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日産のクーデター?救世主ゴーン氏逮捕「私的流用が判明」日本で外国人経営者は成功しないというジンクス

木村正人在英国際ジャーナリスト
東京地検特捜部に逮捕されたゴーン氏(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

過少申告額は50億円

[ロンドン発]日産自動車(本社・横浜市)のカルロス・ゴーン会長が有価証券報告書に自らの報酬を過少に記載した金融商品取引法違反容疑で東京地検特捜部に逮捕され、世界中に激震が走りました。

逮捕されたのはゴーン氏とグレッグ・ケリー代表取締役の2人です。毎日新聞によると、2011~15年3月期のゴーン氏の報酬額が計99億9800万円だったのに、計49億8700万円と記載した虚偽の有価証券報告書を関東財務局に提出した疑いが持たれています。

社長兼最高経営責任者(CEO)から退いたゴーン氏の日産での役員報酬は過去最高の2016年度10億9800万円から17年度は7億3500万円に下がりました。ルノーの役員報酬は740万ユーロ(9億5290万円)、三菱自動車2億2700万円で、3社合わせた役員報酬は19億円を超えています。

ゴーン氏は経営危機に陥った日産の救世主。「1000万台クラブ」入りを果たした仏ルノー・日産・三菱アライアンス(連合)の要であり、電気自動車(EV)の強力な推進役として知られます。

ルノーの筆頭株主であるフランス政府が求めるルノーと日産の経営統合はこれで消えてなくなる可能性があります。

英国の欧州連合(EU)離脱でも、ゴーン氏はできるだけ摩擦のない新たな英・EU関係を求めていました。英国への厳しい対応を求めるフランスのエマニュエル・マクロン大統領をなだめるキーパーソンが1人いなくなりました。

日産を私物化していたゴーン氏

日産の発表によると、内部通報を受けて数カ月間にわたり、ゴーン氏とケリー氏を巡る不正行為について内部調査を行ってきたそうです。

その結果、2人は、開示されるゴーン氏の報酬額を少なくするため、長年にわたり、実際の報酬額よりも減額した金額を有価証券報告書に記載していたことが判明しました。

ゴーン氏には日産の資金を私的に支出するなど複数の重大な不正行為が認められ、ケリー氏もそれに深く関与していたため、特捜部に情報を提供したそうです。

日産は取締役としての善管注意義務に違反したとして、ゴーン、ケリー氏の解職を取締役会に提案する方針です。

グローバル化が進むのに伴い、経済活動がまたがる複数の国で課税される二重課税だけでなく、所得や経費を申告する国を選んだり、租税回避地(タックスヘイブン)を利用したりすることで課税を逃れる二重非課税の問題がクローズアップされるようになりました。

世界金融危機で深刻な財源不足に陥った先進国では、行き過ぎたグローバル企業や超富裕層の「租税逃れ」に厳しい目が注がれるようになっています。

3社の経営に関わるゴーン氏の場合、経費をどこにつけるかグレー・ゾーンもあったのではないでしょうか。それとも経費の多くを日産に付け回していたのでしょうか。

日本で外国人経営者は成功しないというジンクス

同質性が極めて高い日本では外国人経営者は成功しないというジンクスがあります。排除の論理が働きやすいからです。ゴーン氏は数少ない例外の1人でした。

ルノーから、経営危機に陥った日産に派遣され、1999年に最高執行責任者(COO)、翌2000年に社長に就任。若手や中堅幹部がまとめた日産リバイバルプランに基づき、徹底したコストカットを図り、見事にV字回復を遂げました。

それ以前はマーケティングや採算を度外視してエンジニアが技術を追及していたため、日産は赤字体質から脱却できませんでした。経営のできる経営者はゴーン氏が初めてで、デザインを重視するようになり、グローバル企業に生まれ変わります。

ゴーン氏が日産の「中興の祖」であることは間違いありません。

しかし最近では、有力な後継者候補を遠ざけるなど、日産社内でゴーン氏の独裁体質に批判の目が向けられるようになりました。さらに社会主義的なフランス政府の影響下にあるルノーと距離を置きたいという経営上の思惑も強まっていました。

日産は日本企業?

日産では無資格の従業員による不正検査や、燃費・排ガス試験のデータ書き換えなどの不正が相次ぎました。日本の規制をないがしろにする姿勢に対して「日産は日本企業ではなくなった」という声も聞かれました。

ゴーン氏に不正があったとしても、ゴーン氏から経営権を取り戻す「日産のクーデター」と世界は受け止めるかもしれません。要を失ったルノー・日産・三菱連合が大きく揺らぐのは必至です。日産のグローバル戦略もスローダウンする可能性すらあります。

日本の検察当局が、日本企業を立て直した恩人を逮捕したことは一つ間違うと、「恩を仇で返した経済ナショナリズム」「検察のパフォーマンス」と受け止められる恐れがあります。日産や検察当局は世界に向け、しっかり説明責任を果たす必要があるでしょう。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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