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テニス最古のメジャー大会である「ウインブルドン」のシードの決定方法は、本当に妥当か!?

神仁司ITWA国際テニスライター協会メンバー、フォトジャーナリスト
ウインブルドンが特別だという時代は、とっくに終焉しており、現代プロテニスツアーと同調すべきだ(写真/神 仁司)
ウインブルドンが特別だという時代は、とっくに終焉しており、現代プロテニスツアーと同調すべきだ(写真/神 仁司)

 テニスの4大メジャーであるグランドスラムの第3戦であるウインブルドンの開幕(7月2日)が近づき、6月27日に2018年大会での男女シード選手の発表がされた。

 1877年から大会が始まったウインブルドンは、グランドスラムの中で最古の歴史を誇り、“テニスの聖地”とも言われている。

 そして、日本では地上波テレビによる長年の試合放映の影響もあって、ウインブルドンは最も知られたテニス大会であり、たとえテニスファンではなくても、大会名ぐらいは聞いたことがある人が多い。

 大会開幕が迫る中、ウインブルドンに出場する選手のシードを巡って問題が起きている。元世界1位のセリーナ・ウイリアムズ(アメリカ)が、第25シードに抜擢されて、物議をかもしているのだ。

 グランドスラムのシードは32枠で、ランキング上位者から割り当てられていくが、ウインブルドンでは、シードの決め方が、他のグランドスラム3大会と異なる。

 ウインブルドン以外の3大会は、過去52週間の成績に基づいた世界ランキング(男子ではATPランキング、女子ではWTAランキング)に沿ってシードが決められ、大会開幕直前週の世界ランキングによって決められる。

 だが、ウインブルドンでは大会主催者であるオールイングランド ローンテニス アンド クローケー・クラブで構成される委員会の手が加わる。

 男子では、2002年より世界ランキングに加えて、過去2年間におけるATPツアーのグラス(天然芝)大会での成績が加味される。

 例えば、今回、男子の世界ランキング1位(6月25日付け)は、ラファエル・ナダル(スペイン)だが、ナダルは第2シードになった。逆に、世界2位のロジャー・フェデラー(スイス)が、2016年大会ベスト4と2017年大会優勝という好成績によって、第1シードに繰り上がった。

 一方、女子は、基本的には世界ランキングに準じてシードが決められるが、ドローのバランスをとることが必要とみなされた時は、大会主催者側によってシードの変更がされる。つまり、ランキングという“客観性”ではなく、大会主催者の“主観性”が介入することになる。

 セリーナは、2017年1月のオーストラリアンオープンテニスのシングルスで優勝した後、産休に入り、復帰したのは2018年3月上旬のWTAインディアンウェルズ大会からだった。

 6カ月以上戦列から離れて、けがなどによる公傷が認められた時には、離脱時の翌週のランキングが特別ランキングとして適用され、女子ではスペシャルランキング(男子ではプロテクトランキング)と呼ばれている。

 現在36歳にして産休から復帰したセリーナのスペシャルランキングは1位(2017年2月時点のもの)で、実質ランキングは183位(6月25日付け)。ウインブルドンではシングルスで7回優勝し、グランドスラムでは23回優勝の実績があり、それらが考慮されて、セリーナは、ノーシードではなく、ウインブルドンでは第25シードを与えられた。

 そのセリーナのあおりを受けたのが、ドミニカ・チブルコバ(32位、スロバキア)で、今後ランキング上位者で欠場が出ない限り、ノーシードからの出場となり不満をもらしている。

 一方で、2018年オーストラリアンオープン優勝者のキャロライン・ウォズニアッキ(2位、デンマーク)は、セリーナをシード選手にすべきだと発言し、賛否が分かれている。

 もちろんシード選手からすれば、1回戦でいきなりセリーナと対戦する可能性がなくなり、ホッとしている部分もあるのではと推察される。

 今回のウインブルドンでの一連の動きは、現代のプロテニスツアーの中におけるグラス(天然芝)シーズンの特殊性と無関係ではないと個人的には考える。

 約11ヵ月にわたるワールドテニスツアーの中で、グラスシーズンがわずか1カ月しかなく、ハードコートやクレーコート(土のコート)に比べると一番シーズンが短い。だから、現代のプロテニスツアー全体から見ると、グラスシーズンは、特殊なシーズンと位置付けられる。

 1970年代までは、レッドクレーのサーフェスを使用するローランギャロス(全仏オープンテニス)以外のグランドスラムはすべてグラスで開催されていた。しかし、1978年からUSオープンテニスが、1988年からオーストラリアンオープンテニスが、グラスからハードコートへサーフェスを変更。現代テニスの主流はすっかりハードコートとなり、グラスコートの特殊性がさらに際立つようになった。

 それに加えて、ウインブルドン大会委員会によるシードの決定だ。この独断は、グラスシーズンというよりウインブルドンの特殊性を、現代プロテニスツアーの中で際立たせている。

 個人的には、セリーナの一件は妥当かもしれないと感じる部分があるものの、ウインブルドン独自のシードの決定方法には正直違和感があり、賛成できない。そもそもウインブルドンが、プロテニスツアーと同調していないし、他のグランドスラムとも足並みをそろえていない。ウインブルドンだけが、特別であるという理由を私には見いだせないのだ。スポーツにおける公平性が保たれているとも思えない。

 以前は、ウインブルドンこそが、テニスでは最高峰の大会と位置付ける暗黙の了解のようなものがあったが、21世紀に入って大きく変化した。選手側の意識も変化し、選手の価値観が千差万別になり、それぞれが最重要視するグランドスラムは異なっている。当然のことだと思う。

 私も、実際に現場で長年取材しながら、ウインブルドンが最高峰ではないと感じている。

 伝統や格式だけでなく、賞金、施設、リノベーション、大会側のもてなしなど、さまざまな観点から見て、現在は皆それぞれの価値観で、それぞれのグランドスラムへの評価をしている。

 だからこそ、今後、ウインブルドンのシード決めも、さらに慎重であるべきだと考える。選手のことをまず尊重し、そして観客のことももっと考えるべきだ。

 実は、シードが32枠になったのは2001年のウインブルドンからで、他のグランドスラムも追随した。100年以上続くグランドスラムの長い歴史からすれば、21世紀からの新しい試みだったのだ。

 そして、2019年からグランドスラムのシードは32枠から16枠に再び戻る。これも賛否両論だが、これは別の機会に論じたい。

 ワールドプロテニスの時代の潮流は早い。

 ウインブルドンが、伝統と格式に甘んじられていた時代はとっくに終焉しており、21世紀の現代プロテニスにふさわしい大会づくりを、今後さらに推進していくべきではないだろうか。

ITWA国際テニスライター協会メンバー、フォトジャーナリスト

1969年2月15日生まれ。東京都出身。明治大学商学部卒業。キヤノン販売(現キヤノンMJ)勤務後、テニス専門誌記者を経てフリーランスに。グランドスラムをはじめ、数々のテニス国際大会を取材。錦織圭や伊達公子や松岡修造ら、多数のテニス選手へのインタビュー取材をした。切れ味鋭い記事を執筆すると同時に、写真も撮影する。ラジオでは、スポーツコメンテーターも務める。ITWA国際テニスライター協会メンバー、国際テニスの殿堂の審査員。著書、「錦織圭 15-0」(実業之日本社)や「STEP~森田あゆみ、トップへの階段~」(出版芸術社)。盛田正明氏との共著、「人の力を活かすリーダーシップ」(ワン・パブリッシング)

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