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1ラウンド目は危険!リナレスがまさかのKO負け

木村悠元ボクシング世界チャンピオン
著者撮影 トレーニング中のリナレス

 ボクシングWBC世界スーパーライト級挑戦者決定戦で、元世界3階級王者で同級2位のホルヘ・リナレス(ベネズエラ)が、同級14位パブロ・セサール・カノ(メキシコ)とアメリカニューヨーク、マディソン・スクエア・ガーデンで対戦した。

 この試合は世界タイトル前哨戦の予定で、リナレスが勝てば2月10日にWBC同級タイトルマッチを行う王者ホセ・カルロス・ラミレス(アメリカ)と、同級13位ホセ・セペダ(メキシコ)の勝者と対戦する予定だった。

 リナレスは、去年5月に現役最強王者との呼び声も高いワシル・ロマチェンコ(ウクライナ)に10回TKO負けして王座陥落。9月に再起戦に臨み、アブネル・コット(プエルトリコ)に3回TKO勝ちしており、今回が再起2戦目だった。

試合開始からわずか15秒でダウン

 試合が始まって初回早々、カノの打ち下ろしの右ストレートでリナレスがダウン。ダメージが残るリナレスに対して、カノはチャンスとばかりに襲いかかった。パワーを武器にリナレスをロープに押し込みパンチを連打した。

 後退するリナレスに対して、カノが大きく振りかぶった右フックが入り2度目のダウン。そして立ち上がったリナレスに対してカノが、このラウンドで決めるとばかりに攻める。そして両者のパンチが交錯したその直後に、カノの返しの左フックが決まり3度目のダウンが追加された。

 リナレスは、このパンチが完全に効いてしまったようで苦しい表情を見せる。立ち上がったが、あきらかに足下がおぼつかない。スリーノックダウン制では無いため試合は再開されたが、その後にふらついたところでレフリーがストップ。

 4階級目を目指したリナレスだが、カノのパワーの前にまさかのKO負けとなった。

1ラウンド目はKOが生まれやすい

 ボクシングは何が起こるかわからない。今回の試合では、実績も世界ランキングも優るリナレス有利の声が大きく聞かれた。しかし、試合ではカノが3度のダウンを奪い圧勝となった。1発のパンチで流れが大きく変わってしまう。特に序盤の1ラウンド目は注意が必要だ。お互いにパンチの出所やタイミング、強さもわからないためKOが生まれやすい。

 ボクサーはラウンドを重ねるたびに、相手の情報を蓄積していく。強いパンチでも相手の攻撃に慣れてくれば反応ができて、対処することができる。しかし、1ラウンド目は相手の情報が無いためパンチをもらいやすいのだ。今回の試合でも試合開始15秒ほどで、カノが打ったパンチがリナレスを直撃した。

 少し変則的に打つカノのパンチは、軌道が読みづらかった。そのため、間合いやタイミングがわからず直撃してしまった。そして相手の圧力によって、その後の追撃を許してしまった。序盤はもう少し慎重に、相手の様子を見て攻めるべきだった。

打たれ強さは鍛えられない

 今回の試合では体格差はあまり感じられなかった。リナレスもスーパーライト級に合わせて体を作ってきたのだろう。以前より体の厚みも増してトレーニングを積んできたように見えた。しかし、階級を上げると相手のパワーも増す。体重を増やすことで筋力などでパワーは増えるが、打たれ強さまでは鍛えられない。強いパンチをもらったら効いてしまうのだ。

 リナレスがパワーアップした分、戦う相手も体が大きくなる。ライト級は、135ポンド(61.23キログラム)以下でスーパーライト級 は140ポンド(63.50 キログラム)以下である。ひと階級での体重差は、およそ2キロ程である。たった2キロではあるが、ボクシングでのその差は大きい。前の階級ではパワーが通じても、ひとつ階級を上げるだけでパワーが通じなくなるケースは多い。

 今回の場合も序盤にいいパンチをもらってしまい、カノのパワーに翻弄されてしまった。このラウンドを凌げれば、まだ立て直すチャンスはあったとは思う。しかし、パワーと勢いに呑まれKO負けとなってしまった。

リングで戦うには明確な目標が必要

 適正階級の見極めと階級を上げるタイミングは非常に重要だ。どんなに強い選手でも適正階級を見誤ると、勝てなくなるのがボクシングの難しいところだ。3階級を制覇しているリナレスの今後のモチベーションも気になるところだ。

 また、過酷なリングで戦い抜くには、明確な目標が必要だ。選手としては十分な実績を残しているリナレスが、今後目指す方向性はどこになるのだろうか。

 私はリナレスとは同門で、一緒にジムでトレーニングや合宿をしてきた。ボクシングのレベルは非常に高く、研究熱心で真面目な性格だ。まだまだトップレベルで戦える実力はあると思うし、応援していきたい。少し休養して、心と体を整えてもう一度世界の頂点に立って欲しい。

元ボクシング世界チャンピオン

第35代WBC世界ライトフライ級チャンピオン(商社マンボクサー) 商社に勤めながらの二刀流で世界チャンピオンになった異色のボクサー。NHKにて3度特集が組まれ商社マンボクサーとして注目を集める。2016年に現役引退を表明。引退後に株式会社ReStartを設立。解説やコラム執筆、講演活動や社員研修、ダイエット事業、コメンテーターなど自身の経験を活かし多方面で活動中。2019年から新しいジムのコンセプト【オンラインジム】をオープン!ボクシング好きの方は公式サイトより

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