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スペイン・カタルーニャ州議会選 独立派3党が過半数獲得

木村正人在英国際ジャーナリスト
カタルーニャ伝統の糞ひり人形になったプチデモン前州首相とラホイ首相(筆者撮影)

[バルセロナ発]独立問題で揺れるスペイン北東部カタルーニャ自治州議会選(定数135)の投票が12月21日行われました。有権者数は550万人。午前9時から午後8時まで投票が行われ、投票率は平日にもかかわらず午後6時時点で史上最高の68.3%、推定で80%を超えそうです。速報された出口調査の結果、独立派3党が過半数を獲得する見通しです。

草の根独立運動市民団体・カタルーニャ国民会議(ANC)の広報責任者は筆者の取材に独立派3党で68議席を獲得すると話しました。

午後6時時点の投票率

2017年68.3%

2015年63.1%

2012年56.3%

2010年47.2%

バルセロナの投票所は午前中、大混雑していました。スペイン中央政府の介入がないかを見張るため、独立派政党のボランティアが多数見守る中、有権者が列を作りました。

候補者の名前が列挙された政党の投票用紙を一つだけ封筒の中に入れて投票する仕組みです。秘密投票とは名ばかりで、カーテンで覆われたブースを使用する人はほとんどおらず、どの政党に投票したかすぐに分かります。カタルーニャ社会は独立派と独立反対派で真っ二つに分かれています。

これは民主主義のかたちをとったカタルーニャ独立派とスペイン統一派の「内戦」なのです。和解するのは口で言うほど簡単ではありません。

ANCの集票センター(筆者撮影)
ANCの集票センター(筆者撮影)

ANCの集票センターをのぞくと、300人のボランティアがコンピューター端末の前で全州8,000の投票所から報告されてくる1票1票を集計していました。ANC広報責任者の大学教授は「不正が行われていないかチェックするため計5,000人のボランティアが参加しています」と教えてくれました。

投票するANCのアグスチ・アルコベロ副議長(筆者撮影)
投票するANCのアグスチ・アルコベロ副議長(筆者撮影)

ANCのアグスチ・アルコベロ副議長は筆者のインタビューに「今回の州議会選は10月の独立住民投票に続く、2回目の住民投票だ。独立派が勝てば、独立プロセスが有権者によって承認されたということです」と話しました。

午後8時に発表された出口調査の結果は以下の通りです。

独立派3党 

プチデモン前州首相(ANCのアーカイブより)
プチデモン前州首相(ANCのアーカイブより)

カタルーニャのための団結(JxCat)カルラス・プチデモン前州首相28-29議席

ERC 34-36議席

CUP 5-6議席

計67-71議席

独立反対3党

旋風を巻き起こしたイネス・アリマーダスさん(筆者撮影)
旋風を巻き起こしたイネス・アリマーダスさん(筆者撮影)

シウダダノス(Cs)イネス・アリマーダスさん 34-37議席

社会労働党(PSC)18-20議席

国民党(PP)3-5議席

計55-62議席

中立

ポデモス(Podem) 7-8議席

9割が独立に賛成した10月1日の「非合法」住民投票を受け、同月27日に州議会が独立宣言を承認。これに対して、スペイン中央政府は憲法155条を発動して自治権を剥奪、州議会を解散し、プチデモン州首相やカルマ・フルカデイ州議会議長ら計20人を国家反逆罪、扇動罪、公金不正使用罪で起訴するという強硬手段に打って出ました。

現行のスペイン憲法下では一部地域の独立は認められておらず、有罪になると最長で計51年も投獄されるという重罪です。マドリードにあるスペイン全国管区裁判所はプチデモン州政権の閣僚8人を拘束。現在もANCなど市民リーダーら2人を合わせて4人が投獄されています。プチデモン氏らはブリュッセルに逃亡中です。

ポイントはアリマーダスさんのシウダダノスがどこまで無投票層を掘り起こせるかでした。2週間の選挙運動のため200万ユーロがつぎ込まれたシウダダノスは、政党主導ではない草の根の独立運動を止めることはできませんでした。

カタルーニャ独立をシングルイシューにするJxCatも、独立反対をシングルイシューに掲げるシウダダノスも独立・独立反対という以外のプランを何一つ持っていません。

独立派3党が独立に向けた歩みを止めることは絶対にありません。スペイン全体ではカタルーニャ独立派は少数派ですが、カタルーニャでは独立派が主導権を握るという逆転現象が起きています。

今後、連立協議が始まりますが、プチデモン氏が再び州首相になるかどうかは分かりません。

バルセロナのランブラス通りにはクリスマス恒例のカガネル(糞ひり人形)が登場、プチデモン氏とマリアーノ・ラホイ首相が仲良く並んで糞をひっていました。来年の豊穣と繁栄を願うカタルーニャの伝統行事です。

カタルーニャにネーションとしての独立を認めた上でスペインに残るという「ウルトラC」でもラホイ首相が打ち出さない限り、膠着状態は延々と続きます。しかしカタルーニャ以外では反動としてスペイン・ナショナリズムが強まっており、ラホイ首相が妥協するのは非常に難しい状況です。

糞ひり人形のように仲良く話し合ってくれると良いのですが、自治権が回復するのか否かも含め、今のところカタルーニャ独立問題は出口が全く見えない状況です。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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