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菅首相退陣で短命時代に逆戻り「最近の日本政治では良いサムライを見つけるのは至難の業」英誌

木村正人在英国際ジャーナリスト
支持率が低迷する中、退陣を表明した菅義偉首相(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

菅首相「コロナ対策に専念したい」

[ロンドン発]菅義偉首相が3日、自民党臨時役員会で総裁選(9月17日告示、29日投開票)に出馬しないと表明しました。コロナ対策が後手、後手に回る中、東京五輪・パラリンピックを強行し、政権支持率は26%と最低を更新していました(毎日新聞)。

菅政権は就任から約1年で幕引きとなり、今後も猫の目のように政権が交代する恐れがあります。

「国民のために働く内閣」を掲げた菅氏は「コロナ対策に専念したいという思いの中で総裁選には出馬しないと申し上げた。首相となって1年、コロナ対策を中心とするさまざまな課題に全力で取り組んできた。コロナ対策と総裁選の選挙活動には莫大なエネルギーが必要であり、両立できない。コロナ感染拡大防止に専念したいと判断した」と理由を語りました。

英誌エコノミスト「国民とコミュニケーションをとれない」

英メディアも電撃の退陣表明に驚きを隠せませんでした。

英誌エコノミストは「菅氏が首相になった時、多くの人が主役になれるだろうかと心配した。政治の陰の部分を得意としたが、表に出るのは苦手だった。1年後、答えは不適任と出た。菅氏最大の問題は国民とコミュニケーションをとることができないことだ」と指摘した。

「今の日本の有権者が政治家に求めるのは“結果”よりも“過程”をどのように説明するか、まさにこの点に尽きる。ある自民党若手議員は“危機的状況にある時、有権者は政治家から共感を得たいと思っている”と言う。しかし菅氏が自民党総裁選で生き残る可能性はこうした批判からは想像もできないほど高かった」

「この状況は日本の政治には残念ながら競争がないことを反映している。自民党議員は総選挙で多くの議席を失うことを心配しているかもしれないが、実際に政権を失う可能性があると考える人は少ない。自民党内の競争から健全なリーダーが生まれることもない。最近の日本の政治では良いサムライを見つけるのは至難の業」

英BBC放送「五輪開催を決定したことも大きな不評を買った」

英BBC放送は「菅首相の退陣表明は支持率が過去最低になったことを受けて行われた。パンデミックが深刻化しているにもかかわらず、東京五輪開催を決定したことも大きな不評を買っていた」として、変化への期待感や円安でTOPIX(東証株価指数)が30年ぶりの高値を記録したことを報じた。

英紙フィナンシャル・タイムズは電子版のトップニュースで「菅氏が首相就任1年で退任することになり、かつての日本政治を特徴づけた短命首相に逆戻りする危険性が出てきた。官房長官としての能力は高かったものの、有権者とつながるためのカリスマ性やコミュニケーション能力に欠けていたと批判されていた」と報じた。

英紙ガーディアンは「今週初め、菅氏は世論を変えようと、自民党の強力な幹事長である二階俊博氏を交代させ、内閣改造を行うことを決定したが、それだけでは首相の座を守れないとの結論に達した」と分析した。

英紙タイムズ「絶え間ない危機の中で日本の進むべき道を見出せなかった」

英紙タイムズは「菅氏が自民党総裁選に立候補しないというのは予想外のことだったが、国内でも、最近では党内でも人気が低下していた中での決断だった。大きな期待を背負って首相に就任したものの、絶え間ない危機の中で日本の進むべき道を見出すことができず、リーダーとして不名誉な結末を迎えた」と伝えた。

「イチゴ農家の息子として地方政治の世界で実力を発揮してきた菅氏はタフで断固とした現実的なリーダーとしての評判が高かった。しかし自民党幹部が支持を撤回したため、政治的な選択肢がほとんどなくなっていた」と振り返った。

英紙デーリー・テレグラフも「菅氏は自民党総裁として再選を目指すことが広く予想されていた。首相就任前は官房長官という要職に就き、日本の広大で強力な官僚組織を統制するために権力を行使してきたことで恐るべき評判を得ていた」と紹介した。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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