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「ヴァイオレット・エヴァーガーデン外伝」週末放送:プロデューサー陣に聞くSNS時代の金曜ロードショー

小新井涼アニメウォッチャー
(c) 暁佳奈・京都アニメーション/ヴァイオレット・エヴァーガーデン製作委員会

今週末、「金曜ロードショー」で放送される京都アニメーション制作の映画「ヴァイオレット・エヴァーガーデン 外伝 -永遠と自動手記人形-」。

他局で放送されたテレビシリーズを特別編集版として放送した上での今回の放送には、発表当時から多くの注目が集まっています。

その異例ともいえる放送実現の経緯を伺った前編に続き、後編ではアニメ放送全般における近年の取り組みについて、引き続き「金曜ロードショー」プロデューサーの岩佐直樹さんと北條伸樹さんにお話を伺いました。

誰もが知っている「金曜ロードショー(以下「金曜ロード」)」の、なかなか知られていない“アニメ放送にかける想い”とは、一体どのようなものなのでしょうか。

■「金曜ロード」とSNS

アニメ作品の放送時はSNSでの反応が特に大きいとのことでしたが、実際に先週の「ヴァイオレット・エヴァーガーデン 特別編集版」の放送では、放送直後から“#ヴァイオレット・エヴァーガーデン”がTwitterで世界トレンド1位となり、注目を集めていました。

岩佐:トレンド入りをすると、それをみた人が『あ、今この作品やってるんだ』と気づいてくれるんですよね。

―放送中はもちろん、その日はお昼前からずっと作品名がトレンドに挙がっていましたが、こうしたSNSでのトレンド入りも、アニメ放送時の盛り上がりには欠かせないものとなってきているのでしょうか。

岩佐:スマホが一番の情報源という世代の人達も、テレビでやってるなら…と、みてくれるので、そういう意味でもSNSで話題になるのは大きいなと思っています。

―番組側からも、そうしたSNSでの反応を意識した取り組みは行っているのでしょうか。

岩佐:例えば「金曜ロード」のTwitter公式アカウントでは、毎回作品にまつわる裏話やネタをオンエア中のシーンに合わせてリアルタイムで投稿しています。

地上波で映画を放送することの強みって、日本全国で同じ時間に同じものを一斉にみるというライブ感やお祭り感を作れることだと思っていて、今は皆さんがテレビとSNSを通してそのお祭りに参加してくれるんですよね。

なのでこちらからも、そこでの会話のきっかけになるような投稿をして盛り上がっていければと、毎週積極的に情報発信をしています。

―今こうしてSNSが定着したことで、視聴者側に変化を感じることはありますか。

北條:自分が「金曜ロード」の担当になった4年前と比べると、“ながら見”への抵抗がなくなってきているようで、SNSをみながら「金曜ロード」をみることが定着してきた実感があります。

もちろん集中して楽しんでくださる方もいらっしゃいますが、傾向として、伏線が張り巡らされていて画面をじっくりみながら鑑賞する作品よりは、気軽にみられる作品の方がSNSとの親和性は高いのかな、と感じるようになりました。

岩佐:その意味で、まさしくジブリ作品のような『知ってるけどみる』というお馴染みの作品は、Twitterも特に活発になっているのを感じます。

―そうした特性を活かして、今年のジブリ作品のオンエア時には、スタジオジブリのTwitterアカウントと連動したリアルタイムでの質問企画も行っていました。こちらはどのように実現したのでしょうか。

岩佐:あれはスタジオジブリさんの協力があってのことですね。

ジブリさんのTwitterアカウントが去年の年末に立ち上がったのですが、これからどういうことをやっていこうかという時に「金曜ロード」がリアルタイムでツイートをしていることを伝えたら、じゃあ一緒に何かできないかな、と言ってくださり実現しました。

ツイートからは伝わりにくいですが、「ハウルの動く城」の時はリアルタイムで鈴木敏夫さんにお付き合いいただき、放送中に本人が隣で答えてくれたことを逐一投稿するということをやらせていただいて、非常に盛り上がりました。

―こうした他の公式アカウントとの連動は、今後も積極的に行っていくのでしょうか。

岩佐:皆で今一緒のシーンをみているという一体感も生まれる面白い取り組みなので、次放送するときはどうしようかと、ジブリさんとは毎回ご相談させていただいています。

また、「名探偵コナン」のTwitterアカウントもすごく活発で、今も放送のたびにお互いリツイートしあってますし、そうした作品側の公式アカウントとも上手く連動して、放送中に一緒に盛り上がっていきたいです。

■視聴者参加型の投票企画

―ジブリ作品をはじめとする「金曜ロード」お馴染みの作品では、そうした放送外での新たな取り組みでも話題になっています。そのひとつに、ここ数年度々行われている視聴者参加型の投票企画がありますが、こちらはどのような経緯で始められたのでしょうか。

岩佐:今の時代、Twitterなどを通じて『この作品がみたい』という声が僕達にも届きますので、じゃあ一旦こちらでちゃんと募って、皆さんからの声が多いものをお届けしてみようと企画したのがきっかけです。

ご自身が作品選びに参加できるということで、視聴者の皆さんも興味をもってくれるかなと思い、まずは劇場版だけで20作以上ある「名探偵コナン」から始めました。

―実際の投票結果からは、視聴者のどのような想いがみえてきましたか。

岩佐:先月放送した「みんなが選んだ ルパン三世」も、アニメ50周年ということでこれは全部振り返るしかないとやらせていただいたのですが、各シリーズ各作品に皆さんそれぞれの思い出や想い入れがあるのをみて、実際の放送ではランキング上位作を放送しましたが、答えはひとつじゃないということを改めて感じましたね。

また、今回はテレビシリーズのセレクション放送作品に「ルパン三世 PART5」のエピソードが選ばれたのですが、正直これは我々も驚きの結果でした。

往年のシリーズが好きな昔からのファンもいてくれる一方で、若い人達も新しいルパンを気に入って投票してくれたからこその結果なのかなと思うと、幅広い世代の方々に参加していただけたようで嬉しかったです。

北條:幅広い世代といえば、最近はアニメに限らず映画作品全体でのリクエスト企画「金曜リクエストロードショー!」も行っているのですが、そこでは自分が“みたい”作品だけじゃなく“みせたい”作品も募っているので、上の世代が若い世代にみてもらいたい作品に投票されることもあります。

そうして古い作品にスポットが当たった時に、実際に若い人達も意外とみてくれていて、「金曜ロード」が知らなかった作品との出会いの場にもなっていました。

そう考えると、そのリクエスト企画に今回の「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」を望む声があったこともより頷けまして、古いとか新しいとか、有名かどうかは関係なく、まだ知らない人にも“みてもらいたい”と思わせる作品力も、リクエスト企画ではポイントになっているのを感じます。

―アニメ以外でのリクエスト企画といえば、第4弾で選ばれた「タイタニック」は、声優の石田彰さんが吹き替えをされた“幻の「金曜ロード」バージョン”での放送ということで、アニメファンの間でもかなり話題になっていました。

北條:「タイタニック」は作品としてのリクエストも多かったのですが、加えて石田さんバージョンがみたいという声が圧倒的に多かったので、その部分までリクエストに応えましょうと、石田さんバージョンを放送させていただきました。

岩佐:リクエストの理由に『石田さんバージョンがみたい』と書いてあるんですよね。

北條:洋画では色々な吹替えのバージョンがありますので、そこも意識して放送するようにしています。

「グーニーズ」を放送した時も、あれは実はTBSさんのバージョンなんですけども、野沢雅子さんや古谷徹さんがご出演されているということで、吹き替えへの反響もやはり大きかったです。

■これからの「金曜ロード」とアニメ

―今後放送されるアニメ作品についてもぜひお聞きしたいのですが、今回の「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」のように、挑戦的に放送したいという作品はありますか。

岩佐:今は探している最中ですね。いい作品があれば、どこが作ったとか、テレビシリーズか映画かといった作品形態に関係なく放送したいと思っています。

―そうした時に、視聴者側から『「金曜ロード」でこれを流して欲しい!』といった声を届ける方法はあるのでしょうか。

岩佐:Twitterの公式アカウントへは『この作品がみたい』といったリプライを今も沢山いただいているので、そちらへはもちろん目を通しています。

北條:あとはリクエスト企画も、定期的に開催していきたいですね。

視聴者の皆さんがみたいものを放送する、という想いがありますので、全ての人の声を全部反映するのは難しいですが、それでも出来るだけ多くの人がみたいと思っている作品を放送したいです。

―既に様々な取り組みをされている「金曜ロード」ですが、SNSやリクエスト企画以外でも、今後アニメ関連で何か新しい取り組みをされる予定はありますか。

北條:岩佐が本当にアニメのスペシャリストなので、彼が担当している間に「金曜ロード」のオリジナルアニメが制作できないかという話はしています。

―ゼロからの「金曜ロード」オリジナルアニメですか!

北條:「ルパン三世」のテレビスペシャルのようなお馴染みのオリジナル作品はもちろん、例えば原作ものでもいいと思うのですが、ゼロから「金曜ロード」発のオリジナル作品を「金曜ロード」で放送したいという想いはあります。

アニメはどうしても放送するまでに制作の時間がかかってしまうので、まだまだ実現には至っていないところでありますが、やりたいねという話は常々しています。

―ぜひみてみたいです。最後に、そうした新たな取り組みを含む「金曜ロード」のアニメ放送への今後の展望をお聞かせください。

北條:劇場作品だけにこだわらず、配信限定作品でも、今回の「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」のようにテレビシリーズからでも、アニメファンには有名だけどまだ広くは知られていない作品を探して放送していきたいです。

加えて、そうした新しい作品はもちろん、「カリオストロの城」といった、当時リアルタイムでみていた人が懐かしいと思えて、知らない年代の人も楽しめる往年の名作もまだまだ沢山ありますので、両方の目線からアニメ作品に向き合っていきたいと思います。

岩佐:これまでもそうでしたが、今後もアニメが「金曜ロード」のひとつの軸になっていくことは間違いありません。

ジブリ作品や「ルパン」や「コナン」といったお馴染みの作品は「金曜ロード」で放送することで、さらに次の世代にも繋げつつ、一方で、まだあまり知られていないけど広くみていただける作品もみつけていくために、皆さんからのお声にもアンテナを張っていきたいです。

そうしてみつかった作品も「金曜ロード」で放送し続けることで、現在の「風の谷のナウシカ」のように、5年後も10年後も新しい世代に繋げていけたらいいですね。

今回の「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」も、そういう作品になってくれたら嬉しいです。

アニメウォッチャー

北海道大学大学院国際広報メディア・観光学院博士課程在籍。 KDエンタテインメント所属。 毎週約100本以上(再放送、配信含む)の全アニメを視聴し、全番組の感想をブログに掲載する活動を約5年前から継続しつつ、学術的な観点からアニメについて考察、研究している。 まんたんウェブやアニメ誌などでコラム連載や番組コメンテーターとして出演する傍ら、アニメ情報の監修で番組制作にも参加し、アニメビジネスのプランナーとしても活動中。

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