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沖縄の奇跡! 伊達さんと錦織が同じテニスコートに立つ!! 飛び入り錦織が、ジュニアに伝えたこととは?

神仁司ITWA国際テニスライター協会メンバー、フォトジャーナリスト
沖縄で伊達さんと錦織が同じコートに立ったのは奇跡とも言えた(写真すべて神 仁司)

「沖縄キャンプをやるんですよね。僕行けるかも」

 こう錦織圭から伊達公子さんにしゃべりかけてきたのがきっかけだった。

「じゃあ、来て!」と、その場の勢いで伊達さんは即答したのだった――。

「伊達公子×ヨネックスプロジェクト~Go for the GRAND SLAM~」の2期生の第4回ジュニアキャンプ(4月18~22日)で、錦織が飛び入り参加することは、ジュニアたちに秘密だった。キャンプ3日目の4月20日に、沖縄の豊崎海浜公園テニスコートに突然姿を現した錦織に、ジュニアたちは目を丸くした。と同時に目の輝きが一段と増し、テニスへ取り組む姿勢もより気合いが入った。伊達さんの“錦織サプライズ作戦”は大成功だった。

サプライズ登場した錦織を前に、ジュニアたちは、驚きと嬉しさが一気にあふれ出た
サプライズ登場した錦織を前に、ジュニアたちは、驚きと嬉しさが一気にあふれ出た

「前もって伝えて準備させるというやり方もあったと思うんです。ジュニアたちは、普段の練習から十分テニスへの情熱を持っているけど、ここから上へもう一段階、二段階上げていくために、誰が見ていなくても、キャンプじゃなくても、普段の練習の時から、いかに自分がやるべきことを、自覚を持って、強い意志を持って取り組めるか、がすごく大事なことだと思う。

 彼(錦織)が来てくれたのが、モチベーションになるのは明らかなんですけど、でも、そこに頼り過ぎず、キャンプで意識を持って一人ひとりが取り組めるのかというのも見たかった。その中で、(彼が)来るから頑張るのではなくて、来てなくても頑張れるし、来た時にはエキストラとしてエネルギーを注いでもらう、その形が一番ベストなんじゃないかなと思った。

(錦織が)どういう形で入って来るのがいいのかは、いろいろ考えて、ジュニアの誰かが気づくまで言わない。彼はプライベートで、いいですよと言ってくれたので、自然のスタイルで行こうということで、登場してもらいました」(伊達さん)

「伊達さんにも会いたかったというのもあるし、今のジュニアのトップのレベルを見ておきたかった」と言う錦織は、プライベートで沖縄を訪れ、ジュニアキャンプの開催地に立ち寄ってくれたのだ。

「指導するという気持ちでは来ていない。自分と打つことで、ジュニアたちにプロのボールを感じてもらえたら嬉しい。今、たまたま時間があるので。自分もジュニアの時、プロの方と打つことができて、今でも鮮明に覚えているくらいすごく記憶に残っている。その経験を少しでも多くのジュニアにしてもらったら嬉しいというのもあります。有意義な時間を子供たちに味わってもらいたい」

コート上で動く範囲を限定する形ではあったが、錦織は、ジュニア全員とラリーを行った。錦織のリハビリが順調であることもうかがえた
コート上で動く範囲を限定する形ではあったが、錦織は、ジュニア全員とラリーを行った。錦織のリハビリが順調であることもうかがえた

内視鏡手術を行った左股関節のリハビリは順調

 ここで、まず錦織自身の近況を記しておきたい。

「順調に回復しています。今日も痛みはなかった。まだ横にあまり動けないので、(コート一面を使った)ポイント(練習)とかはまだできないんですけど、ジュニアと打つぐらいは回復できているので、僕もちょうどいい練習になりました。横の動きが、股関節にとって一番不安が残るところなので、ゆっくりやっています。ドクターにも順調に回復しているねと言われていますので、自信を持ってリハビリを進めています」

 2022年1月25日に自身のアプリで、左股関節の内視鏡手術を行ったことを報告したのだが、手術を決心するまでの過程を振り返ると、錦織にしては少し珍しく後悔があるのだという。

「手術をするまで、結構試した時期が長かったので、結果、早くやっていればよかったなというのがあるんですけど。でも、(手術によって)中に入って見なければ、どれだけ傷ついているか明確に見えなかったので、(2021年)12月や(2022年)1月はモヤモヤ、ずっと痛いなって。MRI(磁気共鳴画像)上にポワンというのは出ていたんですけど、どれぐらい悪いかはわからなくて、2カ月やってもう耐えられなくなって手術した感じですね。手術をやってみたら、本当に(アンディ・)マリーみたいになる(人工股関節を付けなければいけない)寸前だったので、結果、やって良かったというところでしたね。ちょっと若干悔いも残ります。もっと早く、もう2カ月早くやっていれば、決めとけばというのもあるんですけど、ちょっとそこはしょうがないですね」

 復帰時期は未定だが、32歳の錦織は、再びツアーやグランドスラムで活躍したいという願いを抱きながら、今後の自身のキャリアで集大成となり得るようなテニスができるようになることを見据えている。

「若干、やっぱり自分にも猶予はもたせてというか、すぐたぶん、やっぱり上がって来るのは難しいとは思うので、ゆっくり上げながら、2~3年以内には、またグランドスラムの上の方でやれるようにするというのがまず目標ですね。そこから、行けたらまた考えたいと思います」

世界で実績を残した錦織だからこそ、説得力のあるアドバイスができる

 沖縄でのジュニアキャンプで、錦織は、ジュニア全員とひとり約3分間のラリーを行った後、リターンのレッスンを行った。

ジュニアにリターンのお手本を見せる錦織。まさに日本最高のお手本だ。極意は、斜め前にステップイン
ジュニアにリターンのお手本を見せる錦織。まさに日本最高のお手本だ。極意は、斜め前にステップイン

「サーブとリターンは、一番基礎で軸なんだけど、意外とみんなやっていなかったりする。あと、自分は一番リターンが得意ということで、教えられるところがあるかな」と語った錦織は、自らお手本としてプレーを見せながら、リターンポジションからスピリットステップを踏んで斜め前にステップインすることを伝授した。これは、リターンの基本の一つだが、ツアー屈指のリターン名手である錦織が話すと、説得力が段違いだ。錦織は、ジュニア1人ずつのリターンをチェックしてアドバイスをしていったが、案外この基本ができていないジュニアが多かった。中には、リターンでのテークバックが大き過ぎるジュニアに、実戦ではサーブに対して振り遅れてしまうので、コンパクトにテークバックすることを、時間をかけながら説明する場面も見られた。

ジュニアのフォームを修正する場合は、錦織がリハビリと称して、ジュニアに時間をかけて丁寧に説明した。リターンやバックボレー、いずれもテークバックが大きいのをコンパクトにすることをアドバイスした
ジュニアのフォームを修正する場合は、錦織がリハビリと称して、ジュニアに時間をかけて丁寧に説明した。リターンやバックボレー、いずれもテークバックが大きいのをコンパクトにすることをアドバイスした

 4月21日にも、錦織はジュニアキャンプに参加し、ダブルス前衛でのポジショニングをジュニアにアドバイスした。ジュニアは、ネット近くにポジションをとり過ぎたり、スピリットステップをきちんと踏めていなかったりした。また、味方サーブのコースによって、相手リターンが打ち返せる範囲が変わってくるため、それに応じたダブルス前衛の動き方も練習した。練習中には、伊達さんと錦織の超豪華なダブルス並行陣も見られた。

味方サーブのコースによって変わるダブルス前衛の動き方を、錦織自らがポジションに立ってアドバイスした
味方サーブのコースによって変わるダブルス前衛の動き方を、錦織自らがポジションに立ってアドバイスした

 錦織は、伊達さんのジュニアプロジェクトについて、伊達さんが、日本にいる人材の中では、本当にトップの経験もしており、それを子供たちに伝えてくれていることに嬉しさを感じている。さらに、伊達さんを見習いたいと語り、「将来的に自分にも役立つのかなと思います」と言う錦織が、そう遠くない未来に、伊達さんのような立場になる可能性があることも彼の心の片隅にはあるような様子だった。

 これまで男子国別対抗戦デビスカップ日本代表として戦っている時から、錦織は、いつも自分に続く若手選手が台頭して来ることを心待ちにしてきた。今回は、ジュニア女子選手と錦織が関わるという稀有なケースだったが、男女問わず日本の若い才能がもっともっと育ってほしいという錦織の思いは、今も変わっていない。

(Part3に続く)

沖縄で、錦織とボールを打った経験は、ジュニアたちにとって忘れられないものになっただろう。それにしても、これで2期生は、伊達さんや錦織とボールを打ち合ったことになり、十代半ばでものすごい経験をしている
沖縄で、錦織とボールを打った経験は、ジュニアたちにとって忘れられないものになっただろう。それにしても、これで2期生は、伊達さんや錦織とボールを打ち合ったことになり、十代半ばでものすごい経験をしている

ITWA国際テニスライター協会メンバー、フォトジャーナリスト

1969年2月15日生まれ。東京都出身。明治大学商学部卒業。キヤノン販売(現キヤノンMJ)勤務後、テニス専門誌記者を経てフリーランスに。グランドスラムをはじめ、数々のテニス国際大会を取材。錦織圭や伊達公子や松岡修造ら、多数のテニス選手へのインタビュー取材をした。切れ味鋭い記事を執筆すると同時に、写真も撮影する。ラジオでは、スポーツコメンテーターも務める。ITWA国際テニスライター協会メンバー、国際テニスの殿堂の審査員。著書、「錦織圭 15-0」(実業之日本社)や「STEP~森田あゆみ、トップへの階段~」(出版芸術社)。盛田正明氏との共著、「人の力を活かすリーダーシップ」(ワン・パブリッシング)

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