復活の村田諒太 激闘の2ラウンドで取り戻した度胸とプライド
ボクシングWBA世界ミドル級タイトルマッチで、チャンピオンのロブ・ブラント(28=米国)に、同級3位の村田諒太(33=帝拳)が挑戦した。
ダウンを奪い、劇的な2RTKOで勝利した。村田は9か月ぶりの再戦で、見事にリベンジに成功した。
チーム帝拳で掴んだ勝利
前回の試合の反省から村田はスタイルを大きく変えて試合に臨んだ。
今回から新たなトレーナーとして、世界3階級制覇のホルヘ・リナレスの弟のカルロス・リナレスが加わった。
主な改善点として相手のパンチでのけぞらないために、前脚を軸にしてバランスを整えた。
後ろ重心気味だったバランスを前重心に変えたことで、重心が安定して、強いパンチが打ち込める。
また、打つパンチも相手に読みにくい、フックやアッパーを取り入れ攻撃にバリエーションをつけた。
ボディ打ちも加えることで、相手の意識を撹乱した。
さらに、戦術にも工夫を加えた。前回は後手になってしまい、相手のパンチの後に打ち返す展開で、パンチが当たらなかった。
今回は相手より先に打つイメージで戦った。
先に打とうとすることで、手数が多いブラントとちょうど相打ちになり、村田のパワーパンチがヒットした。
スパーリングから絶好調で、仕上がりも万全だったようだ。
また、今回は戦う理由が明確だった。
ブラントに負けて失ったプライドを取り戻すために、モチベーションも高かった。
村田のスパーリングを見ていたジムメイトに話を聞いたが、上の階級の相手を、後一息で倒すほど追い詰めていたようだ。
練習は嘘つかないため、そのコンディションの良さが自信になり勝利に繋がった。
前回とは打って変わって序盤から激しい打ち合いを展開し、明らかに違う展開に、ブラントも面食らっただろう。
結果として、2ラウンドの僅かなラウンドではあったが、村田の顔には、幾つもの傷が目立ちこの試合にかける意気込みと激闘の様子がうかがえた。
この試合に選手生命を懸けて、村田は覚悟を持って変えてきた。
勝利者インタビューでも話していたが、チーム帝拳で勝利を掴んだ試合だった。
度胸とプライド
今回の試合を観て、私は、村田本来のスタイルを取り戻したように感じた。
彼の試合は、まだ高校生の時から見ている。
当時、「高校生で、バケモノのように強いミドル級の選手がいる」と噂があった。
アマチュアボクシングでは、ヘッドギアありで、大きいグローブのため、ほとんどが判定決着だ。
しかし村田は、ゴングが鳴ると一気にスパートをかけて、レフリーストップ又はKOで試合を決めていた。
パンチ力と度胸があって、手が付けられない強さだった。高校時代は 、5度の日本一に輝き、卒業後は東洋大学に入った。
大学1年の時は、勝てない時期もあったが、すぐに頭角を現した。大学対抗のリーグ戦では、1分も経たずに試合を決めることもあった。
村田の一番の武器は、「類い稀な身体能力」と「パワー」、それを活かす「度胸」である。
驚きの身体能力
私が現役の時、同門のため、一緒に練習や合宿に行く機会があった。そこでの走り込みキャンプで、村田の身体能力の高さに驚かされた。
一般的にボクサーは、長距離が得意な「持久力タイプ」と、短距離が得意な「瞬発力タイプ」に分かれる。
特に体が大きい階級の選手は、瞬発系の選手が多い。そのため、合宿での走り込みでは得意、不得意に分かれる。
しかし、村田はどちらも抜群に速い。世界王者が多く在籍する帝拳ジムの中で、短距離でも、長距離でも断トツで一番だった。
しかも、負けず嫌いなので、トップを譲ることはない。
この身体能力を生かしたスタイルと、誰にも負けたくないという、プライドで勝ち進んできた。
前回の試合では、ディフェンス重視のスタイルで負けた。
だが、この短い期間で、ファイター型に転じた村田の能力の高さと、気持ちの強さに驚いた。
今後の村田諒太
今後については、「モチベーションを高く保てる相手が良いとは考えています」と話していた。
ミドル級は世界のボクシングの中でも中心だ。
WBAスーパー・WBC(フランチャイズ)・IBFと 3つのベルトを持つ統一王者のカネロ・サウル・アルバレス(メキシコ)を中心に、
WBC ジャーモール・チャーロ (アメリカ)
WBO デメトリアス・アンドラーデ (アメリカ)
他にも、ミドル級の帝王で復活を遂げた、ゲンナジー・ゴロフキン(カザフスタン)や、
パッキャオを破ったジェフ・ホーン(オーストラリア)もいる。
誰とやってもビッグマッチだ。日本人としての未知の領域に、今からワクワクする。
オリンピックの金メダリストでミドル級で世界王者、これだけでも偉業だが、更なる活躍に期待したい。
村田の存在が、日本のボクシング界を大きく飛躍させていく。