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金正恩時代を読み解くキーワードは「飛行機」「サカナ」そして・・・

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

300以上の新スローガン

今月11日、北朝鮮の朝鮮労働党中央委員会、朝鮮労働党中央軍事委員会は、祖国解放70周年と朝鮮労働党創立70周年に際して343もの共同スローガンを発表した

北朝鮮にとってスローガンは、国の方針そのものである。スローガンのトレンドから北朝鮮当局が何を狙って、住民達に何をすり込みたいのかということが見えてくる。北朝鮮国内のあちこちで見られるスローガンに書かれてある「金正日同志」という文字も、最近では「金正恩同志」に書き換えられて掲げてあることが、デイリーNKジャパンの現地情報筋から伝わってきた。

スローガンと言えば、一時期「強盛大国」が目立ったが、最近ではすっかり見られなくなった。スローガン通りなら、3年前の2012年に「強盛大国」になっているはずだが、今の北朝鮮からはとてもそんな様子は見られない。

そのせいか「我が国は強盛大国になった!」という自画自賛もせず、強盛大国というスローガンは見られなくなった。2012年末に飛ばされた長距離弾道ミサイル「銀河3号」とともに宇宙にでも飛んで行ってしまったのだろうか。

「強盛大国」から「キノコ」の国へシフト鮮明

今回、発表されたスローガンには風変わりな新スローガンが見られる。それが「キノコの国」だ。

「キノコ生産を科学化、集約化、工業化して、わが国をキノコの国にしよう!」

「キノコの国」のナゾを解明するために、過去の北朝鮮メディアに登場する象徴的な言葉の数を調べたところ2013年を境に「強盛大国」に代わって「キノコ」という言葉が浮上してきたことが判明。2011年から2014年にかけて「強盛大国」は21→4に急減し、同じ時期に「キノコ」は、0→17に急増していた。

先月10日の労働新聞では、金正恩氏が「キノコ工場」に訪れ上機嫌だった様子を報道している(→タイトル画像)。この「キノコ」のスローガンには全世界のメディアも注目した。イギリスのタブロイド紙「デイリーミラー」は、「金正恩の間抜けなスローガンで途方に暮れる北の人民」と題した記事でスローガンをこき下ろした。米UPIは、「北朝鮮、市民をスローガンで爆撃」。英BBCは「フィッシュ・アンド・マッシュルーム・スローガンを解く」。アラビア語衛星放送アル=アラビーヤは「栄光のキノコ」等々。

金正恩氏が好きな「飛行機」「サカナ」「キノコ」

どうやら金正恩体制は「キノコ」を際立たせようとしているようだ。食糧不足の北朝鮮でキノコ栽培に力を入れようとするのは理解できるが、北朝鮮を「キノコの国」にして何をどうしたいのかは、やっぱりわからない。

キノコだけではない。以前のヤフー個人でも寄稿したが、最近の金正恩氏の動向をみていると、戦闘機や飛行機に並々ならぬ愛着を注いでいることがわかる。また水産工場を頻繁に訪れたり「ナマズ革命」に檄を飛ばすなど「サカナ」に関しても相当コダワリを持っているようだ。

そして、今月5日から開かれた「金正日総書記の誕生日慶祝氷の彫刻祝典」には「ミサイル」「サカナ」に加えてやっぱり「キノコ」も登場した。

「黄金の野」というタイトルの氷の彫刻。右下にキノコが見える。
「黄金の野」というタイトルの氷の彫刻。右下にキノコが見える。

金正恩時代を読み解くキーワードは「飛行機」「サカナ」そして「キノコ」なのかもしれない。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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