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東京医科大が女子受験生を一律減点の「時代錯誤」日本の女性医師率は先進国最下位 男支配と老害の一新を

木村正人在英国際ジャーナリスト
日本の女性医師の割合は先進国の中で最下位(写真:アフロ)

女子合格率17.5%

[ロンドン発]文部科学省汚職で前理事長と前学長が贈賄罪で在宅起訴された東京医科大学(東京)で今年2月に行われた医学部医学科の一般入試(センター試験の利用者らを除く)で女子受験者の得点を一律に減点し、合格者数を抑えていたことが関係者の話で分かったそうです。

読売新聞が伝えました。女子合格者の抑制は10年の医学科の一般入試で女子の合格者数が69人と全体の38%に達したため、受験者側に何の説明もないまま11年ごろから女子の合格者を3割前後に抑えるようになったそうです。

今年の一般入試のうち、1次試験の女子合格率は32.8%、2次試験を経た最終的な女子合格率は17.5%に抑えられていました。

最下位は東京大学

この数字がどれだけ低いかを医学部受験情報サイト「医学部受験マニュアル」の男女比ランキングから見てみましょう。

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東京女子医科大学を除くと、女性の割合が一番多いのは富山大学で54%。埼玉医科大学47%、愛知医科大学42%と続きます。分かっている範囲での最下位は東京大学の16%。東京医科大学の17.5% は東京大学と良い勝負です。

「医学部受験マニュアル」によると「公然と女子の合格者を下げることはしなくても、女子が苦手にしがちな数学の難易度を上げたり、女子が比較的多く選択する生物の難易度を上げる、面接の配点を下げるなどにより間接的に女子の合格率を下げている大学もある」ようです。

東京医科大学の関係者は読売新聞の取材に「女子は大学卒業後、結婚や出産で医師をやめるケースが多く、男性医師が大学病院の医療を支えるという意識が学内に強い」と説明したそうです。

女性は医師より薬剤師

女性比率を確かめておきましょう。

医師国家試験の女性合格者 34%

医師 21.1%

歯科医師 23.3%

薬剤師 61.2%

女性医師の数は増加傾向にあり、薬剤師は女性が圧倒的に多いことが分かります。女性医師の割合を診療科ごとに見ると次のようになります。

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皮膚科や産婦人科が多く、「汚い」「危険」「きつい」の3Kイメージの強い外科や救急科は敬遠されているようです。

NHSのHPから
NHSのHPから

英イングランド地方で働く人の女性比率は47%ですが、NHS(国民医療サービス)では実に働く女性の割合は77%にハネ上がります。NHSの上級管理職の47%は女性。専門医では36%、その他の一般医・歯科医では47%、「GP」と呼ばれる掛かりつけ医では53%、研修医では54%が女性です。

女性医師率74.4%のラトビア、日本は最下位

世界的に見ると、英国の女性比率は決して高くないようです。経済協力開発機構(OECD)の「図表で見る医療2017年版」を見てみましょう。

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OECD平均では女性医師の割合は2000年の39%から15年には46%まで上昇しています。少なくとも2人に1人が女性医師という国は11カ国で、バルト三国のラトビアやエストニアでは女性医師の割合は7割を超えています。

00年から15年にかけ、最も女性医師の割合が増えたのはオランダで35.3%から52.6%、ベルギーは27.7%から40.6%に改善しました。一方、日本は14.3%から20.3%に改善したものの最下位に沈んでいます。韓国も22.3%で、他の先進国に比べて大きく引き離されています。

東京大学医学部の女子学生比率最下位と日本の女性医師比率最下位は不思議なパラレルを描いています。

医療の現場は過酷です。だからと言って女子受験生の門戸を閉ざすのは時代錯誤も甚だしいでしょう。「3K」職場と言われる外科、救急科の負担を軽減して女性医師でも働きやすい環境をつくっていくのが正しい方向性ではないのでしょうか。

AERAムック『AERA Premium 医者・医学部がわかる2018』によると、1日10時間以上働いている医師は開業医22%(うち12時間以上は9%)、勤務医33%(同10%)、外科34%(同12%)、内科33%(同7%)、眼科12%(同9%)でした。

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厚生労働省のデータを見ても週当たり勤務時間が60時間以上(病院常勤医師)は全体で40.6%、診療科別では産婦人科53.3%、臨床研修医48%と長時間労働が常態化していることが分かります。これでは医師を選ぶ基準が「無理が利く若い男性」になってしまうのも仕方ないのかもしれません。

医師の過労死が少なくないことから、欧州連合(EU)では、医療現場の従事者の週当たり勤務時間は最長で計48時間と定められています。6時間勤務するごとに最低でも20分間の休憩が設けられています(BMC医療教育より)。

医療現場のICT(情報通信技術)化を進め、大胆に医療従事者の時短を進める必要があります。そのためには大学の医学部を頂点にする病院や診療所の系列化も改革する必要があるでしょう。女性医師の数を増やし、医療行政の決定権を持つ女性の割合を増やしていかなければなりません。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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