さらば「男支配」#MeTooは女性のピューリタン革命だ 血祭りに上げられるセクハラ男 どうする日本

自らの性暴力被害を告発する伊藤詩織さん(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

米体操連盟元ドクターに禁錮175年

[ロンドン発]米ハリウッドの大物プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタイン氏が複数の女優に性的関係を迫っていたスキャンダルに端を発するツイッター上の「#MeToo」運動が留まるところを知りません。

これは「セクシュアル・ハラスメント(権力を笠に着て性的行為を強要すること)」というより「ペドファイル(児童性愛者)」に当たりますが、「治療」と称して156人以上の少女らに性的虐待を加えていたアメリカ体操連盟元チームドクター、ラリー・ナサール被告(54)に40~175年の禁錮刑が言い渡されました。

自由の国アメリカで、五輪金メダリストも多数、被害者の中に含まれていたというから驚きです。おかしい、嫌だと思っても、その世界で生きていけなくなるのを怖れて口に出せなかったそうです。

ロンドン・リオ五輪金メダリストのアリー・レイズマンさん(23)は法廷で「あなたは私たちの情熱と夢を食い物にした。アメリカ体操連盟も腐っている」と糾弾しました。

女性のローズマリー・アキリナ裁判官は「あなたの死の令状に署名したところよ。あなたがしたことは治療でも医療でもない。もう二度と刑務所の外に出る資格なし。どこに行っても最も弱き人を破滅させる」と断罪しました。児童性愛者のナサール被告は更生不可能と判断されました。

子供たちには、顔見知りの大人から変なことをされたら「ノー」とはっきり言って、すぐに親に話すよう教えておく必要があります。これはセクハラについても同じです。

相次ぐ疑惑男性の自殺や辞任

アメリカでもイギリスでもワインスタイン事件をきっかけにセクハラ追放の動きが一気に広がり、疑惑を投げかけられた政治家が2人自殺しました。イギリスのメイ政権の国防相と筆頭国務相も相次いでセクハラやポルノ写真所持疑惑で辞任しました。

「#MeToo」運動はセクハラ疑惑が持ち上がった男を容赦なく糾弾しています。女性たちの目は怒りに燃えています。女性たちは今こそ「ピューリタン(清教徒)革命」つまり、フェミニズム、ジェンダー・フリーの最終段階に到達する「潔癖主義革命」を貫徹する最大のチャンスだととらえているのです。

フランスを代表する往年の大女優カトリーヌ・ドヌーブ(74)とそうそうたる仏女性作家、役者、学者ら100人が男性に女性を「口説く自由」を認めるべきだと公開書簡で主張したところ「セクハラを擁護している」と批判され、ドヌーブは謝罪に追い込まれました。ブリジット・バルドー(83)も週刊誌パリ・マッチに女優によるセクハラ告発は「偽善的」と批判しました。

これに対して、イギリスで活躍する友人の女性映画プロデューサーは「彼女たちはオールド・スクールで、今の流れを全然理解していない。一昔前ならイタリア映画界では女性が朝出勤すると、ボスが『昨晩のF***(セックスのこと)はどうだった』と言ってお尻をパーンとたたくのがあいさつ代わりだった。でも時代は変わったわ」と振り返ります。

先の米ゴールデングローブ賞授賞式に、人気映画シリーズ「ハリー・ポッター」でお馴染みのエマ・ワトソン、「ブラック・スワン」でアカデミー主演女優賞を獲得したナタリー・ポートマンら女優陣が黒色のドレスで出席しました。セクハラへの一斉抗議です。アカデミー賞の常連、メリル・ストリープ(68)も連帯の印として黒を着ました。

革命に犠牲は付き物

「これが時代に遅れたフランス女優と、今も第一線で活躍するストリープの違い。革命とは行き過ぎるもの。濡れ衣で犠牲になった男の人はかわいそうだけれど」と女性映画プロデューサーは解説します。

英BBC放送では中国総局長を務める女性キャリー・グレーシーさん(55)がBBCによる給与の男女格差に抗議して総局長ポストを辞しました。グレーシーさんは中国総局長に留まるよう、現在の給与13万5,000ポンド(約2,000万円)に4万5,000ポンド(約690万円)を上積みすると提示されましたが、断ったそうです。

北米総局長や中東総局長の男性記者はそれぞれ20万~24万9,999万ポンド(約3,000万~3,800万円)、19万9,999ポンド(約3,000万円)が支給されていました。男性と女性でどうしてこれだけ給与が違うのかグレーシーは納得がいきません。「同一労働同一賃金」が実現されないと、男支配社会がいつまでも続くことになります。

結局、20万~75万ポンドをもらっていた男性プレゼンター6人が男女平等を実現するため自主的に減給に応じました。

あのフィナンシャル・タイムズ紙の女性記者が潜入取材

日経新聞に買収された英高級紙フィナンシャル・タイムズは裕福なオール・メンズ・クラブのチャリティー・ディナーに女性記者2人を送り込み、大衆紙のタブロイド顔負けの潜入ルポを書きました。360人の男性ゲストに対して、ピチピチの黒服を身につけさせられたコンパニオンが接客します。

このチャリティー・ディナーはもう33年も続く伝統行事で、ボリス・ジョンソン外相との昼食やイングランド銀行(英中央銀行)のマーク・カーニー総裁とアフタヌーン・ティーをする権利がオークションにかけられました。

高級ホテルの会場では男性のエリート層が信じられないような行為に及びます。男たちはコンパニオンたちの体をまさぐってセクハラ行為をしたり、体の関係を求めてきたりしたのです。男性器を出してコンパニオンに見せたという証言もあったそうです。

まさに男至上主義(ファロクラシー)そのものです。教育省から閣外相も出席していました。このチャリティーは解散すると発表しました。

今回、ファロクラシーを完全に終わらせる革命、フェミニズムの新たな波が起きているのかもしれません。明治大学図書館の「ジェンダー論」堀口悦子著などによると、フェミニズムには大きく分けて第一の波と第二の波があるそうです。

フェミニズム第一の波

フェミニズム第一の波は19世紀にアメリカやイギリスで女性の参政権や財産権を認めさせる運動が展開され、日本やその他の国でも同様の運動が起きます。

イギリスのマンチェスターでは1903年、女性参政権を求める「女性社会政治連合(WSPU)」が結成され、「言葉より行動を」を合言葉に掲げました。労働者階級の女性たちが中心になってハンガー・ストライキ、爆弾・放火・器物損壊闘争、自殺といった過激な行動を展開します。

治安当局から「テロリスト」として監視され、彼女たちは「サフラジェット」と呼ばれました。

フェミニズム第二の波

フェミニズム第二の波は1960年代以降、アフリカ系アメリカ人の公民権運動やベトナム反戦運動に連動する形で、アメリカで起きます。女性も「アフリカ系アメリカ人」と同じように白人男性の下の「二級市民」に置かれていることに目覚め、反旗を翻します。ウーマン・リブとも呼ばれ、男女平等の促進、雇用、教育における女性の平等を目指しました。

1990年代に、個人主義や多様性を尊重する第三の波が起きたという指摘もあります。

今回の「#MeToo」運動の本質は、男女平等の社会を実現しようと思えば、その中核にある男支配を絶たなければダメだと女性が覚悟を決めたことにあるのかもしれません。フェミニズムが最終段階を迎えるという意味で非常に大きな意味を持っています。

家父長制が色濃く残る日本では伊藤詩織さんの実名レイプ告発、はあちゅうさんのセクハラ告発への風当たりが強いようです。日本は海外の動きに呼応するのでしょうか。アメリカやイギリスの「#MeToo」運動がどんな形で、どこまで突き進むのかますます目が離せなくなってきました。

(おわり)