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米中間選挙、1票の格差が広げる「ねじれ」と「トランプの怨念ポリティックス」求められる選挙制度改革

木村正人在英国際ジャーナリスト
米中間選挙で勝利を祈る民主党支持者(写真:ロイター/アフロ)

ラストベルトで強い共和党

[ロンドン発]ドナルド・トランプ米大統領への「信任投票」となる中間選挙の投開票が6日行われました。米非営利・公共ラジオネットワークNPRによると、投票率は前回2014年中間選挙の36.7%を大きく上回り、45~50%に達する見通しです。

米国の選挙予測では定評のあるデータ分析サイト「ファイブサーティエイト(538は米大統領選の選挙人の総数)」によると、100議席のうち35議席が改選される上院は与党・共和党が非改選議席を合わせ、過半数を制しました。

インディアナ州では銃所有の権利やバラク・オバマ前米大統領の医療保険制度改革(オバマケア)への反対など「トランプ政権の支持」を強く訴えた共和党のマイク・ブラウン候補が民主党現職を破って当選しました。ノースダコタ州でも共和党候補が民主党現職に圧勝しました。

錆びついてしまった旧工業地帯「ラストベルト」のインディアナ州や、取り残されたノースダコタ州ではトランプ人気はこの2年間でさらに上昇したようです。

50州から各2人選出される上院議員の任期は6年。2年ごとに3分の1ずつが改選されます。

上院は大統領が条約を締結する際、助言と承認を付与する権限や、大統領が指名する閣僚、大使、上級公務員らの人事承認権を有しています。トランプ大統領が上院を制したのは今後、政権を運営していく上で非常に大きかったと言えます。

下院は民主党の理由

435議席すべてが改選される下院は民主党が過半数を制しました。1969年以降、上下両院がねじれた選挙はロナルド・レーガン時代の3回とオバマ時代の2回だけです。

与党が上下両院を制したのはジミー・カーター時代の2回とビル・クリントン時代の1回、ジョージ・W・ブッシュ時代の3回、オバマ時代の1回、トランプ大統領の1回で、2大政党間の政権交代を機に現れるのが特徴です。

トランプ大統領の共和党が中間選挙で下院の過半数を失ったとしても「終わりの始まり」とまでは言えないでしょう。現行の選挙制度を改革しない限り、2年後の大統領選でトランプ大統領が再選する可能性はまだ強く残っていると思います。

2年前の大統領選ではトランプ大統領が全国的に300万票も民主党の大統領候補ヒラリー・クリントン氏に負けていたにもかかわらず、4万票の僅差で3州を制して大統領選に勝利しました。

上院の1票の格差を見ておきましょう。()内の数字は人口の多い州から並べた順位です。最も人口が少ないワイオミング州で割った数字も参考に見ておきましょう。

(1位)カルフォルニア州の人口は3953万6653人(68倍)民主党勝利

(17位)インディアナ州666万6818人(12倍)共和党が逆転

(18位)ミズーリ州611万3532人(10.6倍)共和党が逆転

(47位)ノースダコタ州75万5393人(1.3倍)共和党が逆転

(50位)ワイオミング州57万9315人、共和党勝利

進む米国社会の分断

下院は各州の人口に応じて配分されます。下院はカリフォルニア州などリベラルな沿岸部を中心としたトランプ大統領への批判を、上院はメキシコからの不法移民に神経を尖らせる保守的な南部やラストベルト、取り残された州の不満を表していると言えそうです。

連邦制をとる米国では下院は人口、上院は50州の声を反映しています。しかし、大統領選を含めてこうした選挙制度が米国の世論を正確に反映していると言えるのでしょうか。

若くて柔軟性に富む優秀な人材は高収入を求めてリベラルな沿岸部に移動し、保守的な人たちは南部やラストベルト、内陸部に留まります。

リベラルな地域はますますリベラルになり、保守的な地域はますます保守的になるという経済と社会の分断を引き起こします。今回の中間選挙ではさまざまな新記録が生まれそうです。

・女性議員数

過去最多の上院22人(全体の63%)、下院235人(45%)の女性候補が党内の予備選を勝ち抜く

・非白人の女性議員数

民主党のキャンペーンもあり、非白人の女性候補は12年から75%も増加

・性的少数者であるLGBT議員数

244人以上のLGBT候補が予備選も含めて参加

・退役軍人の議員数

退役軍人400人以上が予備選に参加し、200人が本選に進む

トランプ大統領が就任した2017年1月から米国の失業率は4.7%から3.7%まで下がりました。成長率は1.9%から、世界経済を牽引する3%に。ダウ平均株価は1万9827ドルから一時2万6743ドルまで上昇しました。トランプ大統領は当初、経済的な成果を強調する作戦でした。

しかし苦戦が伝えられると、2年前の大統領選と同様、移民攻撃を強めます。中米から米国を目指す数千人規模の「移民キャラバン」を政治問題化し、メキシコ国境に大規模な米軍派遣を命じて「ジョークだ」という批判を浴びました。イランへの制裁も再開しました。

移民問題や外交問題を選挙の票集めに使う政治手法は極めて危険です。政治や外交で大切なのは対立を煽ることではなく、双方が納得する妥協点を見つけることだからです。米国社会の分断をさらに拡大して見せる米国の選挙制度は世界を真の恐怖へと導く恐れがあります。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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