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“初ガンダム”の人も増加中?「機動戦士ガンダム 水星の魔女」がみせる「ガンダム」シリーズの強さ

小新井涼アニメウォッチャー
(写真:イメージマート)

話題作が豊富といわれる秋アニメ。

その中でも特に今、放送開始後からじわじわとその人気を広げ続けているのが「機動戦士ガンダム 水星の魔女」です。

有名な「ガンダム」シリーズだけあり、それだけ注目度も高く、人気が出るのも当然では、と思う方もいらっしゃるかもしれません。

しかし本作は現在、従来のファンのみならず、これまで「ガンダム」をみたことが無い、本作が“初ガンダム”となる人達までもが続々と視聴を始め、人気を高めているようなのです。

一体何故なのでしょうか。

■「機動戦士ガンダム 水星の魔女」

本作は、ご存知「ガンダム」シリーズの最新作にして、実に約7年ぶりとなるテレビシリーズです。

宇宙産業の大手企業が経営する特殊な学園を主な舞台に、水星からパイロット科に編入した主人公の少女が、生徒間やその背後に渦巻く親同士/企業間同士の因縁や策略に巻き込まれながらも、自身の愛機と共に、訓練や戦いに身を投じていく姿がここまで描かれています。

ここからも分かる通り、本作は、テレビシリーズでは初となる女性を主人公に、シリーズでも珍しい舞台設定により学園モノとしての一面も持つなど、“新しいガンダム”とも謳われている作品です。

そしてこうした新鮮な設定が、本作をシリーズ本来の魅力を損なうことなく、しかし重すぎない、初めて「ガンダム」に触れる人にも大きく間口を広げた作品にしています。

■“初ガンダム”への招待

機体同士の戦いは、人の生死が頻繁に描かれる“戦争”ではなく、学園で開かれる学生同士の“決闘”の中で、重くなりがちな出身や家柄による“差別”や“迫害”は、ややオブラートに学園内での“スクールカースト”や“嫌がらせ”を通して描かれている本作。

極めつけが、主人公の少女を巡り、理事長の娘やエースパイロットの御曹司が繰り広げる婚約騒動や、編入早々学園内で浮いてしまう主人公と周りの学友達との衝突や協力関係といった、シリーズ初体験の人にも親しみやすい学園ドラマ的な要素です。

これらは従来のシリーズで描かれてきた重厚なメカアクションや人間ドラマを決して陳腐化している訳ではなく、むしろ初心者が無暗に触れてはいけないと思ってしまう“歴史あるシリーズゆえのハードルの高さ”を取り除くものになっているように思います。

そうして描かれる魅力的なキャラクター達やその関係性は、SNSでの感想や考察、ファンアート等を通して広がり、シリーズのファンで有る無しに関係なく幅広い層の興味を惹きつけ、今現在、新たに視聴を始める人を徐々に増やし続けているのです。

あくまで「ガンダム」でありながらも、間口を広げ、ハードルの高さを取り除くことで、初めてシリーズに触れる人にも“自分達が触れていい作品なのかもしれない”と思わせたこと。それこそが、本作で“初ガンダム”の人が増えている大きな理由のひとつだと思います。

■「ガンダム」シリーズが持つ作品としての強さの真髄

とはいえ実はこれまでも、「新機動戦記ガンダムW」や「機動戦士ガンダムSEED」、「機動戦士ガンダム00」や「機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ」等で、本作同様、そこからシリーズに足を踏み入れる新しいファンの流入は度々起きてきました。

単に有名で、歴史や人気があるというだけでなく、これらの作品や本作のように、「ガンダム」を知らない世代が生まれてきても、その時代に合わせて新たな宇宙を作り続けていくことができる懐の深さも、「ガンダム」シリーズの持つ強さの真髄なのかもしれません。

重すぎない「ガンダム」とはいえ、本作前日譚の「PROLOGUE」やオープニングテーマを原作とした書き下ろし小説をみると、そればかりではないことも予感させる「機動戦士ガンダム 水星の魔女」。

オリジナル作品である本作の物語が、これからどう展開していくのか、まだ視聴していなかった方も、ぜひこれから追い付いて、その行方を見守ってみてはいかがでしょうか。

アニメウォッチャー

北海道大学大学院国際広報メディア・観光学院博士課程在籍。 KDエンタテインメント所属。 毎週約100本以上(再放送、配信含む)の全アニメを視聴し、全番組の感想をブログに掲載する活動を約5年前から継続しつつ、学術的な観点からアニメについて考察、研究している。 まんたんウェブやアニメ誌などでコラム連載や番組コメンテーターとして出演する傍ら、アニメ情報の監修で番組制作にも参加し、アニメビジネスのプランナーとしても活動中。

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