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「王室は人種差別主義者では絶対ない」ウィリアム英王子が反論 兄弟対立が鮮明に

木村正人在英国際ジャーナリスト
「王室は人種差別主義者ではない」と反論したウィリアム英王子(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

[ロンドン発]英王室を完全離脱したメーガン夫人とヘンリー公爵が米人気司会者オプラ・ウィンフリー氏の独占インタビューに夫人が自殺を考えたことや長男アーチーちゃん(1歳10カ月)への「人種差別」を告発した問題で、ウィリアム王子は11日「王室は人種差別主義者では絶対ない」と断言した。

完全に仲違いしたかたちになっているヘンリー公爵とは「まだ話はしていないが、話すつもりだ」とだけウィリアム王子はこの日、公務でロンドン東部の学校を訪れた際、報道陣に語った。エリザベス女王はこれに先立ち9日に次のような声明を出している。

「ハリー(ヘンリー公爵の愛称)とメーガンがこの数年味わった困難を知り、家族全体が悲しんでいる。提起された問題、特に人種の問題は懸念事項だ。記憶はいろいろ変わるかもしれないが、深刻に受け止め、家族としてプライベートに対処する。ハリーとメーガン、アーチーが愛する家族の一員であることに変わりはない」

メーガン夫人は、7日放送の米CBS特別番組で「もうこれ以上、生きていたくないと思った。非常に明確でリアルで絶えず浮かんでくる恐ろしい考えだった」「アーチーが生まれる時、肌の色がどれだけ濃くなるかについての懸念と会話があった」と2時間にわたって告白した。

ウィンフリー氏側に700万~900万ドル(7億6千万~9億7600万円)の放送権料が支払われたと報じられる一方で、メーガン夫人は番組の中で「私は出演料などの金銭は一切受け取っていない」と明言した。

ヘンリー公爵がメーガン夫人への批判報道について「英大衆紙は人種差別主義者であり、偏見に満ちている」と指摘したことに対して「証拠も提示せずにそのように批判することは許されない」と反論した英編集者協会のイアン・マリー事務局長は「人種差別を助長している」と批判され引責辞任に追い込まれた。

英ITVの朝の番組「グッド・モーニング・ブリテン」の人気司会者ピアーズ・モーガン氏が、メーガン夫人の激白について「彼女の言葉を信じない」と発言したことに対して放送規制機関オフコムに4万1千件の苦情が寄せられ、降板した。

モーガン氏は番組の中で「彼女が天気予報を読んでも信じません。彼女は私たちの王室を激しく攻撃したことで軽蔑されていると思う」と批判。そのあともツイッターで「ピノキオ(嘘つきの意味)プリンセス」「言論の自由のために死ぬのなら本望だ」と述べ、番組内での発言を撤回しなかった。

メーガン夫人とヘンリー公爵の告白を鵜呑みにする英視聴者は高齢になるほど少なくなる。メーガン夫人にプライバシー訴訟で敗訴した英大衆紙デーリー・メールの世論調査によると、54%がエリザベス女王は2人に失望させられたと回答、51%が公爵と公爵夫人の爵位剥奪を求めている。

2人の2時間激白を簡単に見ておこう。

【英大衆紙の偏見】

ヘンリー公爵「イギリスには偏見はない。イギリスの報道機関、特に大衆紙は偏見を持っている。しかし残念ながら情報源が本質的に腐敗している、人種差別的である、または偏っている場合、社会に影響を与える」

「私は英大衆紙にメーガン夫人のボーイフレンドとして、夫として、父親としてそっとしておいてくれと頼んだ」「王族と大衆紙の間には密約がある。一緒にワインを飲んだり、食事をしたり、これらの記者にアクセスを許す場合は、ポジティブな報道が得られるだろう」

「何世代にもわたる恐怖支配が存在している」

【メーガン夫人の希死念慮】

メーガン夫人「私には解決策が見つかりませんでした。夜も眠ることができませんでした。母や友人が電話をかけてきて泣きながら言いました。“メグ(メーガン夫人の愛称)、王室はあなたを守っていない”」

「もうこれ以上、生きていたくないと思いました。それは非常に明確でリアルで絶えず浮かんでくる恐ろしい考えでした。彼がどのように私を抱きしめてくれたのかを思い出します」

【アーチーちゃんへの人種差別】

メーガン夫人「アーチーが誕生する数カ月前に、アーチーが王子にはならず、したがって警護も受けられないと王室から告げられた時、ショックを受けました。アーチーが生まれる時、肌の色がどれだけ濃くなるかについての懸念と会話があった(ことをヘンリー公爵から聞きました)」

ヘンリー公爵「最初から難しかった。私たちの子供がどのように見えるか、彼女が女優を続けるかもしれないので警護が受けられないというような会話があった。しかし、それにはここで触れたくない」

ヘンリー公爵とメーガン夫人の王室離脱

昨年1月、ヘンリー公爵とメーガン夫人が突然「王室のシニアメンバーとして退き、財政的に独立するように働きながら、女王陛下を支援する。イギリスと北米でバランスを取りながら過ごす」と宣言。

ヘンリー公爵は父チャールズ皇太子のコーンウォール公爵領からの利益配分230万ポンド(約3億4700万円)を打ち切られたものの、母ダイアナ元皇太子の遺産約650万ポンド(約9億8千万円)を元手に同年3月、王室離脱を強行、北米に拠点を移す。

動画配信サービス、Netflixや音楽ストリーミングサービスのSpotifyとの複数年契約で8千万ポンド(約120億6700万円)以上を稼いだ2人は1470万ドル(約16億円)で米カリフォルニア州サンタバーバラに豪邸を購入している。

今年2月、1年間の見直し期間を待たずに2人は「慈善活動は(王族でなくても)誰にでもできる。王室には永遠に戻らない」と絶縁状を王室にたたきつけている。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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