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北朝鮮への先制攻撃は不可避か 炸裂するトランプ「お前はクビだ!」18人目 現実主義の穏健派を次々更迭

木村正人在英国際ジャーナリスト
マクマスター大統領補佐官解任 後任にタカ派ボルトン氏 (2017年2月資料写真)(写真:ロイター/アフロ)

ツイッターで国家安全保障担当大統領補佐官を更迭

[ロンドン発]ドナルド・トランプ米大統領は22日、ホワイトハウスのハーバート・マクマスター国家安全保障担当大統領補佐官(55)を更迭し、後任にイラク戦争を強く支持したタカ派のジョン・ボルトン元国連大使(69)をあてると発表しました。本当に大変なことになってきました。

「4月9日にボルトン氏が新しい国家安全保障担当大統領補佐官に就任する。これまで素晴らしい仕事をしてくれたマクマスター将軍に心から感謝している。彼とはこれからも友人だ。4月9日に仕事は公式に引き継がれる」(トランプ大統領のツイッター)

マクマスター氏は今年2月のミュンヘン安全保障会議でロシアが米大統領選に介入したことは「議論の余地がない」と発言したことについて、トランプ大統領からツイッターで批判されていました。

「マクマスター将軍は、2016年の米大統領選の結果はロシアによって影響も変化も受けていないことを言い忘れた。ロシアと歪んだヒラリー・クリントンと民主党全国委員会(DNC)、民主党の共謀に過ぎないということを。(その疑惑の数々を示す)汚れた文書、ウラン、演説、電子メール、ポデスタ・グループを忘れるな」(2月18日)

これに対してボルトン氏はツイッターで声明を発表しました。トランプ大統領はひげ面が大嫌いですが、ボルトン氏は口ひげがトレードマークです。2人の関係は上手くいくのでしょうか。

「トランプ大統領に国家安全保障担当大統領補佐官の就任を要請されて光栄だ。謹んでお受けする。アメリカは幅広い問題が山積している。トランプ大統領とそのチームと一緒に、アメリカをより安全にし、海外でより強くする努力をするという複雑な挑戦に取り組むのを楽しみにしている」

レックス・ティラーソン国務長官に続いて、トランプ政権の外交・安全保障政策に安定感を与えていたマクマスター氏まで更迭されると、安心して見ていられるのはジェームズ・マティス国防長官だけになってしまいます。軍出身のマクマスター、マティスの現実主義コンビの一角がついに崩れました。

トランプ大統領の強権支配強まる

米紙ニューヨーク・タイムズ紙によると、トランプ大統領は、マイケル・フリン国家安全保障担当大統領補佐官やジェームズ・コミーFBI(連邦捜査局)長官を更迭したのを皮切りに、ティラーソン氏、マクマスター氏を含め計18人を更迭。辞任したのは9人にのぼっています。

マクマスター氏はトランプ大統領に媚びへつらわず、説教調で見下すように話すことが大統領には我慢ならなかったようです。イランやアフガニスタンをめぐる政策で対立があったとも報じられています。

トランプ氏が大統領に就任したあとは優秀なスタッフに任せて「良きに計らえ」型のリーダーシップに移行するという楽観的な見方もありましたが、強権支配を好むリーダーとしての正体を露骨に現してきました。

ティラーソン氏の後任マイク・ポンペオ新国務長官はトランプ政権下でCIA(中央情報局)長官を務めたタカ派。国家安全保障担当大統領補佐官もタカ派のボルトン氏となると、今年中にアメリカ本土を大陸間弾道ミサイル(ICBM)で核攻撃できる能力を獲得するとみられている北朝鮮への先制攻撃はもはや避けられないという見通しが強まってきました。

ボルトン氏とマクマスター氏の違いを見ておきましょう。

【ボルトン氏】

新保守主義(ネオコン)派の代表的人物。イラク戦争をトニー・ブレア英首相との二人三脚で強行したジョージ・W・ブッシュ米大統領時代のアメリカの国連大使。イラク戦争を強く支持する。

イランと北朝鮮への爆撃を要求する「悪名高いタカ派」(英紙ガーディアン)。アメリカ単独行動主義の信奉者。右派のシンクタンク「アメリカン・エンタープライズ公共政策研究所(AEI)」の上級研究員。

米紙ウォール・ストリート・ジャーナルに2月下旬、「北朝鮮を先制攻撃する法的正当性」「自衛の必要性は手段を問わず、熟慮の時間を与えない?」と題して寄稿。「アメリカの情報機関が北朝鮮の状況を完全には把握できないと仮定するなら、最後の瞬間まで(先制攻撃を)待つべきではない」と主張する。イランへの軍事行使も容認。

中国に対しては「一つの中国」を認める外交政策の転換を唱えている。「中国はアメリカの知的所有権を盗んでいる」として手をこまぬいているのではなく、対抗措置を発動すべきだと訴えている。

【マクマスター氏】

トランプ政権内の現実主義者。現役の陸軍中将。米ニューヨーク州ウェストポイントの陸軍士官学校卒業。第一次湾岸戦争で部隊を指揮。「勇敢さを示した」としてシルバースターを授与されている。

ノースカロライナ大学で博士号を取得。ベトナム戦争に関する書籍「義務の放棄」を執筆し、ベトナム戦争は前線ではなく、ワシントンで敗けたと厳しく批判した。

戦争はワシントンから始まる

戦争はやはりワシントンから始まるのでしょうか。日本の安倍政権にも衝撃が走っているでしょう。香田洋二元自衛艦隊司令官が月刊誌『Wedge』4月号への寄稿「対話の先にある『米朝衝突』 最悪のシナリオから目を背けるな」の中でこう指摘しています。

「米国も、北朝鮮が早ければあと2、3カ月でICBMを完成させると見ている」「同盟国が反対しようとも米国は個別的自衛権を発動して北朝鮮を単独で攻撃するだろう」「相手の軍事能力を徹底的に叩き、反撃をさせない『ノックアウト作戦』以外に効果はない」

「トランプ大統領は、四半世紀にわたり弱腰姿勢であった過去の大統領と同じ轍は踏めぬと考え、実質的な放置の時代から軍事力も辞さないという転換を図っている」

北朝鮮の最高指導者、金正恩が、トランプ大統領の求める核・ミサイル開発の放棄に応じる可能性は極めて低く、トランプ・金正恩の米朝首脳会談で問題が解決されるとはとても思えません。トランプ大統領が北朝鮮を先制攻撃すれば返り血を浴びるのは韓国と日本です。

北朝鮮から核弾頭を搭載して飛んでくるかもしれない中距離ミサイル「ノドン」を自衛隊のミサイル防衛システムがすべて撃墜できるという保証はどこにもありません。ボルトン氏の人事で、北朝鮮がアメリカ本土を核攻撃できる能力を獲得するのを容認するつもりはトランプ政権にはさらさらないことがはっきりしました。

日本国民もいよいよ覚悟を決めなければならないようです。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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