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新型コロナショックによって混乱するプロテニスツアー(後編)東京2020オリンピックは1年程度の延期へ

神仁司ITWA国際テニスライター協会メンバー、フォトジャーナリスト
東京オリンピックのテニス競技が行われる予定の有明コロシアム(写真/神 仁司)

 グランドスラム第3戦のウィンブルドン(イギリス・ロンドン、6/29~7/12)に関し、3月17日の時点で、ウィンブルドンの大会主催者であるオールイングランドローンテニス&クローケークラブ(AELTC)は、大会を予定どおり開催するとしている。ただ、すでに観光客向けのウィンブルドン博物館や見学ツアーやグッズショップは営業を取りやめている。AELTCのリチャード・ルイス最高責任者は、次のように語っている。

「われわれが決断を下す心は、(クラブ)メンバー、スタッフ、そして、公共の皆さまの健康や安全に基づくものです。また、政府や公共健康機関のアドバイスやサポートを受け入れていきたい。現時点で、チャンピオンシップス(ウィンブルドン)は、開催するつもりではいるが、引き続き状況を注視し、社会により広く一番いい形で責任ある行動をとっていきたい。前例のないグローバルチャレンジに対処し続けられると信じていきたい」

 例年ならグランドスラム最終戦となるUSオープン(アメリカ・ニューヨーク、8/31~9/13)に関しては、今のところ動きはないが、ニューヨーク州の感染拡大状況を見ると、今後何かしらの動きがあるかもしれない。

 今後のツアー再開については、新型コロナウィルスの状況を鑑みて、男子ツアーATP、女子ツアーWTA、国際テニス連盟(ITF) 、AELTC、テニスオーストラリア、アメリカテニス協会(USTA)が相談し合いながら決定していきたいとしているが、独断でローランギャロスの日程延期を断行したFFTの名前が入っておらず、各団体の憤りが透けて見えるようだ。

 そして、ついにというか、やっとというか、3月24日、東京2020オリンピックが1年程度延期されることになった。オリンピックが延期になるのは、史上初。新型コロナウィルスのパンデミックを懸念する各国のオリンピック委員会や各国の競技団体、アスリート、そして世論の声によって、ようやく国際オリンピック委員会(IOC)が重い腰を上げたという印象だが、地球人類の命に関わることであることを踏まえると、賢明な決断といえる。

 ITFのハガティ会長は、”アスリートファースト”に基づいた東京オリンピックの延期を好意的に受け取った。

「ITFは、この決定を支持します。2021年に向け、引き続き全力でIOCと、国際パラリンピック委員会(IPC)と協力していきます。準備をして、厳しいトレーニングをして来た選手にとっては残念なことですが、人の命と健康、安全が最優先であることは、われわれを含めて皆さんが理解しています」

 また、日本テニス協会の土橋登志久強化本部長は、次のように語っている。

「この数週間の感染拡大の状況を考えると、今回の決定はやむを得ないものだと思っています。選手は複雑な心境だと思いますが、この決定を受け入れ、次の決定に向けて準備する強さを持っています。1年程度の延期ということなので、来年に向けて課題を克服し、スタッフも覚悟を持って、今まで以上に強力なサポートをやり抜いていきたいと考えています。最後になりましたが、(新型)コロナウィルス感染症の1日も早い収束を心よりお祈り申し上げます」

 もともとプロテニスプレーヤーの東京オリンピックの出場権は、2020年6月8日時点の世界ランキングによって決定されることになっていたが、東京オリンピックが1年程度の延期ということで、これであらためてオリンピックの枠を争うことになっていく。

 とはいえ、プロテニスプレーヤーは、四六時中オリンピックだけに気取られるわけにはいかない。

 ATPツアーは1月第1週から11月中旬まで、64大会(グランドスラムを含まず)が開催され、30の国や地域で開催され、WTAツアーは、1月第1週から10月最終週まで、55大会(グランドスラムを含まず)が開催され、29の国や地域で開催されており、男女共にワールドプロテニスツアーとして確立されている。年間スケジュールにビッシリと大会が埋め込まれ、毎週のようにどこかの国のどこかの都市で、大会が行われている状況で、選手は自分のランキングのために戦い、勝っていかなければならないのだ。

 ワールドプロテニスツアーの潮流は早く、いつでも勝てるという保証などあろうはずもなく、東京オリンピックが延期になっても、どのみち選手は戦っていくしかないのだ。普段のただでさえ厳しいツアースケジュールの中に、オリンピックが加わるのだから、いずれにしても選手の負担が増すことには変わりない。

 そして、新型コロナウィルスのパンデミックによって、再認識させられることになったが、“プロ競技”として、ワールドツアーが確立されているテニスに、本当にオリンピックが必要なのかどうか、だ。

 今後改めて話し合う機会が設けられてもいいのではないだろうか。これまでもそうであったが、厳しいスケジュールをこなしているプロテニスプレーヤーへの負担はあまりにも大きいし、普段のツアー大会とは異なって、オリンピックでは賞金が出ないし、ランキングポイントも獲得できないのだから。

 おそらく問題は、テニスだけに留まらず、プロ競技として確立されている、サッカーやゴルフなどは、オリンピックの参加意義を改めて考察してみるのもいいだろう。これまで日本の各競技の協会は、オリンピック依存に偏り過ぎている傾向があるため、プロ競技としてどう自立したらいいのかを今後もっと考えるべきだ。

 世界保健機関(WHO)が、新型コロナウィルスのパンデミックは加速していると宣言する中、グランドスラムを含めたワールドプロテニスツアーはまだまだ予断を許さない状況が続いていくが、少しでも早く治療に有効なワクチンが開発されて、新型コロナウィルスの収束を願いたい。

ITWA国際テニスライター協会メンバー、フォトジャーナリスト

1969年2月15日生まれ。東京都出身。明治大学商学部卒業。キヤノン販売(現キヤノンMJ)勤務後、テニス専門誌記者を経てフリーランスに。グランドスラムをはじめ、数々のテニス国際大会を取材。錦織圭や伊達公子や松岡修造ら、多数のテニス選手へのインタビュー取材をした。切れ味鋭い記事を執筆すると同時に、写真も撮影する。ラジオでは、スポーツコメンテーターも務める。ITWA国際テニスライター協会メンバー、国際テニスの殿堂の審査員。著書、「錦織圭 15-0」(実業之日本社)や「STEP~森田あゆみ、トップへの階段~」(出版芸術社)。盛田正明氏との共著、「人の力を活かすリーダーシップ」(ワン・パブリッシング)

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