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「安倍首相も香港国家安全法に反対する宣言を」ブルース・リーの「水」のごとく闘う雨傘運動の黄之鋒氏

木村正人在英国際ジャーナリスト
香港国家安全法に反対する黄之鋒氏(左端)(写真:ロイター/アフロ)

[ロンドン発]2012年の国民教育反対運動、2014年の民主化デモ「雨傘運動」を主導した香港の民主化団体「学民思潮」元リーダーで政党・香港衆志(デモシスト)事務局長、黄之鋒(ジョシュア・ウォン)氏(23)に中国による香港国家安全法導入についてインタビューしました。

ブルース・リーのように「水」のごとく闘う

木村:若者の視点から見た香港の現状について教えてください。

黄之鋒氏:若者や高齢者にかかわらず、みんな団結して国家安全法の導入に反対しています。それが香港の自由をどのように壊していくかに気付いています。

木村:香港の若者たちの闘いは世界的に大ヒットしたアクション映画『燃えよドラゴン』のカンフースター、ブルース・リーの哲学である「水のごとし(水はコップに注がれればコップの形をなし、ポットに入るとポットの形になるように状況によって形を変えるという意味)」をモットーにしていると言われていますね。

黄之鋒氏:つまり、私たちは連帯を強化したいだけでなく…、水のごとしという精神は香港が形を変えて闘い続けるということを意味しています。平和的な通常の行進だけでなく、警官隊と路上で衝突することも辞しません。

国際社会に働きかけ、コミュニティーを啓蒙するなどさまざまな形の運動を展開しています。若者のサポートを求めるだけではなく、高齢者や第二次世界大戦後に生まれたベビーブーマー世代とともに香港のために立ち上がっています。

習近平氏の戦狼外交とどう闘う

木村:中国の習近平国家主席は強硬な戦狼外交、最後通牒外交を進めていると言われていますが、どう思われますか。

街頭で香港国家安全法反対を呼びかける黄之鋒氏(本人提供)
街頭で香港国家安全法反対を呼びかける黄之鋒氏(本人提供)

黄之鋒氏:戦狼の政策は解決策ではなく、注目を集めるだけのトリックです。彼らは中英共同宣言でうたわれた国際公約を破りました。そして私たちは、北京がいかに国際条約を尊重しないかを世界中に知らしめたいと考えています。

木村:英政府が英国民(海外)旅券のビザ発給権を拡大し、290万人にイギリスでの市民権を認める考えを表明しています。

黄之鋒氏:はい、知っています。行動は言葉よりも雄弁なので、英政府に行動を起こすよう強く求めます。英政府は国家安全法に反対するために強い立場を示さなければなりません。

「私たちは安倍首相の宣言を求める」

木村:安倍晋三首相に何か求めることはありますか。

黄之鋒氏:日本政府が習主席の国賓訪日を再検討しているのは良い動きです。

私たちは安倍首相の宣言を求めます。私たちは香港国家安全法の導入を阻止するため安倍首相が私たちの運動を支持することを要求します。私たちは西側と自由世界の政治指導者たちがいかに懸念を表明しようとしたかを知っています。これは本当に決定的で重要です。

(筆者注)旧宗主国イギリスのボリス・ジョンソン首相は6月3日、香港紙サウスチャイナ・モーニング・ポストに「もし中国が香港国家安全法導入を強行するなら、イギリスは285万人の滞在資格を拡大する。イギリスは中国が国際的な合意を順守することを期待する」と寄稿した。

「国家安全法が成立した翌日にはSNSへのアクセスは認められなくなる」

木村:今回のゴールは何ですか。

黄之鋒氏:このグローバル都市における自由な情報の流れさえも止めてしまうため、国家安全法の導入を停止するよう香港政府に要請します。私たちはみな、香港が北京の脅威にさらされていることを認識しています。北京は私たちの想像以上に状況を悪化させました。

おそらく国家安全法が成立した翌日にはフェイスブックやグーグル、ユーチューブへのアクセスは認められなくなる恐れがあります。

木村:2014年の雨傘運動の後にあなたの身の上に何が起こりましたか。

黄之鋒氏(右側、本人提供)
黄之鋒氏(右側、本人提供)

黄之鋒氏:8度逮捕され、3度投獄されました。私たちは北京がいかに香港の次世代を抑圧しているかに気付いています。しかし私たちは一人ひとりが立ち上がり、厳しい闘いの中で私たちの運動を継続することを願っています。

「警察は11歳の子供と84歳のお年寄りまで逮捕した」

木村:昨年の中国本土への容疑者引き渡しを可能にする逃亡犯条例改正案反対運動では香港警察はどんなことをしたのでしょうか。

黄之鋒氏:9000人を超える人々が逮捕されました。最年少は11歳で、最高齢者は84歳です。若者たちを黙らせるだけではなく、高齢者も狙っていることを浮き彫りにしています。警察に撃たれて失明した市民もいます。本当にひどいことが起きています。

木村:2014年の雨傘運動と、昨年の逃亡犯条例改正案反対運動の違いは何ですか。

黄之鋒氏:2014年に警察によって発射された催涙弾は87発でしたが、2019年には3000発以上の催涙弾が発射されました。人口が700 万人に過ぎない都市で約9000人の逮捕者を出したのは信じ難いことです。

(筆者注)昨年12月上旬の国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチの報告では逮捕者は約5800人、使用された催涙弾は1万発。抗議集会の申請は17回却下された。警備増強のため引退した警察官1000人も動員された。

警察の不当な権力行使を監視する香港の団体「公民権オブザーバー」の調査(5月13日発表)では不当な取り扱いを受けた45人から聴取。警察車両に連行されたあとも顔や頭を繰り返し殴られ、急所を掴まれたり、拷問を受けたりするなどの報告が相次いだ。

「一国二制度は名前だけの存在になった」

木村:若者世代の日常について教えて下さい。

黄之鋒氏:北京が国家安全法の導入を強行することによって香港が一国一制度になることを私たちは心から心配しています。香港人は香港ではなく、北京や中国本土で投獄される恐れがあります。それが、私たちが立ち上がって闘い、勢いを保ち、路上での運動を組織する理由です。

木村:1997年の返還以降、香港ではさまざまな抗議行動がありました。過去と現在ではどんな違いがありますか。

黄之鋒氏:一国二制度は名前だけの存在になりました。1997年にはまだ存在していました。しかし北京による激しい浸食によって香港はもはや香港ではありません。北京の強硬なコントロール下にあります。

木村:あなたの両親の世代は運動を支持していますか。

黄之鋒氏:親世代は非常に協力的です。

「パンデミック中に香港の希望と自由を蹂躙した」

木村:新型コロナウイルス・パンデミックの間、民主化活動家と学生に対処する中国の戦略は何でしたか。

黄之鋒氏:9000人を超える人々が逮捕されました。パンデミック中に中国は香港の希望と自由を蹂躙することを選択しました。非常に困難な闘いなので、世界が香港と一緒に立ち上がるよう要請します。

権威主義の支配に立ち向かうため、香港が最前線に立っていることを繰り返し考える必要があります。

木村:一国二制度は中英共同宣言で保証された返還50年の2047年以降も存続できると思いますか。

黄之鋒氏:すでに述べたように一国二制度は一国一制度になろうとしています。

木村:習主席の戦略をどのように評価しますか。香港の次は台湾ですか。

黄之鋒氏:今日の香港、明日の台湾です。最後には残りの世界がターゲットになります。暴君のイデオロギーがどう香港に影響を与えるか、それは非常に明白です。

木村:今の日本の若い世代に何を求めますか。

黄之鋒氏:私たちは世界中の若い世代に香港と一緒に立ち上がることを促します。私たちは自分たちの手で政府を選びたいだけなのです。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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