンヘ)氏を代表とする代表団を派遣したが、国営メディアは、代表団が平壌を出発したことを短く伝えるのみ。中国は、北朝鮮の金正恩第一書記を式典に招聘していた。しかしデイリーNK内部情報筋によると、北朝鮮側が中国に無理難題な要求を中国に突きつけたが、拒否されたことから、金正恩氏は訪中しなかったと北朝鮮内部では囁かれている。

式典当日、朴大統領は、ロシアのプーチン大統領を挟んで習近主席から二番目の位置だった。これは、中国がロシアの次に韓国を重視しているというアピールそのものであり、韓国メディアも破格の待遇だったと伝える。一方、崔龍海氏はといえば、朴氏の一列後ろの右端に追いやられた。代表団団長に過ぎないとはいえ、2013年5月には金正恩第一書記の特使として訪中し、習国家主席とも会談したことを考えると、中国の北朝鮮に対する冷遇ぶりは、明らかだった。

北朝鮮に対する冷遇、そして中韓がアピールする親密振りを、金正恩第1書記は、腸が煮えくりかえる思いで見つめているのではなかろうか。

金正恩氏のこうした心境を反映したのか、北朝鮮メディアは、式典終了後に、さっそく中韓を非難。朴大統領に対しては、「南朝鮮執権者」、中国に対しては「その誰か」という表現で批判したが、まるで中国の冷遇に対する意趣返しのようだ。

日増しに深まる中韓の接近と、中朝の深まる亀裂は、北朝鮮をさらに孤立させるだろう。

10月10日に朝鮮労働党70周年を控えており、忠誠心と求心力を最も高めなければならない金正恩体制からすれば、国際舞台での孤立ぶりが露呈したのは大きなダメージだ。求心力を高めるために、金正恩氏は、さらなる恐怖政治で体制を引き締めるかもしれない。そうでなくても、正恩氏は残虐極まりない方法で側近たちを処刑している。

また、焦燥感に駆られた金正恩氏が、国際社会に向けて核実験、もしくは長距離弾道ミサイルの発射などの強硬手段に出てくる恐れもある。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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