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「米国が嫌なら出て行け!」トランプ大統領の人種差別発言は焦りの裏返しか 来年の大統領選再選に暗雲

木村正人在英国際ジャーナリスト
トランプ大統領の「国に帰れ」発言に抗議するオカシオコルテス氏(右端)ら4人(写真:ロイター/アフロ)

「彼女たちは世界最悪で一番腐敗し、無能な国からやって来た」

[ロンドン発]米国のドナルド・トランプ大統領がツイッターで、民主党の女性下院議員4人を念頭に「もし米国で暮らしていて幸せでないなら、この国を出て行けば良い」と言い放ち、「人種差別主義者」「排外主義だ」と大騒ぎになっています。

7月14日

「『進歩的(Progressive)』な民主党の女性下院議員を観察するのは非常に面白い。彼女たちは完全に破綻した、世界最悪で一番腐敗し、無能な国(もし機能している政府があるとすればだが)からやって来た」

「今や大声かつ悪辣に米国、地球上もっとも偉大で力強い国家の人々に対して叫んでいる。いかに我が政府が運営されるべきか、と。どうして彼女たちは完全に崩壊し、犯罪が横行するもともとの国に戻って建て直さないのか」

「それから戻ってきて我々にどのように再建したか示してくれ。そうした国々は必死で支援を求めている。見捨てることはできないはずだ。ナンシー・ペロシ(下院議長)は喜んで旅費を負担してくれるだろう!」

15日

「我々は社会主義もしくは共産主義の国にはならない。もし米国で暮らしていて幸せでないなら、この国を出て行けば良い! それはあなたの選択、あなた1人の選択だ。これは米国への愛の問題だ。ある一定の人たちはこの国を嫌悪している」

標的にされた「Squad(分隊)」の4人

トランプ大統領は名指しこそしませんでしたが、標的にされたのは「Squad(分隊)」と呼ばれる次の4人と見られています。

アレクサンドリア・オカシオコルテス氏(Alexandria Ocasio-Cortez、29歳)史上最年少の下院議員。父親はブロンクス生まれ、母親はプエルトリコ生まれ。ニューヨークの中でも労働者階級の多い地区に生まれ育つ。政治団体「米民主社会主義者」のメンバーで、国民皆保険制度や公立大の授業料無償化など左派の政策を訴える。

イルハン・オマール氏(Ilhan Omar、37歳)ソマリア・モガディシュ生まれ。内戦下のソマリアから米国に逃れ、難民認定される。ミネソタ民主農民労働党。米下院初のイスラム系女性議員の1人で、イスラム教の聖典コーランに手を置き就任宣誓。下院の議場で着用が禁じられるイスラム女性の「ヒジャブ」などについて除外する変更案を作成。

ラシダ・タリーブ氏(Rashida Tlaib、42歳)両親はパレスチナ人移民。子供14人の長女。米下院初のイスラム系女性議員の1人。トランプ大統領に不正行為があったか調査するよう下院司法委員会に指示する法案を起草。

アヤンナ・プレスリー氏(Ayanna Pressley、45歳)ボストン市議会初の黒人女性議員。

4人は記者会見し、プレスリー氏は「ホワイトハウスの占拠者がまた排外主義的で頑迷固陋な発言を行った」「これは一から十まで、この政権特有の卑劣なカオスと腐敗した文化から来る崩壊と混乱に過ぎない」と吐き捨て、オマール氏とタリーブ氏はトランプ大統領の弾劾を改めて求めました。

「ある人々が何かをした」

トランプ大統領は直接的には言及していないものの「彼らは反イスラエルであり、親(国際テロ組織)アルカイダだ。9月11日の米中枢同時テロについて『ある人々が何かをした』と発言している。民主党の過激左派は、薬物と犯罪と人身売買の増加を意味する国境の解放を求めている」とイスラム系の2人をテロ組織のシンパだとにおわせています。

「ある人々が何かをした」発言というのは、米中枢同時テロを境に一気に広がったイスラム教徒に対する差別と偏見を指摘したオマール氏の演説の一部を切り取ったもので、彼女を攻撃する材料に使われました。

2012年大統領選挙共和党指名候補のミット・ロムニー上院議員も「大統領のコメントは破壊的で、品位を傷つけ、分断をもたらす。米大統領はあらゆる人種、肌の色、出身地の国民に団結を呼びかけるユニークで高貴な使命を有する。その観点からするとトランプ大統領は大失敗した」とツイート。

「政治や政策で違いが出るのは当然だが、米国民にもともとの国に帰れと言うのは道を踏み外している」

英国でも欧州連合(EU)離脱を巡る保守党党首選の最中にトランプ大統領を「適性がない」「無能」と表現したキム・ダロック駐米英国大使の外交公電が漏洩し、トランプ大統領に攻撃されたダロック大使が辞任に追い込まれる騒動に発展しました。

来年の米大統領選でジョー・バイデン前副大統領やバーニー・サンダース上院議員らが民主党の指名候補になればトランプ大統領に圧勝するという結果が世論調査で出ています。

「怒れる白人男性」を大きな支持基盤とするトランプ大統領の民主党の「有色女性議員」に対する攻撃からは焦りの色がにじみ出ています。

大統領選が近づくにつれ、トランプ大統領が不利になるにつれ、トランプ発言がさらにエスカレートしていくのは必至です。4年前はまだトランプ氏は大統領ではありませんでした。どんなにひどいことを言っても彼1人の問題として片付けることができましたが、今は米国を代表する大統領です。

トランプ大統領の暴走は世界をさらに大混乱へと導く恐れがあります。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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