サイ・ヤング賞の受賞経験のないメジャーリーグ現役最高投手は誰だ?

サイ・ヤング賞受賞経験はないがメジャートップクラスの実力を誇るダルビッシュと田中

 サイ・ヤング賞。メジャーリーグでそのシーズンに最も優秀だった投手に贈られる賞で、現役だと13人の投手がこれまでにサイ・ヤング賞に輝いている。日本では沢村賞が最も近いが、沢村賞がセ・パ両リーグから1名を選出するのに対して、サイ・ヤング賞はア・ナ各リーグから1名ずつ選出される。また、沢村賞は先発投手が対象で、該当者がなしの年もあるが、サイ・ヤング賞はリリーフ投手も対象であり、毎年誰かが受賞者として表彰される。

 ちなみにサイ・ヤングとは、メジャーで歴代最多の511勝を挙げた名投手。

 サイ・ヤング賞を受賞している13人の現役投手の中で、複数回受賞しているのは5人。クレイトン・カーショウ(ドジャース)とマックス・シャーザー(ナショナルズ)は3度ずつ選ばれており、シャーザーはタイガーズ時代にアメリカン・リーグ(AL)で1度、ナショナルズ移籍後にナショナル・リーグ(NL)で2回受賞している。

サイ・ヤング賞を受賞した現役投手。赤はAL、青はNLでの受賞。チームは現在の所属チームで、受賞時のチームではない(三尾圭作成)
サイ・ヤング賞を受賞した現役投手。赤はAL、青はNLでの受賞。チームは現在の所属チームで、受賞時のチームではない(三尾圭作成)

 打者編のMVP同様に、サイ・ヤング賞受賞者も現在のメジャーリーグを代表する好投手の名前が並ぶ。

 現役最高の投手はサイ・ヤング賞に3回輝いているカーショウかシャーザーのどちらになると思われるが、サイ・ヤング賞を受賞したことのない現役最高投手は誰になるかを探っていきたい。

 田中将大(ヤンキース)とダルビッシュ有(カブス)の2人の日本人投手はランクインするのだろうか?

2020年に最も稼ぐ投手は?

 

 打者編と同じくまずは今シーズンの年俸ランキングを見てみよう。

2020年度の現役投手年俸トップ10リスト。黄色はサイ・ヤング賞受賞経験者(三尾圭作成)
2020年度の現役投手年俸トップ10リスト。黄色はサイ・ヤング賞受賞経験者(三尾圭作成)

 サイ・ヤング賞受賞経験のないゲリット・コール(ヤンキース)がいきなり1位に躍り出てきた。今オフにヤンキースと9年総額3億2400万ドル(約356億円)のメジャー投手史上最高の大型契約を結んだばかりのコールは、29歳でフリーエージェント(FA)・マーケットに出てきたのが高額契約に繋がった。

 コールと同じくサイ・ヤング賞を取ったことがないスティーブン・ストラスバーグ(ナショナルズ)も今オフに7年総額2億4500万ドル(約270億円)でナショナルズと再契約。同僚のシャーザーも2015年の開幕前に7年総額2億1000万ドルの契約でナショナルズにFA移籍をしてきた。シャーザーとストラスバーグが同じ7年間の契約で、合計ではストラスバーグの方が3500万ドル多いが、シャーザーの契約は最初の4年間の年俸が低く抑えられていたので、今季の年俸はシャーザーの方が少しだけ高い。

 昨季、2年連続でサイ・ヤング賞を獲得したジェイコブ・デグロム(メッツ)は今最も勢いのある投手だが、FA権取得をまたずに、今オフにメッツと5年総額1億3750万ドル(約151億円)で契約延長を結んでしまったので、FA投手ほどの金額を得られなかった。

筆者が「JDG48」と呼ぶデグロムはFA権を待たずに契約延長を結んだために、超大型契約を逃してしまった(Photo by KIYOSHI MIO)
筆者が「JDG48」と呼ぶデグロムはFA権を待たずに契約延長を結んだために、超大型契約を逃してしまった(Photo by KIYOSHI MIO)

勝利への貢献度を表すWAR

 一昔前のサイ・ヤング賞投票では、勝利数、防御率、勝率、奪三振数などが主要な判断材料だったが、セイバーメトリクスが浸透してきた近年はMVP投票同様にWARが大きな判断材料となっている。

 過去2年連続でNLのサイ・ヤング賞に選ばれたデグロムは2018年は10勝9敗、19年も11勝8敗と勝ち星は伸びずに、勝率も辛うじて5割を超える程度ながらWARが良かったことが受賞に繋がった。2010年に13勝12敗でALのサイ・ヤング賞投手となったフェリックス・ヘルナンデス(当時マリナーズ、現ブレーブス)も同じケースだ。

 WARとはWins Above Replacementの略で、メジャー最低レベルの選手と比べて勝利数にどれだけ貢献したかを示す数値。メジャーでは計算式が微妙に異なるFanGraphs版とBaseball-Reference版の2種類のWARが浸透しているが、ここではBaseball-Reference版の通算WARを用いる。

現役投手の通算WARトップ10リスト。黄色はサイ・ヤング賞受賞経験者(三尾圭作成)
現役投手の通算WARトップ10リスト。黄色はサイ・ヤング賞受賞経験者(三尾圭作成)

 通算での記録なので、メジャーでのプレー年数が長い方が有利になるこのリスト。サイ・ヤング賞を3度受賞しているカーショウとシャーザーは共にメジャー経験12年で、15年のジャスティン・バーランダーと16年のザック・グレンキーのアストロズ・デュオがトップ2を占めた。

 昨季はメジャーでプレーできなかったが、まだ引退を拒んでメジャー復帰を狙っているバートロ・コロンがメジャー21年間の貯金を使って7位にランクイン。5位のコール・ハメルズ(ブレーブス)はサイ・ヤング賞は取っていないが、フィリーズでプレーした2008年にはNL優勝決定シリーズとワールドシリーズの両方でMVPに選ばれるなど大舞台での勝負強さが光る投手。通算勝利は163勝で現役8位ながら、WARでは5位までランクアップする。

 8位のセールはトップ10に入った投手の中では最少のメジャー10年でのトップ10入り。10年中4度もWARで投手トップ3に入るなど抜群の安定感を誇る。

マックス・シャーザーはWAR7.0以上を3度記録している(Photo by KIYOSHI MIO)
マックス・シャーザーはWAR7.0以上を3度記録している(Photo by KIYOSHI MIO)

サイ・ヤング賞投票で最も多くの票を稼いだのは?

 最後に比べるのがサイ・ヤング賞の投票率。サイ・ヤング賞投票は投票券を持った30人の全米野球記者協会所属記者が、1位から5位まで5人の投手を挙げる。1位の投手は7ポイント、2位は4ポイント、3位は3ポイントと2位以降は順位が1つ下がるごとに1ポイントずつ下がり、5位の投手には1ポイントが与えられる。

 サイ・ヤング賞投票率は1位で満票だった場合ーー30票x7ポイントの210ポイントーーを100%として、該当選手が得たポイントの割合を計算したもの。

 昨季の投票例で言うと、ALでサイ・ヤング賞に選ばれたバーランダーは1位票17票を含む171ポイントで、2位だったチームメートのコール(当時アストロズ)は1位票13票を含む159ポイントだった。この場合の投票率はバーランダーが81%で、コールは76%。NLは1位のデグロムが207ポイント、2位のリュ・ヒュンジン(当時ドジャース、現ブルージェイズ)は88ポイントだったので、投票率はデグロムが99%で、リュが42%だった。

 この投票率をパーセンテージではなく、数字で表し、通算の投票率を示したのが以下の表だ。

現役投手の通算サイ・ヤング賞投票率トップ10リスト。黄色はサイ・ヤング賞受賞経験者(三尾圭作成)
現役投手の通算サイ・ヤング賞投票率トップ10リスト。黄色はサイ・ヤング賞受賞経験者(三尾圭作成)

 1位から8位まではサイ・ヤング賞受賞者が並んだリストでトップに入ったのは、サイ・ヤング賞3回、投票2位が2回、3位が1度のカーショウ。カーショウの場合は3度の受賞の中で満票が1回、3度全てが投票率90%以上と圧倒的な受賞だったことが通算投票率のアップに繋がった。

 3位までのシャーザーは4.0以上だった一方で、コリーバーからの4位以下の投手は3.0にも満たず、上位3投手とそれ以外の投手で大きく差が開いた。僅か6年の働きで8位に入ったデグロムの活躍が光る。

 9位のアダム・ウェインライト(カージナルス)は2009年から14年までの6年間でサイ・ヤング賞投票のトップ3に4度も入っている。10位のセールは2012年から18年まで7年連続でトップ6に入り、コツコツと投票率を重ねたのが通算投票率のトップ10入りに繋がった。下り坂のウェインライトは今後の受賞可能性は低いが、31歳のセールはトミー・ジョン手術から復帰予定の2021年シーズン以降にサイ・ヤング賞を獲得できるかもしれない。

クレイトン・カーショウのサイ・ヤング賞通算投票率4.57は歴代4位(Photo by KIYOSHI MIO)
クレイトン・カーショウのサイ・ヤング賞通算投票率4.57は歴代4位(Photo by KIYOSHI MIO)

現役最高投手ランキング発表

 年俸、通算WAR、通算投票率の3部門で現役トップ投手を見てきたが、その3つの順位を基に現役最高投手を決めてみる。

 サイ・ヤング賞の投票と同じシステムを使いたかったが、サイ・ヤング賞は5位までしかポイントを得られないので、そうなるとサイ・ヤング賞受賞経験のない現役最高投手は決められない。

 打者編同様に、MVP投票と同じポイント・システムを使ってみた。1位の投手には14ポイント、2位は9ポイント、3位は8ポイントと2位以降は順位が1つ下がるごとに1ポイントずつ下がり、10位の投手には1ポイントが与えられる。

現役最高投手トップ10。黄色はサイ・ヤング賞受賞経験者(三尾圭作成)
現役最高投手トップ10。黄色はサイ・ヤング賞受賞経験者(三尾圭作成)

 サイ・ヤング賞を3回ずつ獲得しているカーショウとシャーザーの争いになるかと思われた現役最高投手の座に着いたのはバーランダー。通算WARで1位、通算投票率で2位とバーランダーは高ポイントを得たのに対して、カーショウは年俸が7位だったのが、シャーザーは14ポイントを得られる1位が1つもなかったのが響いた。

カーショウとシャーザーを抑えて現役最高投手となったジャスティン・バーランダー(Photo by KIYOSHI MIO)
カーショウとシャーザーを抑えて現役最高投手となったジャスティン・バーランダー(Photo by KIYOSHI MIO)

 サイ・ヤング賞獲得経験のない現役最高投手はヤンキースのコール。3部門でトップ10に入ったのは年俸の1部門だったが、年俸の評価(1位で14ポイント)だけで「サイ・ヤング賞受賞経験のない現役最高投手」の称号を手にした。1部門でしかランク入りしていないので腑に落ちない感も残るが、コールの実力は疑いなくこの称号に最も相応しい投手なのかもしれない。

 8位のストラスバーグもコールと同じく年俸リストでの3位タイの結果だけで、総合8位にランクイン。

 サイ・ヤング賞を受賞したことがない投手の中で唯一3部門全てでトップ10入りしたはギリギリで総合ランク10位入りを果たした。

 ヤンキースのエースとなったコールとレッドソックスのエースのセールの争いは、2021年シーズン以降のALの注目ポイントとなるはずだ。

 また、田中とダルビッシュの2人の現役日本人投手の名前が全く出て来なかったのは残念だった。田中は今季年俸が2300万ドル(約25億3000万円)で投手11位、6年間での通算WARは16.9(42位)、通算投票率は0.03。ダルビッシュは今季年俸が2200万ドル(約24億2000万円)で投手12位タイ、7年間での通算WARは22.7(23位)、通算投票率は0.45(2013年のAL投票で2位に入っている)だった。

 それでも、もしも今季が無事に開幕できれば2人の日本人投手の名前をサイ・ヤング賞争いの候補に含める専門家は少なくない。

サイ・ヤング賞経験者以上の高評価でヤンキースへFA移籍したゲリット・コールが、サイ・ヤング賞受賞経験のない現役最高投手に輝いた(Photo by KIYOSHI MIO)
サイ・ヤング賞経験者以上の高評価でヤンキースへFA移籍したゲリット・コールが、サイ・ヤング賞受賞経験のない現役最高投手に輝いた(Photo by KIYOSHI MIO)