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劇場版「鬼滅の刃」無限列車編、北米公開1ヶ月を終えて。現地での反響やその要因とは

小新井涼アニメウォッチャー
(筆者撮影)

先月4月23日、ついに北米でも上映がスタートした劇場版「鬼滅の刃」無限列車編。

公開初週に北米の週間興行収入ランキングで1位になるなど、現地での大きな反響が日本国内でも話題となりました。

北米で日本の、それも深夜アニメ発作品の劇場版がこれほど評判になることは、筆者の知る限りでは恐らく初めてです。

果たしてその要因は一体どこにあったのでしょうか。またこのことは今後、日本の劇場版アニメの北米展開にどのような可能性をもたらすのでしょうか。

北米における、本作劇場版「鬼滅の刃」無限列車編への公開後1ヶ月間の反響を振り返りつつ、考察してみます。

■北米でのヒットの規模感

北米内外での興行成績を報告するオンラインサービス・Box Office Mojo by IMDbProによると、本作は公開初日の4月23日、北米のデイリーランキングにて興行収入1位を記録しています。

これは、同日に封切りされた「Mortal Kombat」を抑えてのもの。それも本作は、各所で言及されていますが、3000館以上で上映をスタートした「Mortal Kombat」と比べて1500館ほどでの上映規模だったにもかかわらず、この成績を収めたのです。

近年では、2020年に北米公開された「僕のヒーローアカデミア THE MOVIE ヒーローズ:ライジング」が、同じく1200館ほどの上映規模で公開初日の北米興行収入1位を獲得 して話題となりましたが、本作は興行収入がその時の3.5倍以上にもなっています。

そうした大反響を受けて、一時は上映館も2000館以上に拡大され、本作は公開初週の週間ランキングや、4月末からの週末ランキングでも首位を獲得してきました。

しかしその後は徐々に落ち着きをみせ始め、まだまだ各所で上映は続いているものの、5月末現在は週末を除きデイリーランキング圏外の日も続いているようです。(それでも5月のマンスリーランキングでは4位

こうしてみると、未だに興行収入歴代最高記録を伸ばし続ける日本国内と比べたら、盛り上がりの収束が早すぎるように思うかもしれません。

しかし現状既に北米での興行成績でも「千と千尋の神隠し」を超えており、当時北米で驚異の大ヒットとなった「劇場版ポケットモンスター ミュウツーの逆襲」と比べても、興行収入はその半分に届くほどの十分な高成績です。

日本と同じ規模でのヒットには及ばずとも、未だ北米ではニッチとされる日本のアニメ映画がこれだけの快進撃をみせたことは、コロナ禍というイレギュラーな状況下ではあるものの、かなり驚異的な出来事だと思います。

■大きな反響の外的要因

これだけの反響が生まれた背景として、本作テレビシリーズは北米でも好評で、現地のファンにとっては待望の劇場版公開であったことや、実際に上映された本作が、そんなファンを十分に満足させるものであったことなどが、SNSや各種レビューサイトからも窺えます。

ではそうした作品内容への評価の他には、どんな要因があったのでしょうか

まず考えられるのが、本作が北米での公開以前(日本での公開時頃)から、既に現地のメディアによって度々取り上げられていたことです。

恐らく注目され始めたきっかけは、日本でのヒットや作品への評価というよりも、このコロナ禍でも劇場版ヒット作が生まれたことや、世界的にも有名な「千と千尋の神隠し」の興行収入を上回ったことだったとは思います。

しかし、そうして度々本作が一般層の目にも留まる媒体で取り上げられていたことは、日本と比べてアニメファン以外にはまだ作品名すらなかなか知られていない北米圏において、本作の知名度が多少なりとも上がったり、北米での公開時に、現地メディアから改めて本作へ注目を集める布石ともなっていたのではないでしょうか。

その他に考えられるのは、現地の配給会社であるAniplex USAやFunimationが、現在北米での劇場版アニメの展開にかなり力を入れているであろうことです。

現在北米では、日本の新作テレビアニメの多くがオンラインで時差なく楽しめるようにはなったものの、劇場版アニメの上映に関しては、未だ公開までの時間や劇場数、公開日数などがかなり限られています。(その分デジタル配信も普及していますが)

原因として、現地での作品知名度がまだ低いことや劇場の確保が難しいことなどが考えられますが、そんな現状も鑑みてか、本作に関しては、各国の「鬼滅」声優対談や、ラッピングトレインの運行など、これまでにはあまり見られなかった積極的なPRがうたれていたのです。

上映劇場に関しても、現在北米での知名度は恐らく本作よりも高い前述の「僕のヒーローアカデミア THE MOVIE ヒーローズ:ライジング」(同じく現地の配給はFunimation)よりも更に300館ほど増えており、メジャーなハリウッド映画と比べるとまだまだ少ないながらも、上映規模の拡大にも力が入れられていることが窺えます。

現地で心待ちにしていたファンの熱量に加えて、こうした一般層からの注目や、現地配給会社による積極的な劇場版アニメの展開といった外的要因も、本作がこれほどまでの反響を生んだ後押しとなっていたのではないでしょうか。

■今回の反響を受けて…

新作が時差なく大量に楽しめるようになり、現地の熱烈なファンも増えているとはいえ、まだまだ北米全体からみればメジャーではない日本の劇場版アニメ。

しかしそんな中で生じた本作への大きな反響は、現地メディアで取り上げられたり、積極的にPRされることによって、確実に日本の劇場版アニメが、アニメファン以外の一般層の目にも触れる機会を増やしたと思います。

その点において、今回の劇場版「鬼滅の刃」無限列車編への反響は、日本でのメガヒットとまではいかないものの、今後日本の劇場版アニメが、北米での展開をより拡大していくためのひとつの糸口になったと言えるのではないでしょうか。

本作がこの後現地でどこまで興行成績をのばしていくのかはもちろん、今回の反響を受けて、同じく北米でも人気が高い作品の劇場版「僕のヒーローアカデミア THE MOVIE ワールド ヒーローズ ミッション」や「劇場版 呪術廻戦 0」が、現地でどのような反響を生むのかにも、今後注目が集まっていきそうです。

※2021年5月24日14:33「公開2週目には北米の週間興行収入ランキングで1位」→「公開初週に北米の週間興行収入ランキングで1位」へ修正。失礼いたしました。

アニメウォッチャー

北海道大学大学院国際広報メディア・観光学院博士課程在籍。 KDエンタテインメント所属。 毎週約100本以上(再放送、配信含む)の全アニメを視聴し、全番組の感想をブログに掲載する活動を約5年前から継続しつつ、学術的な観点からアニメについて考察、研究している。 まんたんウェブやアニメ誌などでコラム連載や番組コメンテーターとして出演する傍ら、アニメ情報の監修で番組制作にも参加し、アニメビジネスのプランナーとしても活動中。

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