大手メディアでは書けない「金正恩氏ロシア訪問」のこれだけの理由
北朝鮮の盧斗哲(ロ・ドゥチョル)内閣副総理と玄英哲(ヒョン・ヨンチョル)人民武力部長が13日、ロシアを訪問するために平壌を出発した。北朝鮮の公式メディア「朝鮮中央通信」によれば、盧副首相は「ロシアー北朝鮮親善の年」の開幕イベントに、玄人民武力部長は第4回国際安全保障会議に出席するという。
両氏のロシア訪問は、5月9日にモスクワで開かれる対独戦勝70周年記念式典への金正恩第1書記の参加に向けた地ならしであるとの見方がある。
今年の初めごろまで、北朝鮮ウォッチャーの中には、金正恩氏がこの式典に参加するためロシアを訪問する可能性は低いとの見る向きが多かった。かくいう筆者も、慎重な見方をしていたひとりである。
「金正恩氏がロシアへ行けない」根拠として挙げていたのは以下の3つだ。
◇訪ロで外交デビューを果たせばただでさえ冷え込んでいる中朝関係がさらに悪化するリスクがある。
◇北朝鮮の最高指導者が35年以上も国際行事に参加していない。
◇記念式典には北朝鮮と対立する国家の大物指導者も招待されており、外交経験のまったくない金正恩氏がいきなり同席するのは危なっかしい――などだった。
しかし、日本の大手メディアが追いきれない北朝鮮とロシアの細かい動きを観察していれば、これらのうちの何点かについて、大きくハードルが下がっていることがわかる。
まず、中朝関係については北朝鮮メディアが日本のネトウヨ並みの嫌中報道を続けており、
正恩氏側(北朝鮮)に、かなりふっきれた雰囲気がうかがえる。またウクライナ情勢をめぐり、米国のオバマ大統領、韓国の朴槿恵大統領、そして日本の安倍首相が式典参加を見送った。
張成沢の処刑をきっかけに中朝関係が悪化したとはいえ、習近平国家主席さえ「大人の対応」をしてくれれば、正恩氏が晴れの外交デビューの舞台で居心地の悪い思いをさせられる恐れが大きく減ったわけだ。
そして何より、ロシアから北朝鮮に対する強力な援護射撃がある。
ロシアは最近、北朝鮮が国連で人権侵害の追及を受けている件と、米韓合同軍事演習に反発している件について、国営メディアを通じて北朝鮮擁護の姿勢を繰り返し表明しているのだ。たとえば旧VOR(ロシアの声=現スプートニク)は米韓合同軍事演習について、ロシア科学アカデミー専門家のこんな主張を載せている。
一方の北朝鮮メディアも、ウクライナを批判したり、ロシアの戦勝式典の意義を精いっぱい持ち上げてみたりと、ロシアへのラブコールを強めている。
そして最後に、ロシアは旧ソビエト時代に北朝鮮に貸したお金をほとんどチャラにすると決めている。
これがなければ初の外遊先で、正恩氏が借金の「取り立て」に遭って赤っ恥をかく可能性があったわけだが、その心配もなくなった。
以上のような理由から、金正恩氏の訪露が実現する可能性は、徐々に高まっていると見ることができるのだ。ただし、式典まで1ヶ月を切ったが北朝鮮から金正恩氏が訪露するという公式発表は一切ない。
はたして金正恩氏の決断はいかに。