英国はファーウェイ排除に不参加か EU離脱と中国の揺さぶり影響?

5Gでファーウェイへの対応が分かれる米欧(写真:ロイター/アフロ)

ファーウェイのリスクは緩和可能

[ロンドン発]中国通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)の次世代通信規格5G参入を巡り、アングロサクソンのスパイ同盟「ファイブアイズ」構成国である米国やオーストラリア、ニュージーランドが次々と排除の方針を打ち出す中、英国は隊列に加わらない可能性が出てきました。

英紙フィナンシャル・タイムズや英BBC放送は17、18日、英政府通信本部(GCHQ)内の国家サイバーセキュリティーセンター(NCSC)が「ファーウェイ設備を5Gのシステム構築に使用してもリスクを制限する方法がある」と結論付けたと一斉に報じました。

GCHQのロバート・ハンニンガン前長官はフィナンシャル・タイムズ紙に12日付で「ファーウェイの5G設備を全面的に排除するか否かという議論はサイバーセキュリティーの技術と5G設計の複雑さへの理解を欠いている」と指摘し、次のように断言しました。

「中国のテクノロジー会社に対し拡大するヒステリーが分かりにくくしている点は、NCSCはこれまでファーウェイを通じて中国が国家として実行したサイバー攻撃に関係する証拠を何一つ見つけていないことだ。国家関与のサイバー攻撃は中国企業を経ずに行われている」

英情報局秘密情報部(MI6)のアレックス・ヤンガー長官も15日、ミュンヘン安全保障会議でロイター通信に「英国では5G設備の提供会社が不足している。1社独占は望ましくない。安全保障上のリスクを慎重に検討している」と、ファーウェイに対してソフトアプローチをとる姿勢をにおわせました。

英国が米国のファーウェイ締め出しと一線を画したことでドイツなど欧州の主要国が英国に追従する可能性があります。

対中警戒を強める米国

今回の報道が本当なら米国のドナルド・トランプ大統領を激怒させるでしょう。

シギント(電子情報の収集)を担当する米安全保障局(NSA)はファーウェイ設備のリスクを証明するためファイブアイズ構成国や同盟国、友好国と情報を共有してきました。

これを受け、ファイブアイズに加盟するカナダ政府は昨年12月、ファーウェイの孟晩舟最高財務責任者(CFO)兼副会長を逮捕しました。米国政府は、イランとの違法な金融取引に関わったとしてファーウェイと孟氏を起訴し、身柄の引き渡しを正式に求めています。

マイク・ペンス米副大統領はポーランドで「通信セクターを中国から守れ」と呼びかけ、ミュンヘン安全保障会議でも「中国の法律は中国企業に対し、ネットワークや設備を通るいかなるデータにアクセスできる装置を提供するよう求めている」「我々は重要な通信インフラを守らなければならない」と訴えました。

ペンス米副大統領は昨年10月、ワシントンの保守系シンクタンク、ハドソン研究所で「トランプ政権の対中政策」と題して演説し、中国は陸・海・空・宇宙で米国の軍事的な優位を崩す能力を身につけることを最優先にしていると警鐘を鳴らしました。

この演説は、米ソ冷戦の始まりを告げた故ウィンストン・チャーチル英首相の「鉄のカーテン」演説を思い起こさせ、「米中冷戦」時代の到来を告げたととらえられました。

AIIB参加で米国を激怒させた英国

親中派ジョージ・オズボーン前財務相は「英中黄金時代」を掲げ、欧州では真っ先にアジアインフラ投資銀行(AIIB)への参加を表明し、日米を激怒させたことがあります。2015年秋には中国の習近平国家主席が英国を公式訪問、大歓迎を受けました。

テリーザ・メイ首相はしかし、16年7月、調印式まであと2~3時間というタイミングで中国国有企業が33.5%を出資するヒンクリーポイントC原発の建設計画にストップをかけ、中国に経営権が移らないよう釘を刺しました。

翌8月には、この国有企業とそこで働く台湾系米国人上級エンジニアが米司法省に核物質のスパイ容疑で起訴されました。

メイ首相のアドバイザーだったニック・ティモシー氏は「中国の情報機関は英国の国益を損なうため活動を続けているとMI5は確信している」と注意を呼びかけました。

有事の際、英国の重要インフラを人質にとって動けないようにして米国を孤立させる深謀遠慮が中国側にはあるとみられています。その核心が原発や通信インフラです。

こうしたことからNCSCが監督する「ファーウェイ・サイバーセキュリティー評価センター」がスクリーニングを実施。ファーウェイの関与による安全保障上のリスクが排除されたかについては「限られた保証しかできない」と断りをつけました。

ファーウェイは英通信事業者BTと取引し、ロンドン五輪では地下鉄の携帯電話ネットワークを構築。しかしBTは3G 、4Gの中核システムからファーウェイ設備を取り除く一方、5Gネットワークでも重要な部分にはファーウェイの部品は使わない方針です。

ボーダフォンは英政府の方針が決まるまで決定を「保留」。一方、O2とThreeはファーウェイの設備を使う計画です。

欧州は対中ソフトアプローチ

欧州連合(EU)から離脱する英国にとって中国は頼みの綱の一つです。日立製作所が英国における原発新設計画を凍結してから、新規原発を手掛ける仏電力公社EDFと中国広核集団(CGN)の存在感が増しています。

英BBC放送は、フィリップ・ハモンド英財務相の訪中が、最新鋭空母「クイーン・エリザベス」の初の任務運用として太平洋海域派遣が発表されたことに中国が反発したためキャンセルされた可能性があると報じました。

EUから離脱する上、中国にまでそっぽを向かれると、英国は立つ瀬がありません。

スマート工場で協力する独中

米国からの圧力を受け、ドイツでもファーウェイへの懸念は強まっています。しかし「米国第一!」のトランプ大統領とは一線を画し、あくまで中国との公正な通商関係を築くことに主眼を置いています。

習主席の掲げる「中国製造2025」はドイツの第4次産業革命「インダストリー4.0」に倣った産業政策です。中国をはじめ新興国でインダストリー4.0を無人・自動化工場のスタンダードにするため、アンゲラ・メルケル独首相は中国と合同閣議を開き、積極的に対中協力を進めてきました。

しかし16年の中国美的集団による産業用ロボット世界大手、クーカ買収をきっかけに安全保障や技術流出への懸念が強まり、ドイツ政府もEU域外の企業による買収規制を強化しました。

独シンクタンク、MERICSによると、中国製造2025は非関税障壁や補助金を駆使して国内から外資系企業の駆逐を図っています。世界市場で中国系企業の競争力を向上させる狙いもあります。

その影響をまともに受けるのは韓国、そしてドイツ、アイルランド、ハンガリー、チェコ。次のグループが日本、スロバキア、スロベニア、オーストリア、ルーマニア、デンマークだそうです。

世界最大級のICT見本市CeBITに出展したファーウェイ(2017年3月、ドイツ・ハノーバーで筆者撮影)
世界最大級のICT見本市CeBITに出展したファーウェイ(2017年3月、ドイツ・ハノーバーで筆者撮影)

MERICSのマックス・ゼングレイン経済部長に中国によるドイツ企業買収について質問しました。

――なぜ中国企業は日本のテクノロジー企業以上にドイツのテクノロジー企業を欲しがるのですか

「ドイツ経済は外国からの投資に対して比較的オープンです。これまで中国企業はロボットメーカーのクーカのように欲しいテクノロジー企業を買収することができました」

「スマート工場のようなエリアでの協力がいくつかの中国とドイツの共同プロジェクトとして実を結びました。ある意味、ドイツ企業は進んで中国のパートナーになったのです」

――どうしてドイツのテクノロジー企業は基幹産業を中国企業に売却する必要があったのでしょう

「それが市場メカニズムというものです。厳格な投資のスクリーニングメカニズムを欠いていたこともありました。それが中国企業によるドイツのテクノロジー企業の買収を可能にしたのです」

「高く売れることと同様、中国市場へのこれまで以上のアクセスが得られることも魅力的でした。問題はこうしたM&A(合併と買収)が将来、ドイツの産業基盤にどんな影響を与えるかです」

――ドイツにおける中国のサイバー産業スパイや最先端技術を持つドイツ企業のM&Aとはどんなものですか

「中国は自国企業が生み出すことができない、より進んだテクノロジーを必要としています。現在も中国は海外で最も洗練されたテクノロジーを支配しようと複数のアプローチをとっています」

「戦略的なM&A活動や他の手段を含みます。そのいくつかは産業スパイでの告発という結果に終わります」

――ドイツは産業政策インダストリー4.0を通じて中国とはとても協調的でした。インダストリー4.0と中国企業による独テクノロジー企業の買収は両立すると思いますか

「スマート工場のエリアでのドイツと中国の協力はとても重要です。主要な工業輸出国として両国は機会を得ました。しかしドイツにとって中国は今や、戦略的なライバルになることがより明らかになってきました」

「中国の産業政策は特に自国企業の強化を目的にしているため、外国企業は中国国内で活動するのに苦労しています」

(おわり)