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【W杯現地報告】「おっさんイレブン」がみせたサムライの意地と実力 見えてきた日本サッカーの未来

木村正人在英国際ジャーナリスト
W杯セネガル戦で本田が同点ゴール(写真:ロイター/アフロ)

一瞬の迷い

[エカテリンブルク発]サッカーのワールドカップ(W杯)で日本代表戦を生まれて初めて現地で観戦しました。今、エカテリンブルクからモスクワに向かう30時間の寝台列車の中で観戦記を書いています。

ロシア大会1次リーグH組の日本代表は第2戦でアフリカ・セネガル代表の猛威をしのぎ、1点取られては1点取り返す手に汗握る展開で2-2の引き分けに持ち込みました。

盛り上がる日本応援団。ロシア人のサポーターも(筆者撮影)
盛り上がる日本応援団。ロシア人のサポーターも(筆者撮影)

普段からスタジアムで英イングランド・プレミアリーグの試合は見慣れているものの、間近で見るW杯日本代表戦がこれほどの緊張と興奮、感動を与えてくれるとは思いもしませんでした。

獅子舞の応援も(筆者撮影)
獅子舞の応援も(筆者撮影)

海外暮らしが長くなると、祖国を代表して戦うサムライたちを応援するのは日の丸と君が代しかないなと試合前の国歌斉唱で痛感します。日本の応援団は数でも声援でもセネガルを圧倒し、まるで日本のホームゲームのような感じでした。

海外で見る日の丸はやっぱりいい(筆者撮影)
海外で見る日の丸はやっぱりいい(筆者撮影)

身体能力で日本代表を上回るセネガル代表は点取り屋マネ(リバプール)を中心に高速かつシンプルに攻めてきます。ちょっとした判断ミスが失点につながる緊張感がスタジアムを覆い尽します。

最初の失点はヘディングのクリアが中途半端になったところをシュートされ、GK川島選手がパンチングでクリアしようとしたボールをマネに押し込まれてしまいました。ファンブルするのが怖くてパンチングを選択した一瞬の迷いが失点につながりました。

百戦錬磨のサムライ

これで浮足立つかなと心配しましたが、韓国メディアから「おっさんイレブン」と揶揄(やゆ)された百戦錬磨のサムライたちは落ち着いていました。

相手FWが自陣ゴール前で倒れ込むと、一気に攻め上がれたにもかかわらず、ボールをサイドラインに出すフェアプレーを見せます。「人が良すぎるぞ」と思いましたが、これは日本代表の自信の表われでした。

野洲高校時代から脅威のテクニックを見せていた右足のメッシ、MF乾選手が狙いすましたようにサイドネットを揺らしました。ゴール裏で見ていたので、インサイドで少し巻いたボールの軌道が一晩経った今も鮮烈に脳裏に刻み込まれています。

観客席は歓喜に包まれ、みんなで抱き合いました。恍惚と陶酔とはこういうことを言うのでしょう。

後半はFW大迫選手のよもやの空振り、乾選手のシュートがバーをたたくなど、日本ペースで展開しますが、次第にセカンドボールが拾えなくなってきます。

左サイドが上がりすぎてガラ空きになったところをセネガルに突かれます。このシュートが目の前で入った時は心臓が止まるかと思いました。

それでも日本代表は諦めません。西野朗監督はMF本田選手とFW岡崎選手を連続投入して、打ち合いに出ます。欧州でもまれている選手が多いだけに、セネガルに対して一歩も引きません。本田選手の狙いすました同点ゴールが炸裂。サムライたちは最後の最後まで攻め続けました。

たくましくなっていたサムライたち

DF吉田選手が英イングランド・プレミアリーグのサウサンプトンで主将を務めている理由が今日初めて分かりました。

英BBC放送のサッカー番組『マッチ・オブ・ザ・デイ』で紹介される吉田選手の姿はDFの辛いところで失点シーンばかり。しかし煮え湯を飲まされた回数だけ吉田選手は確実にたくましくなっていました。

実は2012年ロンドン五輪でもサッカーの日本代表を追いかけたことがあります。

我が家では「麻也くん」と呼んでいる吉田選手は本当に高く飛んでいました。ヘディングでもセネガルの選手に全然負けていませんでした。スペイン・リーグやドイツ・リーグで活躍している他の選手も同じだったような気がします。

試合終了後、サポーターに応えるサムライたち(筆者撮影)
試合終了後、サポーターに応えるサムライたち(筆者撮影)

自分たちがどこまでやれるか知っているだけに、セネガルの選手に引き離されないよう体を寄せてボールを奪い、必ずボールと相手選手の間に体を入れていました。

高騰する代表監督の報酬

ハリルホジッチ前監督が解任された理由はどうやらこの辺にありそうです。おそらく解任されていなかったら、日本代表はディフェンシブに戦い、縦パス中心のサッカーを選択していたでしょう。

ハリルホジッチ氏は「時代遅れの監督」です。

日本代表選手が活躍する欧州リーグのクラブの監督に比べると、どうしても見劣りします。しかし日本サッカー協会の3億円と言われる監督予算ではハリルホジッチ氏レベルの監督しか呼べなくなっているのが海外サッカー界の厳しい現実です。

世界トップクラスの監督は15億円が相場だと言われています。「お助け外国人」監督を呼ぼうと思えば、それぐらいの資金力が必要な時代になったのです。西野監督は日本サッカー協会にとっては現実的な選択肢だったのかもしれません。

代表選手からすれば「時代遅れ」に見えているのに、ハリルホジッチ前監督は代表選手を見下して自分のサッカーを一方的に押し付けたのが、いわゆる「コミュニケーション不足」の最大の原因だったような気がします。

代表選手は自分たちの力で組織力、展開力がW杯1次リーグでも十分に通用することを証明してみせました。日本サッカー協会のハリルホジッチ前監督解任は緊急避難措置としては認められますが、まだ日本のサッカーが目指す長期ビジョンを示せたわけではありません。

3戦目は2敗で敗退が決まったポーランドが相手。日本の決勝トーナメント進出に夢は大きく膨らんでいます。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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