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テロ連発も過激派組織ISの懐具合がおかしくなってきた 鞭打ち刑の代わりに罰金徴収

木村正人在英国際ジャーナリスト
ISの収入源(IHS提供)

月25億円の減収

ベルギー連続テロで犯行声明を出した過激派組織ISの毎月の収入が昨年、30%近く減り、日本円にして25億円の減収になっていたことが米情報会社IHS の分析で分かりました。石油の生産量も米国が主導する有志連合の空爆で1日当たり3万3千バレルから2万1千バレルに下がったそうです。

ベルギー連続テロ(ISのオンライン機関誌DABIQ)
ベルギー連続テロ(ISのオンライン機関誌DABIQ)

IHS紛争モニターによると、2015年半ばにはISの月々の収入は約8千万ドル(約86億円)でしたが、今年3月には5600万ドル(約61億円)に減りました。石油と天然ガスによる収入が26%減、徴税と没収による収入が23%減、その他収入も67%も減り、全体で3割近く収入が減りました。

ISの収入源の約半分は支配地域での徴税と没収によるもので、43%は石油や天然ガスの販売収入に依存しています。残り約7%は密輸や電気の販売、寄付による収入です。

「長期的にISが支配地域を維持するのは難しい」

IHSのルドヴィーコ・カルリーノ上級アナリストは「ISはまだ地域を支配するパワーを持っています。しかし収入の減少は注目に値する数字で、長期的にISが支配地域を維持するのは難しくなってくるでしょう」と指摘しています。

赤色が、ISが失った地域(IHS提供)
赤色が、ISが失った地域(IHS提供)

コロンブ・ストラック上級アナリストは「ISは過去1年3カ月の間に22%の支配地域を失いました。人口は約900万人から約600万人に減少しました。課税できる人やビジネス活動が少なくなり、没収する建物や土地が減りました」と分析しています。

ロシアの空爆よりも、米国が主導する有志連合の空爆でISの石油生産は大きな打撃を受けました。が、ISが懸命に生産設備を修理し、生産能力の維持に努めているため石油生産は完全にストップしたわけではありません。

ISが減収分を補うため石油の販売価格を上げなかったのはシリアやイラクの闇市場の需要が減ったからではなく、ISが現金収入を得るのを最優先課題にしたからだとカルリーノ上級アナリストは分析しています。

課税や没収、石油・天然ガス販売による収入減は、誘拐や薬物の密売、銀行口座や取引への課税による収入にも影響を与えています。

資金繰りに窮したISは基本的なサービスへの課税を強化し、住民から上納金を巻き上げる新しい方法を編み出しています。トラック運転手への通行料や衛星放送の受信アンテナの修理や設置、街を脱出しようとした際にも税金をかけるようになったそうです。

コーランに関する質問に間違えると罰金

また、減少した収入を埋め合わせるためISは罰金を強化しました。 道路の通行するサイドを間違ったり、イスラム教の聖典コーランに関する質問に答えられなかったりした場合、罰金を科せられます。

イスラム法で定められた鞭打ちや石打ちによる死刑などハッド刑の代わりに現金で罰金を徴収し始めたそうです。ハッド刑はイスラム法に基づくIS統治の根幹をなすものですが、罰金に代えたことはISの資金繰りがいかに窮しているかを物語っています。しかし今のところ、ISの課税強化で支配地域の住民の不満が高まっているかどうかは分からないということです。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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