反レイシズム運動がターゲットにする嫌韓嫌中(ヘイト)出版と「言論の自由」のきわどい関係

2014年12月、ヘイトデモに抗議する人々。(撮影:島崎ろでぃ)

在特会など「行動する保守」のヘイトスピーチ・デモと対峙してきたカウンター・レイシズムの活動はいま、特定の国および民族集団、あるいは在日外国人など少数者へのバッシングを目的とした出版物(ヘイト出版・ヘイト本)の抑制に向かっているという。

すでに数年前からのことだが、大型書店などに行くと、いわゆる「嫌韓嫌中」本が大量に平積みされている。

メディア業界人の間ですらほとんど認識されていないことだが、韓国の書店にはこの手の「反日」本がまったくと言っていいほど置かれていない。

ならば一体なぜ、日本において「ヘイト本」はこれほどまでに広まってしまったのか。先日、野間易通氏と李策氏を迎え、この問題について話し合う機会を持った。

野間氏は「レイシストをしばき隊」(現・C.R.A.C.)を結成し、新大久保などで行われていた排外デモへのカウンター行動の一翼を担ってきた人物である。また在日韓国人ジャーナリストの李氏は、日本における在日外国人問題だけでなく、雑誌・出版業界の生態にも詳しい。

印象的だった両氏の指摘を、いくつか挙げてみたい。

野間氏はまず、週刊誌などが電車内の吊り広告で、韓国や中国への嫌悪感を煽っている点を問題視していた。ああした週刊誌企画も多くは、読んでみればバランスを取った「オチ」を用意してるものなのだが、雑誌を手に取らない人にとっては、外国のネガティブなイメージだけが強く残ることになるだろう。

一方、李策氏はヘイト出版の内幕について赤裸々に語った。それによると、野間氏の指摘したような「煽り」は雑誌を売るための「見出し主義」に起因しており、あらかじめ決められた筋書きに沿って識者のコメントをはめ込んでいく編集スタイルは、現場の雑誌記者たちからも「東京地検特捜部の調書作りみたいだ」として反発を買っているという。

さらに李氏は、「在日特権」との言葉をタイトルに掲げたムックに執筆した経験を語った。同氏によれば、ムックに参加した書き手のひとりは「こうやって検証してみれば『なんだ在日特権なんか無いじゃないか』ということが分かって、みんな大人になっていく」と話していたという。

しかしその後、現実はそうはならなかった。在日外国人をはじめとするマイノリティーを口汚く罵るヘイト表現が、ネットや出版を飛び出し路上にまであふれたのだ。

その経緯や原因に関する両氏の主張をここで細かく紹介することはできない。ただ、野間氏の次の主張は示唆的だと思った。

「インターネットが普及し始めた1995年から90年代いっぱいぐらいにかけて、ネットの中で『タブーをつくらない』ことにこだわってきたのは、実はリベラルの側やったんです。既得権を持つマスコミは色んなことを隠しているけれども、『ネット言論はそうじゃない、何事も隠さず議論すれば集合知によって正しい結論に近付くんだ』という信念みたいなものがあって、それがしだいにドグマ(教義)化してきた。……ところが実際には、集合知によって差別的な表現が駆逐されるどころか、それに乗っかってくるヤツばっかり。これじゃあマイノリティーが不利になる一方だということを、いいかげん総括せなアカンと思います」

言論や表現の自由は、いうまでもなく尊いものだ。しかしインターネットの出現と普及は、われわれの生活と経済をあらゆる側面から変化させているように、「自由」の意味と作用にさえ影響を与えているのかもしれない。

言論と表現の自由を語る上でも、そうした大きな時代変化を把握しておく必要があるだろう。