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プロテニス選手・尾崎里紗がUSオープンテニスでつかんだ大きな初勝利。今後さらに飛躍するには何が必要か

神仁司ITWA国際テニスライター協会メンバー、フォトジャーナリスト
USオープンで、グランドスラム初勝利を挙げて涙ぐんだ尾崎里紗(写真/神 仁司)
USオープンで、グランドスラム初勝利を挙げて涙ぐんだ尾崎里紗(写真/神 仁司)

 プロテニスプレーヤー・尾崎里紗にとって、ニューヨークはラッキープレースだ。

 今季最後のテニス4大メジャーであるUSオープンテニスに初出場を果たした尾崎里紗(WTAランキング96位、8月28日付け、以下同)が、1回戦で、予選勝ち上がりのダニエル・ラオ(219位、アメリカ)を、6-3、6-7(7)、7-6(5)で破って、本戦初勝利を挙げた。これは、彼女にとってグランドスラム4大会目の挑戦でつかんだグランドスラム初勝利になった。

「できればもっと早く勝ちたいと思った時ありましたけど、今年の最後のグランドスラムで勝利できたのはすごく良かったです」

 尾崎は、ラオのフォアのフラット系のカウンターショットやバックのスライスショットに手を焼き、ファイナルセット尾崎の4-5、ラオのサービングフォアザゲームの第10ゲームで、ラオに5回のマッチポイントを握られて絶体絶命になった。3回目のマッチポイントを尾崎が握られた時には転倒し、そのショックで一時的に足にけいれんを起こしたが大事には至らなかった。ピンチをことごとく逃れた尾崎は、5回のデュースの末サービスブレークに成功して土壇場で追いついた。

 最後の勝負がかかったタイブレークでは、6-5で尾崎がマッチポイントを握ると、ラオのバックハンドリターンがロングになって、3時間2分におよんだ混戦を尾崎が制した。

 勝利の瞬間、尾崎はラケットを放り投げて、両手を顔にあてて喜び、両目は涙が浮かんで真っ赤になった。

「相手のマッチポイントを5回しのいだのは、私らしいプレーというにもありますし、よく取れたなという感じです(笑)。あきらめてはいなかったですけど、10%ぐらいはだめかなと正直思いました。何とか最後まであきらめずにできてよかったです」

 尾崎の海外テニスツアーに帯同する川原努コーチは、まずはグランドスラムで1勝を挙げたことに胸をなでおろした。

「あきらめていました(笑)。でも、あのマッチポイントの時の里紗のプレーが、一番マシだった。グランドスラムでの1勝の難しさがありました」

 2回戦では、第27シードのジャン・シューアイ(26位、中国)に、0-6、3-6で敗れて、シード選手との力の差を見せつけられた。

「前日(1回戦)の疲労もあって、体の動きが硬かった。シード選手と対戦して力の差は感じましたしが、もっとできると自分で思うとこともある。私は、どんどんエースを狙えるタイプではないですし、それほどパワーがあるわけじゃないので、(自分が)振られた時のボールとか食い込まれた時に、もっと精度よく、深く、イーブンに戻せるボールをしっかり打たないと通用しない。それができている時は、格上の選手といい試合をして勝てているので、そこをもっとつめていきたい」(尾崎)

 さらに上を目指すための課題は多い。尾崎は、リードしたり、勝負が競ったりすると、スウィングが小さくなり、スウィングスピードが鈍る傾向が見受けられる。そのためストロークが浅くなり、ボールがバウンドしてから威力がなかった。一球一球のクオリティーを上げなければならない。

「グランドスラムで1回勝てたので、これから里紗のプレーの質を上げたい。上を目指してハングリーに挑戦してもらいたい」(川原コーチ)

 ジュニア時代から追い詰められると精神的に強いという尾崎の特性は、5回のマッチポイントを逃れた1回戦で見受けられたが、この彼女の強みは大事にして磨きをかけてほしい。ただ窮地に陥る前に、尾崎のメンタルの強さが存分に発揮されて強敵に挑むのが理想だろう。

 やはり尾崎にとって、USオープンが開催されているニューヨークはラッキープレースだ。

 15歳の時に尾崎は、2009年USオープンのジュニアの部に、初めて出場して予選を勝ち上がってシングルスの本戦に進出し、さらにダブルスではベスト8に進出したのだった。

 そして、今回はプロとしてグランドスラムの初勝利をUSオープンで手にしてみせた。

「USは、やっぱり縁があるかなと思っています。好きなコートですし、私にとっては好きな環境です」

 ニューヨークでつかみ取った貴重な勝利を自信にして、23歳の尾崎のさらなる飛躍に期待したい。

ITWA国際テニスライター協会メンバー、フォトジャーナリスト

1969年2月15日生まれ。東京都出身。明治大学商学部卒業。キヤノン販売(現キヤノンMJ)勤務後、テニス専門誌記者を経てフリーランスに。グランドスラムをはじめ、数々のテニス国際大会を取材。錦織圭や伊達公子や松岡修造ら、多数のテニス選手へのインタビュー取材をした。切れ味鋭い記事を執筆すると同時に、写真も撮影する。ラジオでは、スポーツコメンテーターも務める。ITWA国際テニスライター協会メンバー、国際テニスの殿堂の審査員。著書、「錦織圭 15-0」(実業之日本社)や「STEP~森田あゆみ、トップへの階段~」(出版芸術社)。盛田正明氏との共著、「人の力を活かすリーダーシップ」(ワン・パブリッシング)

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