追い詰められたトランプ米大統領が11月の選挙「延期」を匂わせたツイートの狙い

コロナと経済の失策でほとんど再選の見通しがなくなっているトランプ米大統領(写真:ロイター/アフロ)

「安全に投票できるまで選挙を延期しては???」

[ロンドン発]ドナルド・トランプ米大統領は30日、ツイッターで「誰もが(不在者投票ではなく)郵便投票できる2020年は歴史上最も不正確で不正に満ちた選挙になる。祖国にとって大恥だ。人々が適切、確実、安全に投票できるまで選挙を延期しては???」と疑問を投げかけました。

トランプ大統領は4月上旬から「郵便投票は不在者投票と異なり、不正の温床になる」「共和党に不利」と批判。「ニュージャージー州パターソンの特別選挙では投票の19%が不正だった」(6月29日)と郵便投票はトランプ陣営に不利と危機感を強めていました。

5月に行われたパターソンの特別選挙では新型コロナウイルス感染防止のための郵便投票で19%に当たる3190票が無効とされました。この事件は郵便選挙のセキュリティーに欠陥があることを浮き彫りにすると同時に組織的に不正が行われた場合にはチェックできることも示しました。

6月の民主党ニューヨーク州予備選でも郵便による不在者投票が行われましたが、集計に大きな遅れが出ました。

トランプ大統領はこの日のツイートで「郵便投票はすでに破壊的な災難であることを証明している。民主党は投票における外国の影響を議論しているが、郵便投票は外国が選挙に影響を及ぼしやすい方法であることを知っている。とにかく郵便投票は不正確だ」と主張しました。

選挙延期には連邦議会の承認が必要

しかし選挙の延期を決める権限は大統領にはなく、いかなる遅延も連邦議会の承認がいります。与党・共和党のミッチ・マコーネル上院多数党院内総務もケビン・マッカーシー下院少数党院内総務も「大恐慌でも南北戦争でも米史上、選挙の延期は一度もない」と一蹴しました。

下院は野党・民主党が過半数を握っているため、もし仮にトランプ大統領が選挙の延期を提案しても、拒否されるのは必至です。

コロナの流行が収まらないことから、次第に郵便投票の導入を検討する州が増えてきています。トランプ大統領は郵便投票と既存の不在者投票を区別していますが、本質的に2つの投票はほぼ同じ。しかし不在者投票をしたことがない有権者が多く、投票用紙の郵送に課題が残ります。

トランプ大統領の「延期」ツイートの直前、米商務省は4~6月期の実質国内総生産(GDP)が年率換算で前期比32.9%も縮小したと発表していました。リーマン・ショック直後の2008年10~12月期の8.4%減を大幅に上回り、1947年以降で最悪の落ち込みとなりました。

トランプ大統領は現在、世論調査の支持率で野党・民主党候補のジョー・バイデン前副大統領に大きく引き離されています。英誌エコノミストの予測では91%の確率でバイデン氏が勝つ見通しです。トランプ大統領が再選する確率はたった8%に過ぎません。

選挙で負けた時の言い訳づくり

トランプ大統領の「延期」ツイートの狙いは何でしょう。(1)GDP32.9%減の衝撃から有権者の目をそらすための陽動作戦(2)それともコロナの流行が収まるまでの時間稼ぎ(3)選挙で負けた時の言い訳づくりでしょうか。

コロナの流行でアメリカの感染者は統計サイト「ワールドメーター」によると463万人を超え、死者は15万5285人にのぼっています。最初、コロナを軽く見たトランプ大統領に一番大きな責任があるのは間違いありません。そして失業率は4月には14.7%に達しました。

白人警官の黒人暴行死事件に端を発した差別撤廃運動「Black Lives Matter(黒人の命は大切だ)」は全国に広がりました。白人支持層の怒りを煽るトランプ大統領の「文化戦争」でアメリカ全土はリベラルvs保守の右派、民主党vs共和党に分断されてしまいました。

トランプ大統領の「文化戦争」は保守層からも危険視され、手元に残ったのは対中強硬カードしかありません。トランプ陣営にコロナの流行が収まって投票所に行けるようになってから選挙を実施した方が有利に働くという読みが働くのは当然です。

その時には経済も回復しているでしょう。コロナと経済の問題が解消されれば、トランプ大統領が再選する確率も少しは増えます。

しかし今のところ、「延期」ツイートには選挙で負けても「郵便投票は不正確」と投票結果に疑義を唱える伏線を張っているとみるのが妥当ではないでしょうか。

(おわり)