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世界第2の経常黒字国・日本は本当に豊かなの ドイツの4年連続世界一にトランプ米大統領が卒倒? 

木村正人在英国際ジャーナリスト
トランプ米大統領は貿易赤字を解消できるのか(写真:ロイター/アフロ)

世界の経常黒字国トップ3は

[ロンドン発]ドナルド・トランプ米大統領が耳にすると、頭から湯気を立てて怒りそうなニュースです。ドイツの経常黒字が4年連続で世界最大になるそうです。ドイツ・IFO経済研究所のクリスチャン・グリム氏はロイター通信に語りました。

それによると、世界の経常黒字トップ3予想は次の通りです。

ドイツ 2760億ドル(約29兆8300億円)

日本 1880億ドル(約20兆3200億円)

中国 1820億ドル(約19兆6700億円)

一方、米国の経常赤字は世界最大の4800億ドル(約51兆8800億円)。トランプ大統領の対中追加関税にもかかわらず、なかなか赤字を減らすことはできないようです。

(筆者注)経常収支とは貿易、サービス収支(旅行者の宿泊費・飲食費、特許権・著作権の使用料など)、第一次所得収支(対外金融債権・債務から生じる利子・配当金)、第二次所得収支(居住者と非居住者との間の対価を伴わない資産の提供)の合計

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米中央情報局(CIA)のワールド・ファクトブックによると、世界最大の経常黒字地域は、トランプ大統領が目の敵にする欧州連合(EU)で2017年の推定値で4049億ドル。国としてはドイツがナンバー1で、2966億ドル。それに日本1954億ドル、中国1649億ドルと続きます。

第2グループのオランダ809億ドル、台湾801億ドル、韓国785億ドル、スイス632億ドル、シンガポール610億ドルの健闘が目立ちます。

最下位は中国やEUに貿易戦争を仕掛けるトランプ大統領の米国のマイナス4662億ドル、ボトム2は、EUからの「合意なき離脱」に突き進む英国のマイナス1067億ドル。この2つの国が世界を混乱の淵に追いやっています。

経常赤字は「良い」「悪い」?

国際通貨基金(IMF)調査部のアティシュ・ゴーシュ副部長は「経常収支の赤字は問題なのか」という論考の中で「赤字が『良い』か『悪い』かについて話すのはほとんど意味がありません」と指摘しています。

「大きな経常赤字を抱える国では、企業、労働組合、国会議員はしばしば迅速に相手国を指弾し、不公正な貿易慣行について告発します」。しかし、経常赤字の原因は一様ではありません。

(1)経常赤字が輸出を上回る輸入の過剰を反映している場合、それは国際競争力の問題を示している可能性がある

(2)経常赤字は貯蓄を上回る投資の過剰を意味するため、生産性の高い成長経済を指している可能性がある

(3)経常赤字が高額の投資ではなく低額の貯蓄を反映している場合、放漫な財政政策や消費過多によって引き起こされている可能性がある

(4)時間軸上で利益と損失を配分する選択の問題が生じる場合がある。震災など一時的なショックや少子高齢化など人口動態の変化のために、賢明に異時点間貿易を行っている可能性がある

ゴーシュ副部長はしかし、膨大で継続的な経常赤字について警鐘を鳴らします。

「1995年のメキシコ、97年のタイ、最近の世界金融危機では金融危機の間に民間資金が引き上げた後に、経常収支の赤字の急激な反転を経験しました。そのような反転は非常に破壊的である可能性があります」

「これは、外国の資金が利用できなくなった場合、個人消費、投資、政府支出を急激に削減しなければならず、実際、国は過去に借りたものを短期間で返済するために多額の黒字を余儀なくされるからです」

日本企業の内部留保は7年連続で過去最大

人口構成が比較的若い米国や英国の経常赤字は、おそらく国内製造業の国際競争力の低下、人工知能(AI)やICT(情報通信技術)産業への積極的な投資に加えて、放漫な消費体質も影響しているのでしょう。過去の栄光に浸ってライフスタイルを変えられない人が多いのだと思います。

英国では人口1人当りの国内総生産(GDP)は08年の世界金融危機で急落し、危機前のレベルをようやく上回ったのは15年の第2四半期以降でした。EU離脱騒動は白人英国人の欲求不満であり、白人労働者階級の怨念がトランプ大統領を誕生させたことが浮き彫りになっています。

一方、ドイツに次いで世界第2の経常黒字国・日本は幸せなのでしょうか。

日銀の資金循環統計(速報)によると、金融を除く民間企業の今年3月末の金融資産残高は1176兆円でした。財務省の法人企業統計では18年度の内部留保(利益剰余金)が7年連続で過去最大を更新し、金融業・保険業を除く全産業ベースで463兆1308億円になりました。

安倍晋三首相の経済政策アベノミクスで円高が解消され、輸出が回復、原油価格が下落したため、過去最高益を記録する企業が相次ぎました。

日本の65歳以上の高齢者人口は3459万人。総人口に占める割合(高齢化率)は27.3%に達しています。お年寄りは購買意欲に乏しく、日本の消費市場はどうしても縮小していくため、企業は積極的に国内に投資しようとはしないのが現状です。

将来不安から消費を手控えて貯蓄に回す人が多いため、経常黒字を押し上げているようです。企業は下請けも含めて賃金を上げて、労働分配率を引き上げていくべきでしょう。

ドイツにも景気後退の影

EUの欧州委員会は、持続可能な経常収支の幅をGDP比でマイナス4%からプラス6%としています。

世界銀行のデータではドイツの対GDP比経常黒字は15年に8.5%超を記録。昨年には7.3%弱まで下がってきています。ドイツの財政支出は年々、増えてきていますが、金額が十分かどうかという問題が残っているようです。

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IFO経済研究所によると、そんなドイツ経済でさえ景気後退の脅威にさらされています。トランプ大統領の貿易戦争で世界経済の不確実性はピークに達し、次第に冷え込んでいます。特に自動車メーカーはディーゼル車の不正や地球温暖化対策で急激な技術シフトを迫られています。

失業率はすでに4カ月連続で上昇しており、労働時間の短縮を発表している企業も少なくありません。ドイツや日本は賃上げや投資、財政支出を行って経常黒字を減らす努力をする必要があります。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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