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本気度示すトランプ「すべての爆弾の母(MOAB)」使用 オバマとの違い強調

木村正人在英国際ジャーナリスト
アメリカ軍がアフガンで「MOAB」使用 (資料・提供写真)(提供:U.S. Air Force/ロイター/アフロ)

大規模爆風爆弾

アフガニスタン駐留米軍は13日、現地時間の午後7時32分、パキスタン国境近くのアフガン東部ナンガルハル州アチンの過激派組織「ISIS-K(イラクとシリアのイスラム国ホラーサーン・プロビンス)」の隠れ家であるトンネル網を、通常兵器の中では最大級の破壊力を持つ「GBU-43/B大規模爆風爆弾(MOAB)」で攻撃したと発表しました。

 GBU-43/B MOAB(アメリカ空軍兵器博物館HP)
GBU-43/B MOAB(アメリカ空軍兵器博物館HP)

「MOAB」はイラク戦争で初めて配備されましたが結局、使用されず、実戦で使われたのは今回が初めてです。アメリカ空軍の特殊作戦機MC-130コンバット・タロンから投下されたと報じられています。「MOAB」が2003年に初めてテストされた時の映像がインド最大の通信社PTI NewsによってYouTubeで公開されていますので、興味のある方は是非、御覧ください。

ISIS-Kは主にイスラム教スンニ派過激組織「パキスタン・タリバン運動(TTP)」やアフガン・タリバンで構成され、「ホラーサーン・グループ」としても知られており、アフガンやパキスタンを拠点にしています。

グーグルマイマップで作成
グーグルマイマップで作成

アフガン駐留米軍のニコルソン司令官は「ISIS-Kの損失は大きい。彼らは守りを固めるために即席爆弾や地下の掩体壕(えんたいごう=装備や物資、人員を敵の攻撃から守るための施設)、トンネルを使っている。こうした障害を取り除き、ISIS-Kを攻撃する私たちの勢いを維持するためにはMOABは正しい兵器だ」と「MOAB」を初めて使った理由を話しています。一般市民に巻き添え被害が出ないように用心して「MOAB」を使用したことも強調しています。

全長20フィート(約6メートル)のGBU-43/Bは地中200フィート(約60メートル)、コンクリートでも60フィート(約18メートル)まで穿つ威力がありますが、いわゆる地下貫通弾ではなく、洞窟や深い渓谷を爆撃するのに向いています。洞窟や渓谷に潜むアフガンの武装勢力を攻撃する最適な兵器だそうです。

「オバマの8年間と比べてみろ」

一方、アメリカの大統領トランプは米メディアに対し「我々は我々の軍を非常に誇りに思う。これは(シリア空爆に続く)もう一つの成功だ」「我々は軍に全てを任せている。率直に言って、それが最近、上手く行っている理由だ。この8週間と(前大統領オバマの)8年間を比べてみろ。大きな違いが分かるだろう」と胸を張っています。

6回目の核実験を準備している北朝鮮への警告か、と質問されたトランプは「MOABの使用が北朝鮮へのメッセージになったかどうかは分からない。メッセージになってもならなくてもどうでも良いことだ。北朝鮮は問題だ。問題を注視していく。中国は(北朝鮮の核実験を止めるために)よくやってくれている」と話しました。

米雑誌ナショナル・インタレストによると、GPS(全地球位置把握システム)を使った精密誘導爆弾のGBU-43の重量は2万2600ポンドで、このうち爆薬H-6の重さが1万8700ポンドです。開発された当初、GBU-43/Bは核兵器を除く通常兵器の中では最大の破壊力を持っていたため、「MOAB」をもじって「すべての爆弾の母(Mother of All Bombs)」と呼ばれていました。

しかし、今ではもっと破壊力がある爆弾が開発されているそうです。ちなみに、厚さ200フィート(約60メートル)の強化コンクリートを貫通する「GBU-57A/B 大型貫通弾 (MOP)」の重量は3万ポンドで、このうち爆薬は5300ポンドです。同じく大型貫通弾のGBU-57も開発されています。

ロシアもGBU-43/Bより小ぶりなものの、爆発力のある燃料気化爆弾(ATBIP)を開発しています。「すべての爆弾の母」の向こうを張って「すべての爆弾の父」と呼ばれています。ATBIPの爆発力はトリニトロトルエン8万8000ポンドに相当し、「MOAB」の4倍だそうです。しかし、核兵器は「MOAB」と比べものにならない破壊力を持っているのは言うまでもありません。

棍棒外交

アフガンのナンガルハル州では4月8日に、アメリカ陸軍の特殊部隊員が戦死したばかりです。アフガンでのアメリカ兵の死者はこれまでで2216人にのぼっています。トランプ政権は、武力行使をためらったオバマとは異なり、必要な時に必要な武力行使はためらわない断固たる姿勢を強調しています。これは先のエントリーでも指摘したように、アメリカの「世界の警察官」復活宣言です。

第26代アメリカ大統領セオドア・ルーズベルト(1858~1919年)の主張した棍棒外交を思い起こさせることで、核・ミサイル開発を急ピッチで進める北朝鮮と、核開発の疑念が残るイランだけでなく、ウクライナやシリアで軍事力を行使するロシア、北朝鮮を甘やかし、南シナ海の要塞化を進める中国を牽制する狙いがあるのは言うまでもありません。

しかし、アメリカが単独行動主義に走ると弊害も大きくなるため、北大西洋条約機構(NATO)や日米同盟を軸にスクラムを組んでいく必要があります。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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