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31歳の土居美咲が達したベテランの矜持と境地とは!? 【テニス】

神仁司ITWA国際テニスライター協会メンバー、フォトジャーナリスト
明るい表情を見せてくれた土居美咲(写真すべて/神 仁司)

 11月中旬に、土居美咲の姿が、東京・有明にあった。WTAツアーを主戦場にしてきた土居だったが、WTAランキングを100位台後半にまで落としていたためだ。たとえそこで優勝しても、2023年1月開催のオーストラリアンオープンへの本戦ストレートインは叶わないのだが、それでも、意外と土居の表情は明るく、こんなによくしゃべる子だったっけ、と思うほど快活に今の心境を語ってくれた。

――ツアー下部のITF(国際テニス連盟)の6万ドル大会(安藤証券オープン、11月中旬に開催)に出場しましたが、WTAツアーを主戦場としてきた土居さんが、日本で開催されるITF大会に出場するのは久しぶりですよね。

土居:本当に正直なことを言うと、今年全然勝ててなかったりもするので。昨年のディフェンドで落ちたポイントもあるし。未来を見ると、(2022年1月のWTA)アデレード(大会)のポイントが結構大きくて(土居はベスト4に進出したが、2023年1月にランキングポイント185点をディフェンドしなければならない)、たぶんそれが無くなるとやばいぞっていうのがあるんで(苦笑)、少しでもポイントを稼ぎたいっていう。日本で6万ドルがあるのは、今の自分にとっては本当に有り難い。本当に久々ですね、日本のITFって数年出ずに、幸運なことにWTAで戦えていたので。

――2022年シーズンは、グランドスラムやWTAツアーの舞台で、大きな結果を得ることができませんでした。精神的にもきつかったのでしょうか。

土居:そんなことはないかな。意外と。前半は、自分でも覚えていないぐらい1回戦負けが続いた。3月のインディアンウェルズ(2回戦敗退)以降、7月ぐらいまで1勝もしていないんじゃないかな(2022年シーズンにツアーレベルの本戦と予選で、15大会で1回戦敗退を喫した)。もちろん大きい大会なので、1回戦からまぁまぁいいレベルの選手とやんなきゃいけないっていうのもある。なかなかそこで活路を見出せなかった。ただ、ここ最近は、例えば優勝だったり、そういう上の方に絡んではいないですけど、テニスの取り組み的には、なんか面白くはなってきているところでもあるんです。ランキングという現実も受け入れつつ、この年でも進化しようという気持ちはありながらやっています。まぁ、自分としては楽しみながらやっている感じですね。

――2015年4月から、土居さんのツアーコーチを務めていたクリスチャン・ザハルカ氏とのタッグを2022年7月に解消しましたが、どうしてですか。

土居:(クリスと)長いことやってきた中で、いろいろありました。ただ、ここからもう1歩何か変えるっていう意味で。本当に長かったけど、別にその良い悪いとかではなく。クリスと作ってきたベースはもちろんキープしつつ、自分で今はコーチがいない状態で、なんか考えながら、やりたいこと、ちょっと試しているような状態。そういう意味で、ここ長年はなかったような新たな刺激は自分の中にはあるので、楽しみながらやっています。

――1人で、テニスの技術、試合の戦術を試行錯誤しながら、実行に移しているわけですが、テニス全体は正しい良い方向へ向いていると感じているのでしょうか。

土居:自分的にはできています。なんか方向性としては、いいんじゃないかとは思っていて。それに、なんて言うんですかね、私のテニス人生って、基本的にはコーチが付いていて、ちょっと受け身の状態だったりもする。だから、今は経験も積んだし、そういう意味では、たぶん若い頃だったらできない挑戦なのかなと思うんですけど。もちろん金銭的にコーチを付けられないとかそういう話ではなく、自分の選択肢がある中で、付けないという選択を今はしている。やっぱり経験もある中で、だからこそできることかなと思ったりする。(コーチが)欲しいと思ったら、その時でいいなっていう感じです。

土居は31歳になり、ベテランの域に達しているが、まだまだ進化できる部分はあると感じている
土居は31歳になり、ベテランの域に達しているが、まだまだ進化できる部分はあると感じている

――話題を変えて、土居さんに意見を求めたいことがあります。11月上旬に、東京の有明コロシアムで開催され、土居さんも参戦した女子国別対抗戦ビリー ジーン・キング(以下BJK)カップ「日本 vs. ウクライナ」のことです。実は、観客数が1日目319人、2日目1109人だったのです(有明コロシアム収容人数は1万人)。

 まずメディアの力不足があると思います。日本でテニスのことをより多くの人に伝えきれていない。次に、日本テニス協会の広報が、広く大会告知ができていないとか、子供たちを無料で観戦に招待するとかの試みがなかった。あとは、錦織圭のような観客を呼べるアイコンが日本女子選手にいない。さまざまな要素があって、テニスファンが有明に行きたいと仕向けることができなかった。

 土居さんは、まずベストプレーをすることが第一だったと思うんですけど、コートでプレーをしていて観客の少なさがどう目に映っていたのでしょうか。

土居:いや~、もう寂しすぎるし、つらい。もちろんやっぱり自分たちが強くないから、見に行く魅力がないんだよって言われたらそれまでですし。ただ、それ以外でもできることはあるよねって、やっぱり思ったりする。本当に私としては、そこはどうにかしたいんですけど、どうしていったらいいんだろうっていう。

もしかしたら、コロナ後ぐらいからかもしれないんですけど、やっぱりテニス界全体のことを考えることが多くなってきて、本当にテニス人気、どうしたらいいのかって。あと、テニスで強い選手が育っていないっていう、ここはなんか自分としてはもどかしいところがある。選手でできることも限界あるんですけど、ただ、なんかどうにかしたいっていう思いがめちゃくちゃある。やっぱり正直協会ももうちょっと動いてほしい。

他の競技とかで、正直そんなに強くなくても、お客さんが集まる競技とかもあるし、やっぱり宣伝の仕方だったり、戦略だったり、絶対あると思う。テニスって、すごい可能性を秘めているスポーツっていうのは間違いない。やっぱり日本の(プレー)人口は多いので、この現状はおかしいという感じはします。

一方で、ヨーロッパの国とか転戦すると、実はWTAの大会でも全然お客さんいない所もあったりするんですよ。だから、なんか国によるっていうか。グランドスラムを持っている国(イギリスやフランス)はやっぱり人気がある。でも、ルーマニアとか、フランスもルーウェンっていう田舎に行ったらやっぱり少ない。

(観客席の)一角に学生さんがバーっているエリアがあるんです。たぶん招待しているか、もしくは安くチケットを渡しているのかわかんないんですけど、学校行事として来てるっていうのがある。その地域の、近隣の学校とかに働きかけて、応援団として来てもらって、30人ぐらいでそれを何組か作ったら盛り上がる。盛り上がっていると知られたら、みんな来たいとも思うだろうし、その子たちがもしかしたらテニスを始めてくれるかもしれない。普及という意味でもいいんじゃないか。

あと、バスタッドというスウェーデンの大会だったと思うんですけど、その大会結構お客さんがいて、大会の人に聞いたら、テニス好きなスポンサーさんが全チケットを買っていて、それで無料で見に来てくださいっていう状態にしているらしくて。まずは見る文化を作ることだからっていう、すごく素晴らしいスポンサーさんだ、という話をしたことがあります。あ、そういう方法もあるんだって思ったり。

(日本テニス界で)みんなモヤモヤしていて、どうにかしたいですけど、どうしたらいいのか……。(テニス観戦を)やっぱ文化にしないと、定着させないと、とは思います。

――2022年は、土居さんが、プロになってから、一番円安が進んだと思うのですが、外貨を獲得できるプロテニスプレーヤーにとって、現在の円安をどう見ていますか。

土居:上の方で勝てている時はいいんです。おそらくITFレベルで、スポンサーさんからのお金を頼りにしている選手は大変っていう感じですかね。ITF大会はそんなに賞金が多くないですし。強くなればいいし、強くなれなければ、本当に海外へ出てくのも大変。今年、飛行機代がすごく高くなったし、アクセスも悪くなった感じがあります。ロシア上空を通れなくて、(飛行時間が)ちょっと長くなったり。フラッといけないし。(コロナ禍によって)やっぱりアジアの大会が前よりは少ないって考えると、遠くへ行かなきゃいけないから、本当にアジア選手は不利だな、と。WTAもITFも、アメリカやイギリスなどを中心に考えるじゃないですか、アジアでツアー再開していないのに、「再開したよ」っていう、アジア選手やアジアのことを一切考えていないじゃん、っていう除け者感は、すごく感じます(苦笑)。アジアのこと見えていないんですよね。今、阻外感がありつつ、その中でもついていかないと、と本当に思います。

11月上旬のBJKカップ「日本 vs.ウクライナ」では、シングルス2として戦った土居。同期で引退したばかりの奈良さん(写真一番左)が、日本チームのサポートに入った
11月上旬のBJKカップ「日本 vs.ウクライナ」では、シングルス2として戦った土居。同期で引退したばかりの奈良さん(写真一番左)が、日本チームのサポートに入った

――2023年から、BJKカップ日本代表チームの監督が、元トップ10プレーヤーの杉山愛さんになります。吉田友佳さん以来の女性監督ですが、土居さんはどんな期待がありますか。

土居:私は、前から何となく愛さんがなったらいいなって勝手に思っていたので、いいんじゃないかと思います。やっぱり選手を経験されているところが1番大きい。本当に上のレベルでやっていたというのは、本当にやった人にしか伝えられないものがある。たぶん同じ言葉でも重みが違ったりすると思う。ツアーでもBJKでも、心の持ちようとかもやっぱり学べるものがあるんじゃないかな。寄り添ってもいただけるだろうし、引っ張ってもいただけるんじゃないかなっていう気はしています。

――2022年9月に、土居さんの同期である奈良くるみさんが引退してしまって、寂しいのではないでしょうか。

土居:めちゃくちゃ寂しい。やっぱりお互いそうだと思うんですけど、くるみがいるから頑張れる、というのがあったので。最初聞いた時は、めちゃくちゃ寂しかったんですけど、やめても、あれ、意外とそばにいるやん、と(笑)。この前、(BJKカップ・ウクライナ戦で奈良さんが)日本チームのサポートに加わってくれて、頼りになる存在だなと思いました。

安藤証券オープンでは、土居から16歳の木下晴結に声をかけて、一緒に練習する場面も見られた。木下は、BJKカップではサブとして日本チームに初参加したが、土居は若手の成長にも気をかけるようになってきている
安藤証券オープンでは、土居から16歳の木下晴結に声をかけて、一緒に練習する場面も見られた。木下は、BJKカップではサブとして日本チームに初参加したが、土居は若手の成長にも気をかけるようになってきている

――最後に、今後、31歳の土居さん(WTAランキング176位、12月19日付)が、どうテニスと向き合っていきたいか、モチベーションを教えてください。

土居:本当に私自身もあと何年できるかわかんないっていうところもあるんで。くるみの引退とかもあったし、いろいろ思うこともあるんですけど、楽しんで、最後まで自分としてはできることをやっていきたいなとは思う。全然この年でも進化したいな、と思っているので、できるところまで頑張りたいなとは思っています。

ITWA国際テニスライター協会メンバー、フォトジャーナリスト

1969年2月15日生まれ。東京都出身。明治大学商学部卒業。キヤノン販売(現キヤノンMJ)勤務後、テニス専門誌記者を経てフリーランスに。グランドスラムをはじめ、数々のテニス国際大会を取材。錦織圭や伊達公子や松岡修造ら、多数のテニス選手へのインタビュー取材をした。切れ味鋭い記事を執筆すると同時に、写真も撮影する。ラジオでは、スポーツコメンテーターも務める。ITWA国際テニスライター協会メンバー、国際テニスの殿堂の審査員。著書、「錦織圭 15-0」(実業之日本社)や「STEP~森田あゆみ、トップへの階段~」(出版芸術社)。盛田正明氏との共著、「人の力を活かすリーダーシップ」(ワン・パブリッシング)

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