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新型肺炎 20世紀のインフル・パンデミックに匹敵か 英政府「深刻な脅威」宣言 湖北省の致死率18%

木村正人在英国際ジャーナリスト
武漢市のイギリス人を乗せて帰還したチャーター機(写真:REX/アフロ)

強制隔離の法的根拠を強化

[ロンドン発]新型コロナウイルス肺炎が中国から世界中に広がっている問題で、イギリス政府は10日、新型コロナウイルスは公衆衛生に「深刻で差し迫った脅威」をもたらすと表明しました。感染が疑われる人を強制隔離する法的根拠を強化するのが狙いとみられます。

イギリス政府は新型コロナウイルスの大流行の発生源である中国湖北省武漢市から300人以上のイギリス人を本国に帰還させ、リバプール近郊のアロウィ・パーク病院とミルトン・キーンズのケンツ・ヒル・パーク会議センターで14日間、隔離しています。

しかし隔離している中の1人から「もう十分だろう。自宅に帰してくれ」と不満が出ました。イギリス政府は公衆衛生に対するリスクレベルは「中程度」に据え置く一方で、感染の拡大を防止するため疑い例を強制隔離する態勢を整えました。

患者1人から11人の感染

1月20~23日にシンガポールに滞在中、新型コロナウイルスに感染した50代のイギリス人男性はイギリス、フランスのスキーリゾート、スペインで少なくとも11人に感染させたとみられています。現在、ロンドンにあるNHS(国民医療サービス)の指定病院で治療を受けています。

公衆衛生当局は男性の足取りを調査し、ジュネーブからガトウィック空港までの移動に使った同便の乗客や立ち寄ったパブに連絡して自主的に自宅待機して様子を見るよう呼びかけています。航空会社は英メディアに「近くに座っていた乗客にガイダンスを提供している」と話しています。

新型コロナウイルスは患者1人から2~4人に感染すると推定されていました。しかし武漢市の武漢大学中南医院では患者1人から10人以上の医療従事者への感染が確認され、今回、患者1人から11人への感染が明らかになったことでかなり感染力が強いことが疑われます。

湖北省の致死率18%

世界の感染症を分析している英インペリアル・カレッジ・ロンドンMRCセンターはこの日、湖北省では感染が確認された患者の致死率は18%、中国本土からの旅行者では1.2~5.6%、全体では1%前後まで下がるという新たな分析結果を発表しました。

湖北省の致死率が異様に高いのは重症患者にしか手が回らず、死者に対する感染者の母数が小さいためだとみられます。

ニール・ファーガソン教授は「データが限られているので多くの不確実性があるが、私たちの推定では新型コロナウイルス肺炎の流行は20世紀の主要なインフルエンザのパンデミック(世界的な大流行)に匹敵する恐れがある」と指摘。

「世界中の国々が効果的な治療法とワクチンの開発とテストを可能な限り迅速に加速するため協力し続けることが重要だ」と訴えています。

スペインかぜの死者1億人説も

20世紀のインフルエンザ・パンデミックとは

(1)1918~19年、スペインインフルエンザ(原因ウイルスはA/H1N1亜型)、死者1億人説も

(2)1957~58年、アジアインフルエンザ(A/H2N2亜型)、死者200万人以上と推定

(3)1968~69年、香港インフルエンザ(A/H3N2亜型)、死者約100万人

の3回です(国立感染症研究所感染症情報センター)。

アフリカからの渡航者が多いイギリスのNHSの感染症対策は確立されています。この2週間内に武漢市や湖北省から渡英した人は外出せずにまずNHSの111番に電話するよう呼びかけています。

湖北省以外の中国やマカオ、香港、さらにタイ、日本、韓国、台湾、シンガポール、マレーシアからの旅行者についても咳や発熱、息切れの症状があれば同じように111番に連絡するよう呼びかけています。

NHSが重視しているのは感染が広がる地域からの旅行者を14日間自宅待機させて事実上“隔離”することです。パニックを起こして病院や診療所に人が殺到すると、それでなくても人手不足の医療現場が麻痺してしまったり、逆に感染を広げてしまったりする恐れがあります。

肺炎が疑われる急患についてはすぐに旅行履歴を確認、感染が疑われる患者については隔離して検査を急いでいます。感染が確認されたら、空気感染する重症感染症に対応できる指定病院に搬送して治療に当たっています。

「ダイヤモンド・プリンセス」号の感染者は135人に

ワクチンや治療法が確立していない現在、潜伏期間の14日間隔離するしか有効な手立てがないのが現状です。

横浜港に停泊中のクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」号で新たに65人から新型コロナウイルスの感染が確認され、同船での感染者は計135人となりました。菅義偉官房長官は3600人を超える乗客・乗員への検査は「現状においては厳しい」と述べました。

新型コロナウイルスの感染力がこれだけ強いと感染症に脆弱なクルーズ船に3600人超を留め置くことが安全かどうか今後、論議を呼ぶのは必至です。

しかし21世紀のパンデミックになる恐れのある新型コロナウイルス肺炎の脅威はまだ始まったばかりなのかもしれません。 

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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