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「ちょっと急にプロという言葉が、近づいてきたのかな」ジュニアテニスプレーヤー木下晴結 16歳の現在地

神仁司ITWA国際テニスライター協会メンバー、フォトジャーナリスト
Jr.プロジェクト2期生を卒業した木下(写真右)と伊達さん(写真すべて神 仁司)

 ジャパンウィメンズテニストップ50クラブ(以下JWT50)がプロデュースし、今季新設した大東建託オープン2023に、ジュニアテニスプレーヤーの木下晴結(はゆ)の姿があった。

 大東建託オープン2023(4/17~23、ITC靭テニスセンター、トーナメントディレクター伊達公子氏)は、国際テニス連盟(ITF)主催のW15大会(賞金総額1万5000ドル)で、ITFサーキットの一番下のグレードとなり、プロテニスプレーヤーの登竜門になる大会だ。そこで、16歳の木下は、プロで戦う時に必要なWTAランキングを少しでも上げるために、ジュニアの試合も戦いながら、プロも出場する一般のITF大会にトライしたのだ。木下(WTAランキング659位、大会時)は、左足にテーピングをしてのプレーとなって、100%のコンディションとはいえず、1回戦で敗れた。

 一方、ジュニアとしては、ここ約半年間でさらなる経験を積んで、結果も残してきた木下に話を聞いてみた。

W15大阪大会では、左足にテーピングをしてのプレーとなり、初戦敗退となった
W15大阪大会では、左足にテーピングをしてのプレーとなり、初戦敗退となった

――W15大阪大会は、JWT50がつくった新設大会で、WTAランキングポイント獲得のチャンスが増えました。今の木下さんにとっては、いいタイミングでしたよね。

木下:出場選手が違うと、国内サーキットのテニスと海外サーキットのテニスは違ってきます。国内で(ITF)サーキットの数が増えると、海外の時に比べると、遠征費が楽になります。もちろん海外のサーキットと並行してプレーしますけど。今回は地元の大阪であったので、いろんな方や家族に見てもらえる機会が増えたのは、すごく有り難いです。何より日本でプレーできると、ごはんがおいしくて、いいなぁという感じです。

――W15大阪大会では、左足にテーピングをしてのプレーでした。もちろんテニスの技術向上も大事ですけど、今後、連戦を戦っていく体力、けがをしにくい体づくりも重要になっていきそうですね。

木下:もうちょっと体をタフに。自分のプレースタイルが、走って走ってというテニスになるので、やっぱり足にどんどん疲労がたまってくるんですけど、それにも耐えられるような体づくりも必要になってくると思います。あとは、大会に備えて体調を合わせることも必要で、いろいろな面でまだまだ課題があるかなと思います。

――2年前の木下さんは体が細かったですが、海外遠征で、多くの試合を経験したことによって、足の筋肉がついてきましたよね。

木下:ガッツリ筋肉をつけるということよりかは、トレーナーさんとも話して、自分のプレースタイルに合うような俊敏な動きを残せるような体づくりを目指しています。もうちょっとインナー(マッスル)だったり、球際で(ボールを)しっかり返せるような体にしたいと思います。

 元プロテニスプレーヤーの伊達公子さんが、生涯契約を締結しているヨネックス株式会社と組み、2019年1月に発足させた、日本女子ジュニア選手を対象とした育成プロジェクト「伊達公子×ヨネックスプロジェクト~Go for the GRAND SLAM~」は、2期生の約2年間におよんだ全8回のジュニアキャンプを終え、4月12日に卒業セレモニーが開催された。2期生の木下は、同じ週に開催されたW25大阪大会に出場していたため(本戦ワイルドカードで出場して2回戦進出)、セレモニーを欠席していたが、翌週のW15大阪大会で、伊達さんとの再会を果たし、卒業プレートを受け取ることができた。

Jr.プロジェクト2期生の卒業プレートを受け取った木下
Jr.プロジェクト2期生の卒業プレートを受け取った木下

――2期生を卒業して、一つの節目となりましたが、この2年間は、木下さんの成長とも重なりました。どんな2年でしたか。

木下:2年前にオーディションを受けた時、コロナ禍でしたけど試合が再開し始めようとしている時期ぐらいでした。コロナ期間にやっていたトレーニングだったりサーブだったり、細かい技術の練習が良くなってきていました。2期生に選んでいただいて、試合が再開して、そこから徐々に結果が出てきました。プロジェクトに入ってメンバーになって、伊達さんとコミュニケーションをとれる関係になったのは、自分のテニス人生において、すごくいい方向に向かったんじゃないかな。

――2023年1月、オーストラリアンオープンのジュニアの部では、シングルスで3回戦進出。齋藤咲良さんと組んだ女子ダブルスでは、見事準優勝を飾りました。決勝では、木下さんたちが、6-7(5)、6-1、10ポイントマッチタイブレーク7-10で敗れましたが、初めてグランドスラムの決勝の舞台に立てましたね。

木下:いや~、嬉しかった。もちろん思いとしては、悔しかったが一番大きいんですけど……。やっぱり決勝で全然チャンスがあったので、しっかり勝って、優勝スピーチをしたかったなぁと思ったり。でも、決勝の舞台で戦えたというのは、すごくこれからのモチベーションになったし、咲良ちゃんには本当に感謝しています。

――木下さんと齋藤さんは第4シードでしたが、準決勝で第2シードのペアによく勝ちましたよね(6-3、7-5で勝利)。

木下:準々決勝がわりとタフな試合で、ファイナルセット10ポイントタイブレーク(10-8)でギリギリ勝って、同じ日に準決勝があって、準々決勝のいい流れのまま準決勝に入っていけた。メンタル的にも、咲良ちゃんとのかみ合いが良かった日でした。

――2022年11月には、ロジャー・フェデラーのイベントに参加しました。フェデラーのコーチであったセブリン・ルティ氏がかなり木下さんに話しかけていましたよね。

木下:フェデラー本人とは、そんなしゃべっていないんですけど、コーチがすごくコミュニケーションをとってくださって、『すごいいいテニスだ!』と、何か結構評価してくれました。(キャリア終盤ではフェデラーがけがをしていたので)フェデラーが、テニスコートにいるのをあまり見たことがなかったので、フェデラーがちょっと打っていたのを間近で見れて嬉しかった。

――近々の目標を教えてください。

木下:グランドスラムジュニアの方では、ベスト4以上や優勝も見据えながら。全然無理な位置じゃないと思う。自分のベストなプレーを大会とおしてできたら、優勝も含めて良い結果が出てくる位置にいるし、テニスのレベルだと思うので、ジュニアではベスト4を狙っていきたいなと思います。WTAランキングでは、年内に400番台にのせる、もしくは400番をきるのがベストです。

――3月に、一つ年上の石井さやかさんがプロへ転向しました。現在の木下さんは、プロへの準備をしながらどんな心境になっていますか。

木下:まだまだかなと思っていたけど、身近な存在だったさやかちゃんがプロになって、大きな注目を浴びていた中で、ちょっと急にプロという言葉が、近づいてきたのかなと思いだしたりしました。もうちょっと意識を変えていかなきゃというのも思います。

 ジュニアとして着実にステップアップしてきた16歳の木下だが、そのさらなる先をしっかり見据え、プロ転向のことも徐々に視野に入り始めているかもしれない。ただ、焦らずに自分のペースで成長していってほしいし、自分のタイミングで覚悟を決めて、自分の仕事になるかもしれないプロテニスプレーヤーになることへの決断をしていってほしい。

ジュニアとして着実にステップアップしてきた16歳の木下だが、そのさらなる先をしっかり見据えて成長していってほしい
ジュニアとして着実にステップアップしてきた16歳の木下だが、そのさらなる先をしっかり見据えて成長していってほしい

ITWA国際テニスライター協会メンバー、フォトジャーナリスト

1969年2月15日生まれ。東京都出身。明治大学商学部卒業。キヤノン販売(現キヤノンMJ)勤務後、テニス専門誌記者を経てフリーランスに。グランドスラムをはじめ、数々のテニス国際大会を取材。錦織圭や伊達公子や松岡修造ら、多数のテニス選手へのインタビュー取材をした。切れ味鋭い記事を執筆すると同時に、写真も撮影する。ラジオでは、スポーツコメンテーターも務める。ITWA国際テニスライター協会メンバー、国際テニスの殿堂の審査員。著書、「錦織圭 15-0」(実業之日本社)や「STEP~森田あゆみ、トップへの階段~」(出版芸術社)。盛田正明氏との共著、「人の力を活かすリーダーシップ」(ワン・パブリッシング)

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