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プロテニスプレーヤーへ転向、16歳の決意 奥脇莉音  Part1

神仁司ITWA国際テニスライター協会メンバー、フォトジャーナリスト
16歳でプロテニスプレーヤーへ転向した奥脇莉音(写真/神 仁司)

 15歳以下の日本女子ジュニア選手を対象とした育成プロジェクト「伊達公子×ヨネックスプロジェクト」は、第8回キャンプ(2月27~28日、東京・スポル品川大井町インドアテニスコート)をもって、約2年間におよんだ第1期生のプロジェクトが終了した。その卒業セレモニーで、16歳の奥脇莉音(おくわき りのん)は、自らを奮い立たせるように大きな決意を口にした――。

「通知が来た瞬間、いやぁ、びっくりしましたね。気持ちが伝わればと思っていたけど、正直な話、自分が選ばれると全然思っていなかった。嬉し過ぎて家族でパーティしました(笑)。嬉しかったです」

 オーディションに受かって、伊達さんのジュニアプロジェクトメンバー4人に選ばれた時の様子を奥脇は今でもはっきり覚えている。

 もともと「私、本当にメンタルが弱いんですよ」と自己分析する奥脇は、小学6年生の時に、日本の3大ジュニア全国大会(全国選抜ジュニア12歳以下、全国小学生テニス選手権、全日本ジュニア12歳以下)では、シードが付いていたのにもかかわらず、すべて1回戦負けだった。緊張して自滅していたという。

 そんな奥脇には、伊達さんとのジュニアキャンプで一番心に残っていることがある。

「1回目のキャンプの伊達さんの言葉にあった、試合を楽しむということです。ずっと心に残っています。以前、私は、試合を全然楽しめなかったり、すごい態度に出てしまったりしていました。でも、気が楽になったというか、試合が楽しくなって勝ちだしたかな。それから結果も出るようになってきたので、そこが一番重要だったかな」

 テニスの質の面で、練習と試合で差が無くなり始めたという。中学3年生の時には、2019年関東ジュニアテニス選手権女子シングルスで優勝してみせた。

 さらに、伊達さんが新設に携わったITF(国際テニス連盟)公認のジュニア大会「リポビタン国際ジュニア supported by伊達公子×ヨネックスプロジェクト」(2020年11月30日~12月6日、愛媛県松山市・愛媛県総合運動公園)で、奥脇は女子シングルス準優勝という結果を残した。

「本当だったら、優勝して恩返ししたかったので、やっぱり悔しさがすごく残ってしまいました。あの負けは、結構メンタルにきたというか……。その分前向きにはとらえられたんですけど」

 悔しさが残っていた奥脇だったが、ジュニアキャンプの卒業セレモニーでは、プロへ転向する予定であることを、伊達さんたちの前で宣言した。16歳の決断だった。2021年4月に、日本テニス協会によるプロフェッショナル登録が認められ、5月1日より正式にプロとしての活動が始まる。奥脇は、プロ転向の経緯を次のように語る。

「決め手は、やっぱりこのプロジェクトですかね。プロジェクト前にも、プロになるとか、グランドスラムに出るとか言っていたんですけど、やっぱりまだ気持ちが固まっていなくて、プロになるために何もやっていなかった。このプロジェクトを通して、結果も出ていたこともあったんですけど、自分に自信を持てた。いろいろ話をしながら、自分にはテニスしかないと思った」

 7回目のジュニアキャンプでは、奥脇のプロ転向への決心を固めることになる出来事があった。

「伊達さんや浅越(しのぶ)さんから、プロになることについていろいろ教えてもらい、厳しい言葉をいただいたんです。今のままではだめで、自覚をもって行動すべきだと伊達さんに言われました」

 世界の第一線で戦った経験のある伊達さんと浅越さんからの厳しい言葉を聞いて、人によっては心がぐらついてシュンとなってしまう人もいるだろう。だが、奥脇は決してめげなかった。

「その時、すごく反発したというか、絶対結果を残してやるって思えた。これで終わってしまったら、自分じゃない。それはおかしい、だからこそ頑張ろうって。昔からそうなんですけど、ガツンと言われると、倍返ししたいぐらい、自分でも謎の負けん気があります」

伊達さんのジュニアキャンプで練習していた時の奥脇。伊達さんらツアーで活躍した元選手たちからの言葉には説得力があった
伊達さんのジュニアキャンプで練習していた時の奥脇。伊達さんらツアーで活躍した元選手たちからの言葉には説得力があった

 プロ向きともいえる負けず嫌いな奥脇は、2020年夏頃から株式会社グラムスリーとマネジメント契約を交わした。コーチを変えて環境も変えて、奥脇にとってはプロになるための一大決心だった。現在は、グラムスリー所属の川原努コーチが、奥脇の練習に付き添っている。川原コーチは、尾崎里紗をジュニア時代から育てて、世界70位まで導いた実績がある。

「(奥脇のような年代の子は)グランドスラムで優勝するとか、本当に何もわかっていないで言っている。ジュニアでやっていたテニスと、ツアーでやっているテニスは、全く別物の競技をやっているような違いがある。そこを彼女(奥脇)と一緒に歩んでいかないといけない。奥脇のプレーヤーとしての魅力、伊達さんの第1期生として歩んできたストーリーに魅力がある。選手だけでなく、その周りの大人の覚悟も必要ですし大事です。絶対グランドスラムに行きますよ」

 グラムスリーの代表取締役である坂本明氏は、奥脇に次のような期待を寄せる。

「最初に会った時から半年で、集中力、メンタル、技術、だいぶ良くなってきたので、それらをさらにパワーアップして、飛躍していってもらいたい。練習など環境面を含めて、奥脇のグランドスラム出場に向けてサポートしていきたい。尾崎里紗をはじめグラムスリーの先輩選手たちに続いて頑張ってほしい」

 期待を寄せられる奥脇は、どんなプロテニスプレーヤーになりたいのだろうか。

「コート外での謙虚さ、人に対する接し方、自分のことは自分でやる、当たり前のことかもしれないけど、そういうことをしっかりできるような選手になりたい。あと、感謝の気持ちを常に持って明るい選手になりたいです。グランドスラムに出ることが前提ですね。グランドスラムに出たら、正直優勝しか狙わない」

 16歳でプロテニスプレーヤーとして歩み始めた奥脇莉音。

 わずか16歳で自分の仕事を定め、大人と変わらない決断を下さなければならない厳しいプロの世界ではあるが、周りのサポートを得ながら、自分の力と未来を信じて力強く一歩一歩ステップを踏み出していく。

                               (Part2に続く)

ITWA国際テニスライター協会メンバー、フォトジャーナリスト

1969年2月15日生まれ。東京都出身。明治大学商学部卒業。キヤノン販売(現キヤノンMJ)勤務後、テニス専門誌記者を経てフリーランスに。グランドスラムをはじめ、数々のテニス国際大会を取材。錦織圭や伊達公子や松岡修造ら、多数のテニス選手へのインタビュー取材をした。切れ味鋭い記事を執筆すると同時に、写真も撮影する。ラジオでは、スポーツコメンテーターも務める。ITWA国際テニスライター協会メンバー、国際テニスの殿堂の審査員。著書、「錦織圭 15-0」(実業之日本社)や「STEP~森田あゆみ、トップへの階段~」(出版芸術社)。盛田正明氏との共著、「人の力を活かすリーダーシップ」(ワン・パブリッシング)

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