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秋口にラブロマンスは戻ってくるのか!?~世界一キライなあなたに~

清藤秀人映画ライター/コメンテーター
9月12日時点でラブロマンスとしては今年最大のヒット作!

ブロックバスター映画のプリクエル、リブート、スピンオフ、それに伴う人気スターの離合集散が花盛りのハリウッドで、ラブストーリーの王道を踏襲しつつ、捻りを効かせた展開で観客の興味を惹きつけ、恋愛映画としては現時点で今年最大のヒット作に位置づけされているのが「世界一キライなあなたに」。このデータは映画の興収成績を集計し、分析している映画サイト、Box Office Mojoに因るもので、同作は"ロマンティック・ドラマ部門"で全米、世界興収共に2016年9月12日現在でNO.1なのだ。

ベースになっているのはイギリスの恋愛小説家、ジョジョ・モイーズが12年前に発表し、日本でも「ミー・ビフォア・ユー きみと選んだ明日」と題された翻訳版が発売されている世界的ベストセラーで、同書は全世界で850万部を売り上げている。さらに、今年5月23日に映画が全米公開された際、公開の翌週にUSA TODAYのベストセラーランキングで前週の141位から3位へと一気にランクアップ。映画と小説の理想的な相乗効果ではないか!?さていったい、この物語のどこにそれ程のヒット要素が潜んでいるのだろう?

ヒロインは気のいい田舎娘のルイーザ(左)
ヒロインは気のいい田舎娘のルイーザ(左)

まずは、キャラクターとその設定。イギリスの片田舎で心優しい家族に囲まれて育ち、働いていたカフェが突如閉店になっても焦る様子がないヒロインのルイーザは、何となく日々を過ごす人のいい26歳。方や、そんなルイーザが半年限定の契約で慣れない介護の仕事を引き受けることになるのは、セレブな家庭に生まれ育ち、将来を嘱望されたスポーツマンでありながら、バイク事故で生涯車椅子生活を余儀なくされた青年実業家のウィル。失望感から他者に対してきつく接してしまうウィルの心が、計算尽くではなく、生来のおおらかキャラで押しまくるルイーザによって次第に溶解し、やがて、それが恋にシフトして行くのだが。。。

衣装デザインは「マリリン 7日間の恋」のジル・テイラー
衣装デザインは「マリリン 7日間の恋」のジル・テイラー

このあたり、恋愛ドラマのルーティンを踏襲はしているものの、ルイーザ役のエミリア・クラークのオーバーアクトすれすれの天然演技が、許せる範囲内で観客の許諾をゲット。ルイーザがそのふくよかな下半身に当初はドットのスカートに黄色のもこもこセーターを無頓着にコーデして、サム・クラフリン扮するウィルをどん引きさせるが、恋のムードが上昇するに伴い、薔薇をあしらった水色のフレアワンピースや、Vラインも大胆な真紅のナイトドレスをチョイス。ウィルに生きる喜びを教えようとしたルイーザが、彼にエスコートされてコンサートのセレブシートに腰を落とし、南の島での豪華リゾートを満喫しながら、逆に人生の醍醐味を実感するプロセスも含めて、映画史に於いて綿々と受け継がれる、これもある種のシンデレラストーリー。ヒロインが夢のような時間を体験し、結果、垢抜け、女性として自立して行くという意味で。

ウィルとルイーザの未来は?日本でのヒットは?
ウィルとルイーザの未来は?日本でのヒットは?

しかし、このシンデレラストーリーには意外な結末が用意されている。なんと、ウィルは自分の未来を憂慮した結果、自らの命を半年と決めていたのだ。果たして、ルイーザは最も過酷な試練を持ち前の明るさで克服できるのか、どうか?原作小説が多くの人々に愛読される最大の要因である衝撃的で感動的な結末は、是非、劇場で確認して欲しい。

公開前の宣伝会議では、ルイーザが頑なに心を閉ざすウィルに対して抱く負の感情と、やがて芽生える愛おしさに着目した結果、意味が伝わりづらい原題の「Me Before You(あなたの前の私」は勿論、どこかで聞いたことがあるような小説の副題「きみと選んだ明日」も却下。結果、「世界一キライなあなたに」というけっこう攻めたタイトルに落ち着いたという。さて、邦画のメガヒット作が今なお市場を席巻し、ブランジェリーナの離婚闘争に注目が集まるこの秋口、略して「セカキラ」が日本でもヒットして世界興収に数字を上乗せできるだろうか!?

世界一キライなあなたに 10月1日(土)、全国ロードショー

配給:ワーナー・ブラザース映画

https://warnerbros.co.jp/c/movies/sekakira/

(C) 2016 Warner Bros. Entertainment Inc. and Metro-Goldwyn-Mayer Pictures Inc. All Rights Reserved

映画ライター/コメンテーター

アパレル業界から映画ライターに転身。1987年、オードリー・ヘプバーンにインタビューする機会に恵まれる。著書に「オードリーに学ぶおしゃれ練習帳」(近代映画社・刊)ほか。また、監修として「オードリー・ヘプバーンという生き方」「オードリー・ヘプバーン永遠の言葉120」(共に宝島社・刊)。映画.com、文春オンライン、CINEMORE、MOVIE WALKER PRESS、劇場用パンフレット等にレビューを執筆、Safari オンラインにファッション・コラムを執筆。

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