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日本よ!韓国と喧嘩している暇はない ペルシャ湾でまたタンカー拿捕 日米韓でホルムズ海峡の原油を守れ

木村正人在英国際ジャーナリスト
ホルムズ海峡でイランに拿捕された英国のタンカー(提供:Stena Bulk/ロイター/アフロ)

イランが燃料密輸容疑で

[ロンドン発]イラン革命防衛隊の司令官が4日「ペルシャ湾で外国のタンカーを拿捕(だほ)した。このタンカーはアラブ諸国に燃料を密輸していた」と発表したとイラン国営メディアは伝えました。米国のイラン核合意離脱をきっかけに原油輸送の大動脈であるホルムズ海峡の緊張は一層、高まっています。

それによると、拿捕されたのは7月31日。タンカーは積載していた70万リットルの燃料をイラン南西部ブシェール港で押収され、船員7人が拘束されました。

燃料密輸を理由にイラン革命防衛隊がタンカーを拿捕するのは2回目。 7月14日、100万リットルの燃料を積んだパナマ船籍の石油タンカー「MTリア」を拿捕しています。

7月19日には英国船籍の石油タンカー「ステナ・イムペロ」が重武装したイランの艦艇とヘリコプターに囲まれ、航路を北に変更してイラン領海に入るよう命じられました。23人が乗り組んでいましたが、国際海洋法を順守していなかったとしてイラン革命防衛隊が拿捕。

その45分後、英海運会社が運航するリベリア船籍の石油タンカー「メスダー」が同じように航路を北に変更するよう命じられ、武装したイラン革命防衛隊が乗り込んできましたが、メスダーはすぐに解放されました。

ドナルド・トランプ米大統領がイラン産原油の全面禁輸に踏み切ってから、5~6月には、サウジアラビアの石油タンカーなど4隻がアラブ首長国連邦(UAE)沖で、東京の海運会社「国華産業」などが運航するタンカー2隻がホルムズ海峡近くで攻撃されました。

6月20日にはイラン革命防衛隊が領空侵犯した米国の無人偵察機RQ-4グローバルホークを撃墜したことから、トランプ政権が報復攻撃を準備して土壇場で撤回するなど、緊張はエスカレート。

「センチネル作戦」への参加国は

米国は7月19日、イランやイエメン沖での航行の安全を守るため65カ国に有志連合「センチネル作戦」への参加を呼びかけています。イランに対して外交上の包囲網を築き、圧力を強めていく狙いがあります。

しかし欧州をはじめ各国ともイランとの紛争にエスカレートすることを恐れ、まだ「センチネル作戦」への参加を表明した国はありません。

オーストラリアを訪問しているマイク・ポンペオ米国務長官はこの日、記者会見で「多くの協議が行われた」と話しました。しかしリンダ・レイノルズ豪国防相は「米国の要求は非常に深刻で、複雑だ。わが国は真剣に考えているが、まだ結論は出ていない」と述べるに留めました。

米軍はホルムズ海峡とバブ・エル・マンデブ海峡(紅海とアデン湾を分ける)で海上領域の認識、情報・監視・偵察活動を行い、その情報を「センチネル作戦」の参加国に提供しようと呼びかけています。商船の護衛はその商船の船籍国の軍艦艇によって行ってほしいと突き放しました。

米エネルギー情報局(EIA)によると、ホルムズ海峡は世界で最も重要な石油輸送のチョークポイントで、昨年の石油の輸送量は1日平均2100万バレルに達し、世界全体の約3分の1を占めています。

EIAのHPより抜粋
EIAのHPより抜粋

ホルムズ海峡に代わるパイプラインの輸送量は日量380万バレル分しか残っていません。海上輸送に支障が出ると、世界のエネルギー価格が暴騰する恐れがあります。2015年の核合意で対イラン制裁が解除された後、ホルムズ海峡における原油輸送量もかなり安定していました。

イランvs米国の戦争の恐れは極めて低い

世界最大のエネルギー生産国になった米国のホルムズ海峡依存度は原油・コンデンセートで輸入全体の18%、液体の石油消費量では7%まで下がっています。これに対して、ホルムズ海峡を通過した原油・コンデンセートの76%がアジア市場に流入したとみられています。

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EIAのグラフを見れば分かるように中国、インド、日本、韓国、シンガポールが主な輸入国です。同盟国の日本と韓国は米国から「センチネル作戦」への参加を強く求められているはずで、断るのは難しいでしょう。日韓両国は、北朝鮮の核・ミサイル問題も抱えているからです。

米中貿易戦争が激化する中、元徴用工と日本の対韓国輸出規制の問題で日韓貿易が停滞し、韓国経済が大きな打撃を受ければ日本にも必ず跳ね返ってきます。ホルムズ海峡の緊張で原油価格まで上昇すれば、日本も景気後退の暗雲に覆われる恐れがあります。

核合意とホルムズ海峡を巡る米国とイランの駆け引きはどんどん激化する恐れはあるものの、ロシアの事実上の国営メディア放送RTは、イランと米国の間で本物の戦争が起こりそうもない5つの理由を示しています。

ロシアはイラン寄りなので、それを差し引いて読んでみて下さい。

(1)イスラエルの安全保障

米国の同盟国イスラエルの直接の脅威はイランではなく、レバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラ。ヒズボラはレバノンに推定12万発のミサイルを持っており、イスラエルの直接の脅威になっている。もし米軍がイランを攻撃するなら、その前にヒズボラへの対応に迫られる。

(2)漏洩した駐米英国大使の外交公電

漏洩した駐米英国大使キム・ダロック氏(辞任)の外交公電でトランプ大統領にはイランに対する包括的な戦略がほとんど存在していないことが明らかになった。

(3)国際社会および国内の支持の欠如

英国は「センチネル作戦」への参加を拒否。ボリス・ジョンソン新首相のもとで変わる可能性はあるものの、現段階では推測しかできない。ロシアの上級外交官は、米国がイランを攻撃した場合、イランは1人ではないと発言。

(4)イランは戦争回避を模索

イランにとって最悪の結果は戦争。米国の持続的な空爆や本格的な侵略は壊滅的なものになる。

(5)米国には法的根拠がない

主権国家のイランと戦争を始める法的根拠がない。トランプ政権の目標はイランとの衝突ではなく、外交的解決策。トランプ大統領の好む交渉術は最初に圧力をギリギリまで高めて相手に妥協を迫る方法だ。

最近の経過

昨年5月、トランプ大統領が核合意から離脱

今年5月2日、トランプ政権がイラン産原油を全面禁輸

5月12日、サウジアラビアの石油タンカー2隻を含む4隻がアラブ首長国連邦(UAE)沖で攻撃される

5月16日、サウジが、イランが石油パイプラインを攻撃したと非難

6月12、13日、安倍晋三首相が現職首相として41年ぶりにイランを訪問。イラン最高指導者アリ・ハメネイ師は原油禁輸制裁の停止を要求

6月13日、ホルムズ海峡近くで東京の海運会社「国華産業」などが運航するタンカー2隻に機雷攻撃

6月20日、イラン革命防衛隊が領空侵犯した米国の無人偵察機RQ-4グローバルホークを撃墜

6月24日、トランプ大統領がハメネイ師を含む新たな対イラン制裁を発動。報復攻撃見送る

7月1日、イランの低濃縮ウラン貯蔵量が核合意の上限を超過

7月4日、英海兵隊がイランの30万トン級石油タンカーを英領ジブラルタル沖で拿捕

7月7日、イランがウラン濃縮上限の3.67%を突破。60日ごとに核合意違反をエスカレートさせると警告

7月9日、ジョセフ・ダンフォード米統合参謀本部議長が「有志連合」結成を宣言

7月10日、イラン革命防衛隊が英国の石油タンカーを拿捕未遂

7月14日、イラン革命防衛隊が原油100万リットルを密輸していたとして12人乗り組みのタンカーを拿捕

7月18日、米軍艦がイランのドローンを撃墜

7月19日、イラン革命防衛隊が英国のタンカー2隻を拿捕

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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