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ビットコインは生き残るか GDPの2倍を超えた中国の債務問題はいつ火を吹く「和製ソロス」に聞く(中)

木村正人在英国際ジャーナリスト
乱高下するビットコイン(イメージ)(写真:中尾由里子/アフロ)

[ロンドン発]ロンドンに本拠を構える債券では世界最大級ヘッジファンド「キャプラ・インベストメント・マネジメント」共同創業者、浅井将雄さんに乱高下を繰り返す仮想通貨ビットコインと民間の債務レベルが国内総生産(GDP)の2倍を超えた中国経済について語ってもらいました。インタビューの2回目です。

――中国や韓国で仮想通貨ビットコインの規制が強まっています。仮想通貨の未来をどう見ていますか

「仮想通貨は実は今までにいくつもあって、日本でもJR東日本の電子マネー・スイカ、楽天Edy(エディ)などがあります。1サービス(通貨単位)=1円、資産浮揚効果がないものを仮想通貨として使ってきました。そのベースにあるのはICT(情報通信技術)と記帳による資産価格の確定が1サービス=1円を可能にしてきました。ICTの革新によって銀行や信用機関に資金を託さなくても資産の保全が可能になってきました。その技術がブロックチェーンの1つです」

「1通貨単位=1円というのは MUFG コインも1MUFGコイン=約1円で使える。100MUFGコインを約100円で使えるようにすると普通の人には分かりやすいわけです。1ビットコイン=1万9,000ドルになるから、価値が増減する投機対象になるということです」

「ある一定の資産が確実にAという人から Bという人に移すことができて、それが財産保全に有効だという特徴がビットコインにはあって、それが資産価格を大きく引き上げたのだと思います。20倍になった、いや、その前から見ると何百倍になったと報道が過熱している状況です。もともとブロックチェーンなる新技術に対する投資としてその価格が100倍、200倍になるのは あり得る話です」

「ブロックチェーンという新技術に裏打ちされた仮想通貨の成功は、適正価格が分からないために大きく報道されています。新技術を伴った新しい通貨が出ること自体は新しい世代や我々も含めて受け入れていかなければならないかなと思っています。1BTC(ビットコインの単位)=1万9,000ドルまで上がって今、1万4,000ドル、1万3,000ドルぐらいまで下がっています」

「価格のボラティリティ(変動の激しさ)には問題がありますが、それだけ新しいお金が入ってきているということです。資金が入ってこないものにこれだけの暴騰は起こりません。それだけの資金が入ってくるということは世界中に認められている証左ではないかと思います。需要と供給のバランスが今は出ていません。ビットコインはもともと2,100万枚しか発行できないというロジックがあります。需要が多くなれば、必然的に価格が高騰します」

「しかしビットコインに代表される仮想通貨には非常に難しい計算をするために電気を大量に消費するので電気料金に比例したような形でマイニングがされているというグレーゾーンがあります。最初のロジックが供給量の壁になっているので、そのロジックをどういう形で超えていくか。これだけしか絶対量がないと当然高騰します」

「金本位制は金がこれだけあって通貨をこれだけ発行するという仕組みで、1970年代まで採用されていました。それをなくして中央銀行の信用によって通貨を発行してそれを使う、中央銀行がゴールドに基づかない信用通貨を使うことが主流になってまだ50年の歴史しかありません。ここにブロックチェーンという新しい技術が来たという認識をしておくべきで、ブロックチェーンが他のすべての技術を凌駕するかどうか、新技術として確定するかどうかもまだ分かりません」

「例えばNTTドコモが1999年に日本国内でサービスを開始したiモード。素晴らしいサービスで今、スマートフォンでやっているのと変わらない技術を持っていたのですが、タイミングやサービスが十分に成熟していなかったため、デファクト・スタンダードを取れませんでした。今のスマホブームにドコモが乗れなかったのと同じようにブロックチェーンがデファクト・スタンダードを取れるかどうかは分かりません」

「しかしブロックチェーン2.0のようなものが実際の記帳に役に立つようになれば、それを中央銀行が採用するようなことは十分にあり得えます。ビットコインブームのような仮想通貨元年は終わるかもしれませんが、仮想通貨自体がなくなっていくことはないと思います。ただビットコインという仮想通貨にはマイニングの不透明さが残るため、中国ではもうマイニングを禁止するような動きになっています」

「ブロックチェーン自体に接続するデータの管理に不備があり、そこを韓国では狙われてハッキングされました。ブロックチェーン自体が破られたわけではないのですが、そこに接続するICTの情報が破られ、韓国が規制せざるを得なくなりました。そうした中で、ブロックチェーンを使った仮想通貨はまだ市場として確立されたものではありませんが、ある一定の社会的地位は得つつあるというのは間違いないと思います」

「もともと僕自身は通貨が消費者物価指数(CPI)の変動幅に連動していてもおかしくないと思っています。CPIが上昇すると通貨の価値が下がりますが、中央銀行の発行するコインの価値がインフレに連動すると通貨はインフレによって目減りしなくなるのでメリットがあるのではないかと考えています。インフレ予防型の仮想通貨が出てくる可能性があります」

――中国の李克強首相は2017年の中国の経済成長率が6.9%前後になったと述べました。中国の債務は国によって管理されており、短・中期的にはそれほど大きな問題にはならないような気がするのですが

「バブルという言葉を使うのが皆さん好きですよね。中国の債務がバブルですか、バブルじゃないですかというと何とも言えませんが、債務レベルは非常に高い。民間債務がGDPの2倍を超えていて、これは日本でバブルが発生した時の水準と同じで、高いか低いかと言えば明らかに高い」

「資産価格の調整に寄与するかどうかと言えばイエスです。中国の不動産は調整局面がいつか来ます。それは避けられないと思います。なぜかと言うと例えば10億人民元の不動産が100億人民元になってそれを担保に100億人民元の不動産を買って、新たに100億人民元の借金ができて債務が増えているからです。民間債務がこれだけ膨れ上がったら、どこかの段階で縮小する、経済の調整にある一定の影響を与えるのは避けられません」

「これをバブルと言うかどうか。日本の不動産はバブルでした。中国の債務をバブルと呼ぶかどうか。バブルの定義なんてないので、たぶん今までバブルといえるのは17世紀のチューリップ・バブルと日本の不動産バブルぐらいしかありませんでした。リーマン・ショックにバブル崩壊という言葉が使われていますが、少し異質だと思います。世界的に恐慌が広がることと資産価格が長期にわたって10分の1になって上がらなくなるというのとは違います」

「中国では当局がコントロールしているから大丈夫かって言うと上海の株価指数でも5,000を超えていたのに3,000を割ったことがあります。50%近く下がるんです。しかしこれがバブル崩壊かというと違って大きな調整があったと言われました。大きな調整は来ますけどバブルの崩壊ではないわけです」

「中国経済は今年6.9%成長していますが、4%、3%になる局面は来て、債務過剰の問題が景気の悪化とともに資産価格の大きな調整が行われます。高金利で資金が借りにくくなると今のレバレッジが解消されて当然、保有している人は物件を売らなければならなくなります。不動産価格が1割下がれば売る、2割下がればもっと売らなければならなくなるということで大幅な価格調整、数十%の価格調整は十分に可能性があります。しかし10分の1になってそれがもう戻ってこないと言うことはないとは思います」

「中国が途上国であった中から世界の強国になっていく過程の中で実際に経済成長をしているわけです。GDP 自体も20年で10倍とかになってきたので、不動産が10倍になっても全然おかしくありません。不動産の価格が今からある一定以上の調整をしても10分の1で停滞してしまうような経済活動の底上げを伴っていない価格高騰ではないと思います。日本のバブル崩壊は成長率が5%超から1~2%に下がってくる過程の中で起きたことです。中国はまだその状況に到る過程ではないと思います」

――米中逆転は必然でしょうか

「軍事力の蓄積でみると米中逆転が起きるのは2040年とか2050年とか言われていますが、その時はシンギュラリティ(人工知能の急速な発達が人類に計り知れない変化をもたらすという仮説)の話も出てきて国自体のあり方が変わってくるのかなと考えています。軍事力で近い将来中国がアメリカを抜いていくことはないと思いますが、GDPだけで見れば2030年には中国はアメリカと並びます」

「1人当たりのGDPではアメリカ4万ドル超に対して中国はやっと1万ドルに達しようかというところです。しかしそれが1万5,000ドルになるだけで世界最大のGDPになるわけです。2030年にはGDPの米中逆転は起きますが、1人当たりGDPで中国がアメリカを抜くには2080年とか2090年になるのでしょうが、その時はインドのGDPが中国より大きくなっているかもしれません」

――米中ICT戦争が激化しています

「アメリカがフロントランナーであるのは間違いありません。シリコンバレーを中心としたICTにも集積があります。規模の面では市場として中国は大きいので同じサービスを立ち上げても、ライドシェアリングでも中国の売り上げの方が大きくなってしまう状況があります。中国でも半導体を作っている企業が100ぐらいありますが、インテル、クアルコムは企業規模ではまだまだ大きく、メーカーとしての機能をとってみるとアメリカの方が全然、上だと思います」

「消費市場としては大きいのでテンセントとかアリババ、アプリを使うようなサービスのマーケットの大きさでいうと非常にインパクトがあります。フェイスブックやグーグルを追従するような形でテンセントやアリババが伸びてきているのは事実です。しかしながらICTだけで言うと、マニュファクチャラー、新しいモノを作り出す力でいうとまだまだアメリカの方に分があるのではないでしょうか」

――日本企業は中国でのビジネス展開に非常に慎重になっていますが

「日本は中国を安い賃金の生産拠点としてしか見てこなくて、中国で部品を作って日本で加工するとか、中国で作ったものを世界に輸出することしか考えてきませんでした。中国で作ったものを中国で成功させようとしたことは日本の企業では極めて少ない事例だと思います。中国の企業もアメリカの企業も中国で作って中国で売ろうとしています」

「1990年代から日本は生産拠点としてしか中国に注目してきませんでしたが、リーマン・ショック近辺からあわてて消費マーケットとしての中国に注目するようになりました。日本企業は追っかけて参入している状況で、同じ土俵に立つとなかなか勝てない。もう少し早く消費地として中国に期待をしていたら違ったのでしょうけれども、すでに日本が売るもの、携帯電話でも、テレビのような家電製品でも彼らの方が良いものを作る、技術的には追いつかれてしまっています」

「今中国のマーケットに食い込んでいるのは資生堂やハウス食品など一部の企業で、自動車メーカーも頑張っていますが、新たに日本の家電製品を売っていくのは非常に難しくなってきています。テクノロジー競争の投資額で日本は中国に全く太刀打ちできません。歴史的に驚異のガラパゴス化が進んでいるので、グローバルに打って出るのがなかなか難しい状況です」

「アメリカではアメリカ企業とタイアップしてきましたが、中国企業とタイアップしていきながら中国市場に本格的に参入できている企業というのは非常に数が少なくて、逆に合弁企業でしかできなかったのですべての自動車メーカーが合弁企業を作って比較的中国に浸透しています。中国の外資規制政策が幸いしたわけです」

「積極的に打って出ている代表例としては伊藤忠などがありますが、数が限られていると思います。中国を消費地とみなすアプローチが遅れたために中国の消費市場に参入していく障壁は大きいと思います。参入が遅れたのは中国の成長が極めて急だったからだと思います。2000年までは日本企業が絶好調でした」

「バブル崩壊前はもっと良く、1996~97年に起きた金融危機の前までは日本経済は世界に打って出る力がありました。日本で起きた金融危機で日本の金融機関が大きく淘汰されている間に日本企業が外に出ていく土台、新たな消費地を開拓していくことがなかなかできなくて、それで遅れを取ったのではないかと思っています」

浅井将雄(あさい・まさお)

筆者撮影
筆者撮影

旧UFJ銀行出身。2003年、ロンドンに赴任、UFJ銀行現法で戦略トレーディング部長を経て、04年、東京三菱銀行とUFJ銀行が合併した際、同僚の米国人ヤン・フー氏とともに14人を引き連れて独立。05年10月から「キャプラ・インベストメント・マネジメント」の運用を始める。ニューヨーク、東京、香港にも拠点を置く。

(つづく)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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