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脳の血流はどうやったら増やせるか

木村俊運脳外科医
脳の健康のためには血流はもちろん大事ですが...(写真:アフロ)

外科医ですが、脳が専門と言うこともあって、患者さんなどから「脳の血流を増やす薬やサプリメントとか、何かありませんか」と聞かれることがあります。

確かに、自分自身、ぼうっとして集中できないときなど、脳に上手く血液が巡っていないんじゃないか?と思うこともあります。また「頭に血が上る」という表現があるように、感情が高ぶると脳の血流が増えているような気もします。

実際には、頭に血が上っているような、つまり怒って顔が赤くなったりしているとき、拡張して血流が増えているのは顔や頭の皮膚の血管であり、脳の血流というのは(部分的に多少増えていることはあるにせよ)一定の範囲に収まっています。

運動などによって需要が増す心臓や肺の動脈、あるいは食後に著しく血流が増加する胃や腸といった消化器系とは異なる部分です。

一方、テレビの健康番組などでも脳卒中が取り上げられることが増えています。脳卒中の中でも、脳梗塞では脳の動脈が詰まって起こること、そして詰まっても、すぐに血流を再開させることで、大きな後遺症にならずに済むこともあるということが、知られるようになってきています。

「ではやっぱり脳の血流を増やす方がいいんじゃないの?」ということになるようですが、そうではありません。

確かに、動脈硬化が進んで、脳に血流を送る太い動脈が細くなることもあります。

例えば、自分でも皮膚の上から脈を触れることができる頸動脈は、大脳に血液を送るとても大事な血管ですが、心臓の冠動脈とならんで、動脈硬化の垢(プラーク)が溜まりやすい部分です。

この頸動脈のプラークが溜まってくることで、血液が流れている部分が一定以上細くなると、脳の血流が低下してきますし、さらに進むと脳梗塞になることもあります。

そのため、実際に脳梗塞を起こしたり、あるいは後で述べる血流の検査で、脳梗塞の危険が無視できないくらい血流が落ちている場合には、手術でプラークを取りのぞいたり、カテーテルで狭くなっている部分を広げたりする治療も広く行われています。

手術で取りのぞいた頸動脈のプラーク(垢) (自験例)
手術で取りのぞいた頸動脈のプラーク(垢) (自験例)

また、医学的な証拠(エビデンス)という点では弱いですが、この頸動脈や頭の中の太めの動脈が完全に詰まっているような場合には、やはり脳の血流検査によっては、手術で、「皮膚に栄養を送っている動脈」を脳の血管に繋ぎ、流れを変えることで、脳梗塞の再発を予防するような手術もあります。

脳の血流が極端に足りなくなると、脳梗塞を起こす危険性が高くなるのは確かです。

一方で、このような、動脈硬化などで血流が少なくなっている脳の組織に、急に大量に血流を増やすと、脳の組織や血管がうまく対応できず、痙攣を起こしたり、場合によっては脳の中に出血することさえあります。

脳の血流は、適切な結構狭い範囲の中でコントロールされる必要があるのです。

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「いやいや、そういうことではなくて、脳の血流を増やして認知症を防ぐようなサプリメントなどは無いの?」というのが、最初の質問の意図ですよね。

残念ながら、そのような「お手軽な」サプリメントで十分な医学的な証拠があるものは、現時点ではあまり無いと思われます。

しかし、認知症をできるだけ防げるように、脳の血流を増やす方法はあります。

但し、それがお手軽な方法かというと、人によってはお手軽だし、そうでない方もいらっしゃるかもしれません。

多くの人が、比較的手軽にできること。それは運動です。

脳の中に海馬という部分があって、記憶するのに重要だということは、わりと広く知られているのではないでしょうか。

散歩や軽いジョギングなどの有酸素運動をすると、海馬の血流が増加するという研究があります。

もちろん病的な増加ではなく、マイルドな増加です。

脳で情報のやりとりをする神経細胞は再生しないと長らく言われていましたが、大人になってからも新しく神経細胞ができてくる部分があることが分かっています。記憶の中枢と呼ばれたりする海馬はその代表格です。

細胞が新しくできるには、適切な栄養・酸素などが必要ですが、海馬の血流が増加することが、神経細胞の再生に重要なのかもしれません。

また、運動することで、神経細胞の再生を促進するBDNF(脳由来神経栄養因子)という物質が脳内で増加すると報告されています。

「そんな便利な物質が分かっているんなら、飲み薬か注射薬ができるんじゃないの?」と思われる方もいるかもしれませんが、脳には、血液の中にある「脳にとっては有害な物質」が入れないようにするバリアがあって、注射で投与したBDNFはこのバリアを通れないようです。

運動することが万能というわけではなく、残念ながら、運動すれば認知症に”ならない”、ということではありません。

しかし、多くの研究が「定期的に運動している人は、そうで無い人より認知症になりにくい」とか「運動により認知機能が改善する」ことを報告しています。

身体を動かすことは、脳だけではなく、心臓・肺の働きを改善したり、代謝を良くしたりと、メリットがたくさんあります。

寒くなってくる時期ではありますが、普段運動しない方は、ウォーキングでもよいので出かけてみてはいかがでしょう。

参考文献

  • アンデシュ・ハンセン 「運動脳」 サンマーク出版, 2022

  • DeKosky ST, Williamson JD, Fitzpatrick AL, et al. Ginkgo biloba for prevention of dementia: a randomized controlled trial. JAMA. 2008;300(19):2253-2262.

  • Liu J, Min L, Liu R, Zhang X, Wu M, Di Q, Ma X. The effect of exercise on cerebral blood flow and executive function among young adults: a double-blinded randomized controlled trial. Sci Rep. 2023 May 22;13(1):8269.

  • Marin Bosch B, Bringard A, Logrieco MG, Lauer E, Imobersteg N, Thomas A, Ferretti G, Schwartz S, Igloi K. A single session of moderate intensity exercise influences memory, endocannabinoids and brain derived neurotrophic factor levels in men. Sci Rep. 2021 Jul 13;11(1):14371.

脳外科医

脳神経外科医。脳動脈瘤・良性腫瘍・バイパス手術・微小血管減圧術(顔面痙攣・三叉神経痛)など、微細操作が必用な手術が得意。日本赤十字社医療センター(渋谷)。

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