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英女王90歳の誕生日 「王室の怠け者」批判にウィリアム王子が弁解 メディアとの冷戦激化

木村正人在英国際ジャーナリスト
シャーロット英王女洗礼式 一家「4ショット」初お披露目(写真:代表撮影/Splash/アフロ)

ウィリアム王子が弁解したワケ

英国のエリザベス女王は21日、90歳の誕生日を迎えます。世界の君主の中でエリザベス女王は最高齢。英国君主としての在位期間も昨年9月、ビクトリア女王の63年7カ月の記録を更新しました。

ウィリアム王子と妻キャサリン妃の長男ジョージ王子(2)=王位継承順位3位=はエリザベス女王のことを「ガンガン」と呼んでいるそうです。キャサリン妃が、エリザベス女王の誕生日を祝うインタビューの中で明らかにしています。

ウィリアム王子とキャサリン妃が家族で出掛けている間、エリザベス女王は小さな贈り物を部屋に置いてくれているそうです。「家族への愛が伝わってきます」とキャサリン妃は話しています。

シャーロット妃も昨年5月に誕生し、順風満帆に見えるロイヤル・ファミリーですが、家族を最優先にするウィリアム王子と英メディアの関係は極度に悪化しているようです。

ウィリアム王子はエリザベス女王の誕生日を祝う英BBC放送のインタビューの中で、「公務と責任を真剣にとらえています。時期がくれば公務は増やします」と語りました。

「今は父親であることと救急ヘリの操縦士の仕事に集中しています」「エリザベス女王が責任を私たちに譲り渡す日がくれば、私が真っ先に引き受けるでしょう」

「もし注意深くなければ、早い段階で公務に押し潰されてしまうでしょう。公務は少しずつ増やしていかなければなりません」「エリザベス女王からは強い影響を受けました。母親のダイアナ元皇太子妃を亡くした時もエリザベス女王は支援してくれました」

「王室の怠け者」

「パパラッチ」と呼ばれるカメラマン集団に追い掛け回されるという異常な状況下で最愛の母親を亡くしたウィリアム王子は英メディアに対して強い警戒心を抱いています。ジョージ王子とシャーロット王女のメディアへの露出も少なく、英メディアのフラストレーションは頂点に達しています。

「仕事嫌いのウィリアム」「王室の怠け者」という見出しがいつしか「タブロイド」と呼ばれる英大衆紙を飾るようになりました。救急ヘリの操縦士の仕事も4日勤務、4日休みで週実労20時間です。「ウィリアム王子の休みは私たちより多い」という同僚の不平不満も報道されました。

英大衆紙サンによると、エリザベス女王の夫、フィリップ殿下は昨年、94歳の高齢にもかかわらず、年に250回の公務(国内217回、海外33回)をこなしました。これに対してウィリアム王子は122回の公務(国内87回、海外35回)しか担当していません。キャサリン妃は国内の62回だけです。

ロイヤル・ファミリーの中でも最も忙しいのはアン王女で公務544回(国内456回、海外88回)。2位がチャールズ皇太子の527回(国内380回、海外147回)。エリザベス女王は4位で341回(国内306回、海外35回)です。

出典:サン紙データをもとに筆者作成
出典:サン紙データをもとに筆者作成

お忍びの家族スキー旅行

特に今年に入ってウィリアム王子が初めて公務を行ったのは2月中旬に差し掛かってからです。王室担当記者の堪忍袋の緒がついに切れたのがお忍びでの家族スキー旅行でした。

怠け者ウィリアム王子がお忍びで家族スキーと伝える英大衆紙デーリー・スター
怠け者ウィリアム王子がお忍びで家族スキーと伝える英大衆紙デーリー・スター

英王室は3月7日、ウィリアム王子とキャサリン妃、ジョージ王子、シャーロット王女のスキー休暇の写真を公開しました。ジョージ王子とシャーロット王女にとっては初の雪遊びでした。しかし王室担当者が知らされたのは4人が英国に戻ってからだったのです。

「忙しいだって?」家族スキー旅行を批判的に伝える英大衆紙サンの1面
「忙しいだって?」家族スキー旅行を批判的に伝える英大衆紙サンの1面

家族は同月3日、フランス南東部にある世界最大のゲレンデ、トロワ・ヴァレーに着きました。翌4日、ウィリアム王子とキャサリン妃はお気に入りの英国内通信社PAのカメラマン1人だけを呼んで写真を撮らせ、6日に帰国。7日にお気に入りのカットを選んで公開しました。

これまでダイアナ元妃が存命中(1992年)も元妃が亡くなってから(2005年)も家族スキー旅行は英メディアを同行するのが慣例になっていました。ウィリアム王子とキャサリン妃に蔑ろにされてしまった英メディアと王室担当記者はここぞとばかりに怒りを爆発させます。

ダイアナ元妃の交通事故死という悲劇を教訓に、英メディアは英王室との共存共栄を図るようになり、行き過ぎた取材や報道を控えてきました。しかし、こうした紳士協定は、マスコミ嫌いのウィリアム王子に完全に無視されてしまうかたちになりました。

「思い上がるなウィリアム」

著名ジャーナリスト、ピアーズ・モーガン氏はデーリー・ミラー紙に「ウィリアムとケイトは思い上がっている」というコラムを寄稿し、「英王室はメディアに書いてもらってナンボの商売だ。王室だけでやっていけると考えているとしたら思い上がりも良いところだ」と警告しています。

サン紙のコラムニスト、ジェーン・ムーア氏も「普通の生活は結構なことだ。でも忘れてもらっちゃあ、困る。お前たちの代金を払っているのは私たちということを」と厳しく指摘しました。

自分の苦い経験からジョージ王子とシャーロット王女をできるだけマスコミにさらしたくないというウィリアム王子の気持ちは十分に理解できます。しかしメディアと良好な関係を保つことも将来の王位継承者として学ぶ必要があるのではないのでしょうか。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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